だいぶ暖かくなってまいりまして、もうすっかり春の陽気。今年は花粉の飛散も少なく、間近に迫ったゴールデンウィークも楽しみで、しばらく低空飛行であったブログ更新のモチベーションもヒバリのごとく天に向かって昇りつつあります。
こんな記事を読みました。
・「残業代ゼロ」一般社員も 産業競争力会議が提言へ(朝日新聞)
政府の産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)は、労働時間にかかわらず賃金が一定になる働き方を一般社員に広げることを検討する。仕事の成果などで賃金が決まる一方、法律で定める労働時間より働いても「残業代ゼロ」になったり、長時間労働の温床になったりするおそれがある。
まったく、とんでもない法案ですね。もしこんな提案が通ったら、日本の労働者はみんな資本家の奴隷とされてしまうでしょう。蟹工船に乗って蟹を獲る日々がはじまるのです。つらい。本人と労働組合の同意が条件だそうですが、会社から要求されたら断るのが難しい職場のほうが多そうです。蟹工船とか。
しかし、朝日新聞の報道は2014年4月22日の朝8時。産業競争力会議の開催は同日の夕刻です。事前の取材で得た情報のようなので、立ち話でぽろっと聞き出したことを針小棒大に伝えているのやもしれません。
以下の記事にように、「朝日新聞さん煽りすぎー!」と疑問を呈しているところもあるようです。
・朝日新聞が「一般社員も残業代ゼロ」報道 「悪質な煽り」と批判も(BLOGOS キャリコネ・企業インサイダー)
そうかー、悪質な煽りなのかー。「奴隷労働大国日本から逃げ出さねば!」とすっかり焦ってしまいました。ちょっと冷静になって、開催後の続報も読んでみましょう。
・「残業代ゼロ」厚労省懸念 政権、前のめり 競争力会議(朝日新聞)※全文閲覧には会員登録が必要です
・「残業代ゼロ」厚労省懸念 「企業の立場強い」 競争力会議(朝日新聞)※全文閲覧には会員登録が必要です
こんなにゼロゼロ連呼されると、携帯電話のCMかと思ってしまいますね。余談ですが、携帯キャリアは新規契約獲得にばかりコストを費やして、私のように10年以上に渡って同一キャリアを使い続けているロイヤルカスタマーを粗雑に扱っていると思います。ぷんぷん。
どちらもほとんど同じことを書いているですが、とりあえず一部引用。
民間議員の長谷川閑史(やすちか)・経済同友会代表幹事が22日、労働時間ではなく、成果をベースに賃金を支払う仕組みを提案した。例えば、子育て中の女性などが退社後に自宅に持ち帰って仕事ができるようになれば、企業は子育て・介護世代を活用しやすくなり、雇用が増えると主張した。
議長を務める安倍首相は「時間ではなく、成果で評価される新たな仕組みを検討してほしい」と指示した。今回の提案では、年収が1千万円以上など高収入の社員のほか、労使合意があれば一般社員も「残業代ゼロ」の対象とする。長時間労働の拡大を防ぐため、政府が労働時間の上限の基準を示し、労使で決定することも盛り込んでいる。
一方、出席した田村憲久・厚労相は「労使関係では企業の力が強い」と語り、対等な立場で本人同意を得られるかどうかについて懸念を示した。対案として、始業・終業時間を自由に選べるフレックスタイム制などを推進すれば、柔軟な働き方は実現できるとした。
労働時間の長短ではなく、成果に応じて給料を払うようにしようねー、ということみたいです。でも、売上数値がはっきり見える営業職など以外では、成果の可視化って難しいんですよね。よほど制度設計に長けた企業でなければ、ちゃんと運用できない気がします。かといって営業職だけで導入したとしても、いまでもフルコミッション(完全歩合制)の仕事はあるし、新たに制度を作る意味が感じられません。
朝日新聞の記事だけですとなんか偏ってそうな気がするので、他紙も読み比べてみましょう。
・労働時間:規制緩和案 労使合意で大半適用 際限ない労働時間に不安(毎日新聞)※閲覧には会員登録が必要です
労働時間の規制緩和について民間議員は2案を示し、両方の導入を求めている。一つは「高収入・ハイパフォーマー型」案。年収1000万円程度以上の会社員が対象で、賃金は労働時間の長さに関係なく仕事の成果にのみ左右される。「残業代ゼロ法案」と批判され、政府が07年に法案化を断念した「ホワイトカラー・エグゼンプション(除外)」とほぼ同じ内容だ。
今回はこれに「労働時間上限要件型」案を加えた。年収要件がなく、「個人の能力や裁量で労働時間を管理できない者以外」で「国が示す範囲」の社員が対象。本人の同意と労使の合意があれば、大半の従業員が「目標達成度に応じた報酬」となる。過労を防ぐため、国が年間労働時間の上限基準を示し、職務も労使で決めるとしているが、厚生労働省は「使用者が強い日本の労使の力関係の下では、なしくずしになる」(幹部)と反発している。
産業競争力会議側は、同上限要件型について「柔軟な労働時間を望む子育てや介護をしている女性らが対象」と説明する。しかし、公明党幹部は「企業は『問題児』の社員に成果を求め、達成できなければクビを切るという使い方をする」と不信感をあらわにする。「全国過労死を考える家族の会」(寺西笑子代表)は「際限のない長時間労働を助長し、過労死・過労自死の犠牲者を増やす」と批判している。
以前に私は、「朝日新聞「解雇しやすい特区」は釣りタイトルな気がするよ。国家戦略特区構想の雇用について少し調べてみた」という記事を書いているくらいで、朝日新聞さんの報道には警戒心を抱きながら接しているのですが、どうやら今回の記事はそう煽りとも言えないようです。以下に、さらに他メディアの報道へのリンクを紹介しておきます。
・残業代ゼロ 過労死促進(しんぶん赤旗)
・新たな労働時間制度の検討を指示(NHKニュース)
・長時間労働見直し指示…諮問会議で首相(読売ONLINE)
・首相「労働時間規制見直し」検討指示 政府合同会議 (日経新聞)
・競争力会議と諮問会議、労働時間規制見直しへ-成果・達成度重視の報酬・働き方検討(日刊工業新聞)
見出しから各紙のスタンスが伝わってくるようで面白いですね。赤旗さんは相変わらずキレッキレです。それにしても、おんなじことを素材に報道しているのに、これほど違いが出るとは。メディア越しに入手する情報には必ずフィルタがかかっていることを意識せにゃなあ、と改めて思い知りました。
政府サイドからの発表では、あくまでも長時間労働を問題視し、ライフスタイルに応じた多様な働き方を認め、生産性を上げることがお題目とされているんですけれども。
・経済財政諮問会議及び経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議(首相官邸)
・産業競争力会議(首相官邸)
まだ首相官邸HPに議事要旨がアップされていないので、そちらも後日確認しようと思うのですが、少なくともいま報じられている内容そのままが通ってしまうと、自民党現職議員である渡邉美樹氏が創業した某ワタミあたりの職場環境がますます地獄と化しそうです。少子化にも拍車をかけるでしょうし、かなり筋悪な政策に思えます。
とはいえ、働き方の多様化を進めようという方針自体には賛成です。炭鉱や紡績工場での労働を念頭に作られた現行の労働法が現代の職場とマッチしていない部分は大いにあるでしょう。
名ばかり管理職やみなし残業の悪用と同じような問題が起きないよう、抜け道をきっちり封じる方向で議論を深めて欲しいなあと願う次第です。