April 23, 2014
現生人類の近縁種で、約3万年前に絶滅したネアンデルタール人のDNAを調べた結果、小集団で生活し、集団同士は孤立していた事実が判明した。また、現生人類の行動に関連した遺伝子のいくつかが、ネアンデルタール人には欠けていたという。
近年、ネアンデルタール人の遺伝子解析が進められてきたが、その遺伝子地図からは、現生人類との関わりが
少なく、遺伝子のごく一部しか共有していないことが読み取れる。
専門家による両者の遺伝子地図の比較研究が進めば、ヒト属で唯一現存している現生人類固有の遺伝子特定
や、遺伝性疾患の起源につながる発見が期待できる。
ドイツ、マックス・プランク進化人類学研究所に所属する古遺伝学の先駆者スバンテ・ペーボ(Svante
Paabo)氏のチームは、現生人類の行動にかかわる遺伝子がネアンデルタール人と比べて大きく進化していると
いう説を示している・・・
近年、ネアンデルタール人の遺伝子解析が進められてきたが、その遺伝子地図からは、現生人類との関わりが
少なく、遺伝子のごく一部しか共有していないことが読み取れる。
専門家による両者の遺伝子地図の比較研究が進めば、ヒト属で唯一現存している現生人類固有の遺伝子特定
や、遺伝性疾患の起源につながる発見が期待できる。
ドイツ、マックス・プランク進化人類学研究所に所属する古遺伝学の先駆者スバンテ・ペーボ(Svante
Paabo)氏のチームは、現生人類の行動にかかわる遺伝子がネアンデルタール人と比べて大きく進化していると
いう説を示している。
ペーボ氏らは、われわれの多動や攻撃性に関わる遺伝子がネアンデルタール人には欠けていた可能性を強調。
自閉症などの症候群に関連するDNAも同様だったという。
アメリカ、ウィスコンシン大学マディソン校の古人類学者ジョン・ホークス(John Hawks)氏は、「大変興味
深い進化のダイナミクスだ」と評価している。
さらにペーボ氏らは、ネアンデルタール人の遺伝子から、50万~100万年前を境に人口が減少し、その状態が
長く続いたと断定している。人口減少は存亡に関わると、ホークス氏は指摘。「自然淘汰が進むと悪い方向への
遺伝子変異が排除されにくくなる」ためだ。
◆疑問を解明
ペーボ氏らは、スペインとクロアチアで発見された2人のネアンデルタール人の遺伝子を対象に研究を実施。
また、シベリアのネアンデルタール人、さらに複数の現生人類のDNAと比較した。
ペーボ氏はメールでの取材に応え、「現生人類に比べて(遺伝的な)多様性が少ないことがわかった」と述べ
ている。ネアンデルタール人の遺伝的多様性は、現代のアフリカ人の4分の1、ヨーロッパ人やアジア人の3分の1
程度だという。
また、心臓の健康や代謝、肌や髪の色を左右する遺伝子も欠如していた。「このような変異を獲得した結果、
多様な人種が生まれたのかもかもしれない」と論文は述べている。
ペーボ氏らはさらに、両者のDNAを現生人類の近縁種デニソワ人と比較してみた。4万年前までシベリアに暮ら
していたデニソワ人は、発掘されたいくつかの骨片からDNA解析が行われている。
論文によれば、主な遺伝的な差異は腰の湾曲に関わるものだという。基本的にネアンデルタール人は、現生人
類やデニソワ人、初期のヒト属に比べて腰が曲がり気味だったらしい。
3者は50万年あまり前に共通の祖先から分岐しているが、約6万年前にアフリカを出た初期の現生人類と交雑が
繰り返され、その関係はあいまいになった。
現代のユーラシア人は、遺伝子の約2%がネアンデルタール人との交雑の影響を受けている。メラネシア人も3~
5%ほどをデニソワ人から受け継いでいる。
今回の研究結果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に4月21日付けで
発表された。
PHOTOGRAPH BY JOE MCNALLY / NATIONAL GEOGRAPHIC