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二度目の人生を異世界で 作者:まいん

勇者降臨のようなもの

深夜の襲撃その2らしい

 昼間はとても騒がしかったな、と蓮弥はベットの上で半身を起しながら思い起こした。
 リアリスを連れてドラゴン討伐に言ってから今に至るまで、リアリス本人は当然の事ながら、周囲までがっつり巻き込んで大騒ぎだったのだ。
 当たり前のことだが、ドラゴンのドラ君はあちこちにお披露目をした後はさっさと山へ帰した。
 彼がそこに存在するだけで、周囲に要らぬ緊張と警戒を生むのだから当たり前の処置だ。
 さらにエサ代が異常にかさむことも理由の一つとなった。
 一応、とは言え貴族の仲間入りをしたリアリスには国から俸給が出る。
 あまりに唐突に子爵になってしまったものだから、何も用意していないリアリスには、俸給の他に国から支度金として、かなりまとまった額の金額が下賜されていた。
 そのお金で、身分に見合った服や装飾を購入するように、というわけだ。
 リアリスはそれまでは冒険者育成学校の教員用の寮住まいだったのだが、流石に貴族の位に在る者がそれでは不味いだろうと屋敷も用意された。
 本来ならば居住区、それも貴族等が住んでいる高級居住区に住まいを提供されるはずだったのだが、ここで問題が発生する。
 有事にはドラゴンが発着するかもしれないリアリスの屋敷には、ドラゴンが取りあえずは収まるくらいの庭が必要だったのだが、これを理由にリアリスの屋敷は居住区ではなく、商業区の、しかも蓮弥の家のすぐ近くに建てられたのだった。
 そこには小さな店舗が何軒か既に建っていたのだが、話が決まるとすぐにその全てが解体されて、あれよあれよと言う間に、立派な屋敷が出来上がっていた。
 これには裏でなんらかの意図があったのだろうと蓮弥は思っている。
 推測でしかないが、おそらくは居住区にリアリスを住まわせてしまえば、人口が密集している地域にドラゴンが来ることになってしまう。
 これに住民やら貴族達やらが難色を示したのだろう。
 害は無い、味方でちゃんとリアリスの支配下にある、と分かってはいても、やはりドラゴンの姿は本能的な恐怖に訴えかけるものがあるらしい。
 軍事区がダメだったのも、たぶん同じ理由だと蓮弥は思っていた。
 商業区に居を構えることになったのは、商業区は店舗は多いが住んでいる人口自体は他の区に比べて少ない。
 何か有っても被害は少ないだろうと思われたらしい。
 ついでに、蓮弥の家の近くに作られたのは、何かあったら貴方よろしく、と言う意図が透けて見える。
 なんだかもやもやとするものを感じないでもない蓮弥であったが、友人が近くに住むと言う事は悪いことではないので、どこぞの誰かの意図には目を瞑ることとした。
 余談ではあるが、アズはリアリスの屋敷に住むことになったようだった。
 リアリスが大きな屋敷に一人で住むのは寂しいと訴えたから、と言う理由を微妙に視線をそらしつつ、頬の辺りを赤らめながら蓮弥に説明しにきたアズだったが、蓮弥以下全員のにやにやとした視線に耐え切れずに、そう言う事でそれ以上の追求は勘弁して欲しいと頭を下げる羽目になった。
 リアリスから蓮弥に支払われる報酬については、新居祝いだからと金目のもののほとんどを、蓮弥は受け取らないことにした。
 だが蓮弥がリアリスの依頼を受けるのを決めた、あの物品に関しては、他のダミーの物品と一緒に蓮弥が引き取った。
 最初は、大概のものは斬れるらしい自分の刀で、破壊することを考えていた蓮弥だったが、真偽の程は置いておくとしても、物が物だけにまず破壊できるのかどうか分からず、さらに破壊してしまった後に何が起こるか分かったものではないと言う事から、破壊を諦める。
 代わりにフラウとエミルを呼びつけて、物品の由来は話さずに非常に危険なものっぽいので、人の手に渡らないようにしたいと相談した所、エルフからもらったミスリルの残りで蓮弥が作った箱の中にそれを安置し、蓋が開かないように溶接した上からエミルがこれでもかと言うくらいのがちがちに固めた封印をかけ、フラウが庭に深い竪穴を掘って、その底にミスリルの箱を置き、徹底的に土を固めて埋めることとなった。
 固めた土の部分には、フラウが「非常に危険」と称する蓮弥には良く分からない植物を植えて、人が近寄れないようにしてしまう。

