秋田・弁護士刺殺 二審破棄し差し戻し 最高裁
秋田市の弁護士刺殺事件で殺人罪などに問われた無職菅原勝男被告(70)の上告審判決で、最高裁第3小法廷(大橋正春裁判長)は22日、裁判員裁判による一審判決に手続き上の法令違反があるとした二審仙台高裁秋田支部判決を破棄し、審理を仙台高裁に差し戻した。
一審秋田地裁は懲役30年を言い渡していた。差し戻し審であらためて一審の事実認定や量刑の適否を審理する。
大橋裁判長は、検察の上告に理由がないとしながらも、一審判決が起訴内容にない犯罪事実を認定し、量刑判断に盛り込んだのは違法だとした二審判決について、「一審判決は(犯罪事実として認定したのではなく)殺害行為に至る過程として認定した」として違法とは認めなかった。
さらに、検察、被告の双方が一審判決後、訴訟手続きの法令違反を理由に控訴していない点も指摘。「二審判決は法令の解釈適用に誤りがあり違法だ」と判断した。
秋田地裁は、菅原被告がためらいなく拳銃の引き金を引いた行為を事実として認定。高裁秋田支部は「起訴内容にない事実が認定され、訴訟手続きに法令違反があった」と指摘して一審判決を破棄したため、仙台高検が「訴訟手続きに誤りはなく、二審判決こそ最高裁の判例に反し違法」として上告していた。
事件は2010年11月4日、秋田市の弁護士津谷裕貴さん=当時(55)=の自宅で発生。一審判決によると、菅原被告は津谷さん宅に拳銃や剪定(せんてい)ばさみを持って侵入。拳銃は発射されず、津谷さんが被告から拳銃を奪ったところに駆けつけた警察官が、犯人と間違って取り押さえ、その隙に、被告が津谷さんをはさみで刺した。
◎妻の良子さん「夫の無念、代弁していく」
「本来の姿に戻る重要な判決。夫の無念の思いを代弁していきたい」
秋田市の弁護士津谷裕貴さん=当時(55)=が刺殺された事件の上告審判決で審理は高裁へ差し戻されることになった。
手帳にメモを取り、時折、裁判長を見つめながら判決を聞いていた津谷さんの妻良子さん(56)は22日、判決後の記者会見で差し戻し審に向けた決意をにじませた。
事件発生時、現場にいた。夫を失ったばかりの状況で取り調べを受け、現場検証にも立ち会った。にもかかわらず、秋田地裁の裁判員裁判では自身の体験とは異なる内容が判決の事実となったという。
良子さんら遺族の意見陳述も一審判決に盛り込まれなかった。差し戻し審では、心情をくみ取ってほしいという思いが強い。
「真実が明らかになってこその刑事裁判。私が現場にいて、見ていたことを聞いてほしい」と、今後の法廷で証言する機会を望む。量刑が軽くなるのではという不安も残る。それでも「遺族としてできることは精いっぱいやろうと思う」と気丈に述べた。
本筋を外れた手続き上の問題が最高裁で争われ、事実解明にはほど遠いまま、時が流れた。「全てにおいて複雑な心境だが、夫が司法の問題点を指摘してくれていると思えば、乗り越えられるかな」と語った。
2014年04月23日水曜日