ここから本文です
[PR] 

ルーズベルト派か完全試合派か 真のプロ野球ファンはどっち?

産経新聞 4月20日(日)18時22分配信

 「ルーズベルト・ゲーム」という野球用語をご存じか。大の野球好きで知られた米国のフランクリン・ルーズベルト大統領が「8対7」で決着する試合が一番面白いと言ったことから、点を取られては取り返す白熱したゲームをそう呼ぶようになった。人気作家、池井戸潤の『ルーズヴェルト・ゲーム』(講談社)は、倒産寸前に追い込まれた企業で生き残りをかけた男たちの“逆転劇”を描いた企業小説で、今月27日に同名の企業ドラマ(TBS系列)がスタートする。ドラマをきっかけに、この野球用語が一気に浸透することは間違いないだろう。

 ■両軍31安打の裏には…

 前置きが長くなったが、今季のプロ野球のゲーム内容をみると、なぜか「打高投低」の試合が多い。一見「ルーズベルト・ゲーム」の印象を受けるが、実際は違う。何かに取り憑かれたような、締まりのない乱打戦が目立つ。

 例えば、今月6日のヤクルト−阪神戦は両軍合わせて31安打23得点の乱れ打ちになった。敗れたヤクルトは終盤の3イニングだけで13失点。救援ピッチャーが大炎上したこのゲームを果たして「ルーズベルト・ゲーム」と呼べるのか。今季の「統一球」が規定より飛びやすくなっている影響を受けていることは間違いなさそうだが、打ち取ったはずの打球がフェンス越えでは投手はたまったものではないし、ファンも興ざめである。

 ■20年ご無沙汰の「パーフェクト」

 手に汗握る緊迫したゲームとは、凡打と三振の山が築かれる0対0の投手戦にある。1点を求めて足でかき回し、ときに敵をかく乱する。スコアボードに「0」がずらりと並んだ試合を「たこ焼きみたいやね」と冗談っぽくつぶやいたのは「世界の盗塁王」福本豊だが、1点をもぎ取ろうとする貪欲さが最近のプロ野球に欠落しているようにも見える。

 スポーツ新聞が「ノーヒットノーラン」(無安打無得点試合)を大きく扱うのは、シーズンに1度あるかの低確率で起きる快挙ということもあるが、一方で1シーズンに複数の達成者が出る“当たり年”もあるから、まったく予測不能だ。

 投手冥利に尽きる最高の栄誉といえば、四死球も失策もない「完全試合」であろう。プロ野球での最後の完全試合は1994年5月18日、巨人の槙原寛己(現野球解説者)によって達成された。福岡ドームでの対広島戦。全27アウトのうち三振は7つだけ(内野ゴロ11個、内野フライ6、外野フライ3)という打たせてとる投球内容だった。興味深いのは、1イニングで「15球」以上多投した回はなく、リズムよく平均的に投げることが完全試合のコツだった。

 「夢の中です。生きていてよかった」。試合後、名ゼリフをはいた槙原だが、この快挙を達成する9年前には別の「夢」の中にいた。バース、掛布、岡田から「バックスクリーン3連発」を浴びたのである。球史に残る栄光と挫折。プロ野球人生でその両方を経験した槙原は不世出の大投手だった。

 ■野球は「運」のスポーツか?

 ルーズベルト・ゲームか完全試合か−。どちらにも野球の妙味があるのだが、サッカーと違って得点の入らない試合でも決して退屈でないのが野球の真骨頂といえる。

 過去にはわずか1球の失投によって完全試合を達成できなかった投手もいれば、九回裏までパーフェクトだったのに、延長十回に安打された悲運の投手もいる。「延長戦完全試合」という前人未到の快挙を逃したのは西武の西口文也だが、そんな悲話に触れるだけでも西口ファンになってしまいそうだ。

 ちなみに、20年以上もプロ野球を担当するベテラン記者でもノーヒットノーランを取材することなく記者人生を終えることがある。その快挙に出くわすかどうかは、記者の仕事へのひたむきさは関係なく、「運」だけが左右する。実際、たった1年間、プロ野球担当だった新聞記者が槙原の完全試合に“遭遇”し、新聞の1面から社会・運動面まで取材に奔走したという話は語り草になっている。

 槙原の完全試合から間もなく20年。あの日、福岡ドームに居合わせたファンは相当の強運の持ち主だった。「生涯にたった一度でいい」と、あの「僥倖」に巡り合いたいと願うのは野球ファンだけでなく、記者も同じである。

最終更新:4月20日(日)18時22分

産経新聞

 

PR

いつものYahoo!ニュースをiPadで。公式アプリ誕生!

注目の情報


Yahoo!不動産
PR

注目の商品・サービス