 「魔力で変異した毒草の一種みたいだねぇ。触るだけなら大丈夫だけど、切ったり焼いたりしたら……面白いことになるだろうねぇ」

 植えた草の細い葉っぱの上に、うっとりとした視線を向けながらエミルが指を沿わせる。
 蓮弥がエミルを家に連れて帰って来た時、クロワール以外の全員が、また女の子を連れて帰って来たんですか、と言う意味合いの言葉と表情を蓮弥に向けた。
 エミルの正体を知るクロワールだけが、今回の討伐の途中に出会い、ドラゴン捕獲を助けてもらった人で、しかも行く当てが無く困っている方なので、と蓮弥のフォローに回ったがあまり効果は無かったようである。
 そのエミルが、家のあちこちをフラウに案内してもらっている間に、庭に通された途端に歓声を上げて庭に植えられている草木の中へと飛び込み、終日そこから動かなくなると言う事態が発生した。
 一体何がエミルの琴線に触れたのかは他のメンバー達にはさっぱり分からなかったが、エミルは庭の草木を思う存分調べた挙句にそれらを世話しているのがフラウだと知ると、暴れるフラウを抱きかかえて、地下室を占拠し、出てきた時には何故かフラウと非常に仲良くなっていた。
 その流れでエミルの部屋は地下室と決まる。
 蓮弥からしてみれば、部屋の空きが無いのでエミルのために倉庫に使っている部分を潰して部屋を作ることを考えていたのだが、嬉々としてどこからか調達してきた家具を運び込むフラウとエミルの姿を見て、本人がいいなら別にいいか、とその件については考えるのを止めた。
 そんなんこんなで延び延びになっていたのだが、折角近くに引っ越してきたのだからとアズとリアリスの歓迎パーティのようなものを開いたのが今日だった。
 フラウと蓮弥が腕によりをかけてエルフの国からもらった食材と、大量にあるワイバーンの肉とを煮たり焼いたり炊いたりして用意した料理の数々は、アズが見て貴族でもこんな料理は口にしていない、と言わしめるほどの豪華なものとなった。
 そこへさらに大量のアルコールを投入し、パーティは盛況のうちに幕となり、アズとリアリスを家へ送り届けて、パーティの後始末をすれば、時刻はすっかり夜となり、さっと風呂に入ってから自室で就寝した蓮弥だったのだが、ふと目を覚ましてベットの上に起き上がったのがつい先程のこと。
 光源がなく、窓にカーテンを降ろしてある部屋の中は真っ暗闇であり、蓮弥の目をもってしてもその状態では何も見ることができない。
 辺りはすっかり静寂に包まれており、耳が痛くなるほどであったが、ただ一つだけ部屋の入口がある方向から、小さく擦れるようなキィキィと言う音が聞こえている。
 その音の正体は、蓮弥には心当たりがあった。
 身体に掛けていた毛布を外しベットの縁に腰掛けた蓮弥は、光明の魔術を弱めに起動する。
 部屋のほぼ中央の空間に出現した白い光が、弱くではあるが白々と部屋の中を照らすと、蓮弥の目にその小さく擦れる音を立てているものが見えるようになる。
 それは天井から吊るされた網だった。
 以前、自分から部屋の中へ招き入れたとは言え、ローナに襲われたことのある蓮弥は、護身と言うよりは妙な過ちを犯すことがないように、と言う意味合いで眠るときに部屋の入口に罠をしかけることにしていた。
 誰かがそこを踏むと、床に仕掛けられていた仕掛けから網が飛び出し、侵入者を捕獲した上で壁に沿わせているロープが巻き上げられて天井からぶら下げるというものだったが、誰かがそれに引っかかったらしい。
 小さく擦れるような音は、天井から網を吊り下げているロープがそれを引っ掛けている天井の梁に擦れる音だ。
 蓮弥は溜息を一つつき、それほど高くは無いものの、ベットに腰掛けた状態では目線よりも上にある網の中へ目をやる。
 網の中で身体を縮め、しゅんとした表情を浮かべながらぶらぶらと揺れているのは、シオンだった。
 就寝するときの格好そのままで忍び込んできたらしく、蓮弥の知識から言えばホットパンツにタンクトップと言う、足も肩も胸元も大胆に露出した格好で、普通ならば異性の劣情を大いにそそる格好だったのだろうが、それが網に捕らえられてぷらぷら揺れている光景は、そそると言うよりは笑いを誘う。
 頭痛を抑えるように額に手を当て、俯いたまま言葉を発しようとはしないシオンに蓮弥は話しかける。

 「疑問が二つある。まず一つなんだが、一応扉に鍵がかかっていたと思うんだが?」

 「フラウにお願いして開けてもらったんだ」

 シオンの答えは蓮弥の予想通りだった。
 蓮弥は自分達が眠っている間に、何か良く分からないが、何かが屋敷の敷地内を徘徊していることをなんとなく感じている。
 フラウが何も言わないし、夜中にトイレ等に起きた時はその何か分からないものはさっと気配を消して見えなくなるので、蓮弥も何も言わないことにしているが、そんなものがいる時間帯に他のメンバーの部屋に忍び込むような真似をフラウにバレないようにできるわけがない。
 そうは思っても、フラウの公認かと思うと色々と追求しづらいことが出てくる。

 「疑問その二、と言ってもフラウ公認ならなんとなく予想は付くが……何しに来た?」

 問われたシオンは、しばらく網の中でもじもじとしていたが、やがて覚悟が決まったのか蓮弥をしっかりと見つめるときっぱり言い放った。

 「夜這いに来た」

 「あのね……」

 やっぱりか、と思いつつ蓮弥は疲れた声を出す。
 この世界の住人は、生き急いでいるのかそれともそう言った行為に関する垣根が低いのか、思い立ったが吉日とばかりに、行こうと思うとノータイムで食いに来る傾向がある。
 それがシオンやローナ限定の話しなのか、それともこの世界の一般常識なのかは蓮弥には分からないし、調べるつもりも毛頭無かったが、どちらかと言えば草食動物系の気質である日本人の特徴が出るのかどうにも蓮弥はそれをばっちこーいとばかりに迎え入れる気になれずにいる。

 「年頃の女性がそんなんじゃ駄目だろうに?」

 「何故だ? 駄目な理由が分からない」

 きょとんとした顔で逆に問い返されて、思わず蓮弥は年頃の女性がもっと慎みをもってだな、と説教しそうになるが、すんでの所で思いとどまる。
 なにせ相手は食うつもりで、さらに食わせるつもりで来ているのだ。
 自分の側はOKなのだから、あとはお前の問題じゃないかと切り替えされた場合に、効果的な反論を思いつけそうに無い。
 さてなんと言って説得したものかと考え込んだ蓮弥の沈黙を、何か別な意味に取ったのかシオンの表情が曇る。

 「やはり、私では駄目なのだな」

 「あ、いやちょい待て。今考えを纏めている所だ。……そうだな、そんな風に懐いて……もとい、慕ってくれると言うのは男冥利に尽きるんだろうが、そっちは良くてもこっちはそこまで突き抜けて考えれていない。据え膳とりあえず食っとけと言うほど飢えてもいないしな。だからこういうのはもうちょっとちゃんと時間を掛けてお互いにだな……」

 「あぁ、本当はそうしたかった。でももう、私には時間が無いんだ」

 しんみりとした口調でそう言われて、蓮弥はしげしげとシオンを見る。
 その手の台詞を口にする設定で、一番スタンダードなのは何か不治の病に冒されていて余命いくばくもない、と言うものだろう。
 しかし、蓮弥が見る限り、シオンにそういった兆候はない。
 蓮弥は医者ではないので、専門的に見てどうこうと言うことはできないが、それでもシオンは見る限り明日をもしれぬ命と言う表現からは程遠い。
 そうなると別な理由ということになるのだが、とまで考えた蓮弥は以前にローナと交わした会話の内容を思い出す。
 ローナはシオンがそれなりの家柄の出である、と言っていたはずだった。
 そうなると、理由として想像できるのは家とシオンとの間に設けられたなんらかのタイムリミットが来たのだ、と言うことくらいだ。

 「実家関連の問題か?」

 どうにも貴族とかそう言った家柄にまつわる話というのは面倒なものだ、と思いながら蓮弥が問いかけると、シオンは一度驚き、すぐに合点がいったような表情に戻る。

 「そういえば、それとなくローナが話したんだったな」

 否定してこない、と言うことはどうやら当たりであったらしい。
 シオンはほんの少しだけ迷うような表情を見せた後、真剣な面持ちで蓮弥を見つめた。

 「レンヤ、君には関係の無い話かもしれないが、聞いてもらえるだろうか?」

 「まぁ、明日は何も予定を入れてないしな。聞くくらいならしてやろう」

 そう言って蓮弥は頷くと、シオンに話の続きを目線で促すのであった。
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