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二度目の人生を異世界で 作者:まいん

導入部分のようなもの

幕間その2らしい

神様サイドのお話
 「主様、あの功刀 蓮弥ってどんな人だったんですか?」

 唐突な問いかけに、私はそれまで没頭していた作業から意識を引き上げて声のした方向へ視線をやった。
 全く面倒な事と言うのは次から次へと発生するもので、一つの問題を潰せば次の問題が顔を出してくると言う、永続するもぐら叩きをやらされている気分になる。
 今やっていたのは、意思の力が世界を変えると本気で信じ込んでいるどこぞの主人公クンとその一行が、そこの管理者の意志力を上回る力でもって本当に世界を変えかねない事態がおきたとかで、そこの管理者からヘルプ要請が来ていたのを、取りあえず管理者には意思力をあげるためだからと、「僕は意思が強い」と言う書き取りを、私がいいと言うまで続けるように言い渡してから、主人公ご一行を急に力が強くなった魔王でもって、死なない程度に、しかし心がきっちりと折れる程度にボコにしてもらうと言う作業だった。
 無駄に作業を増やしてくれた、この阿呆には私の手を煩わせた罰……ではなく、精神修行の為に、向こう1000年くらいは書き取りを続けてもらうつもりだ。
 もちろん、魔王に力を貸したのは私だ。
 今頃魔王ご本人は、一体どうして自分が勇者ご一行を撃退できたのか分からずに、首をねじ切れるほどに捻っている真っ最中だろう。
 普通に行けば、今頃は魔王は倒され勇者は王国へ凱旋し、めでたしめでたしとなっていたはずなのだから。
 しかしそうはならないのが現実の厳しさと言うものだと私は思う。
 誰も泣かない世界を創るというお題目はご立派と言えるのだが、世界と言うのはどこかで誰かが泣いているおかげで成り立っているようなもので、どこかの誰かも言っていたが、管理者と言うのは不特定多数への不幸の分配作業を行うようなものなのだ。
 お題目だけで世界が回るならば、自分のような存在が、延々と気の遠くなるような調整作業を誰かに愚痴ることすらできずに続けるような現状が起きるわけも無い。
 そうは言っても勇者ご一行が全滅してしまえば、均衡を保つために別の勇者ご一行を仕立て上げると言う作業が別に発生してしまう。
 なんとか折り合いの付くところで妥協してくれればいいんだけど、という祈りにも似た思いをこめて、パーティ半壊くらいで留めておいたのだ。
 しかし、人は神に祈りを捧げるものだが、神という座に位置している自分は一体何に祈りを捧げればいいと言うのだろうか。

 「で、何の話だっけ?」

 「主様、一体どこまで脱線して行ったんですか?」

 呆れたような金髪美女の顔が見えた。

 「脱線は続くよどこまでも」

 「本線に戻ってください」

 冷たくきっぱりと言い切りやがった金髪美女に、軽くいらっとするが、いらっとついでにこいつを蛙かイモ虫に転生させた所で、そいつが担当している分の仕事が増えるだけなので、意味がないと言うよりは無駄に疲れる。
 いーよいーよもう、本線に戻ってやるよ、あと3600億secくらいは本線から戻ってこないから私を仕事に没頭させてくれ。
 大体、話しかけておいて本線に戻れとはどういう言い草だ、教育の仕方間違えただろうかって教育した覚えもないのだけれど、なんてことを考えている間に24secが過ぎ去ってしまった。
 これでおよそ0.000000006%の損失だ。
 もったいないったりゃありゃしない、あーもうめんどくさい。

 「主様!」

 「だから何よ!? え? 功刀って……あー、あのお爺ちゃんか」

 再度言葉をかけてきたのに怒鳴り返しかけて、ようやく私はそいつが誰のことを言っているのかを理解して、いったん作業を中断する。
 なんか、力を貸した魔王が勇者の情婦……もといチョロインさんを殺してしまったっぽい気配でドス黒い、復讐のちっちゃな炎が灯ってる気がしたが、努めて無視。
 いっそ、魔族も人族も復旧困難な状態まで疲弊してみるといいのだ。
 そうすりゃ争いの無い平凡な淡々とした日常がいかに貴重か身にしみて理解できることだろう。

 「あのお爺ちゃんのことなら、知らない」

 「へ?」

 「老衰で大往生した、適性のある魂、と言う条件で抽出したらヒットした、ってだけのことだもん。どんな人だったのかなんて調べてないよ。ちょこっとデータは見たけど、美食家っぽい人らしいなーってくらいで」

 そのデータが無かったら、あのお爺ちゃんをどうやって説得してあの世界に渡ってもらえばいいか全く分からない所だった。
 元の世界に妙な未練があっても困るからと老衰で死亡した魂を検索したのだけれども、それも良し悪しあるなぁと反省してる。

 「そんな適当な抽出で、別の世界に送っちゃって良かったんですか?」

 「だめな理由とか、ある?」

 真面目な顔で問い返してみれば、絶句する部下A。
 何がそんなに衝撃的なのか私にはさっぱりわからない。

 「人一人なんて、世界全体からしてみれば、小石程度の代物だよ? 海に小石を投げ込んだら津波が起きましたーとか言うなら別だけど、小石の立てる細波程度が一体なんの支障になると言うわけ?」

 「そうですか……」

 一応は納得したのか、そのまますごすごと引き下がろうとする部下Aを呼び止める。

 「ま、送り込んだ責任はある手前、ちょっと調べてみようか。手伝いなさい」

 「手伝うもなにも、検索履歴から引っ張ればすぐでしょう?」

 それもそうだと、あの世界に送り込む魂を検索した時の履歴から、該当する情報を引っ張り出して表示させる。

 功刀 蓮弥 人族 享年94歳。
 現在リソース不足の9201-0846-2525-4989へリソース充填の為、界渡り中。
 元の世界番号は8190-9735-1414-3878であり、特記する事象なし。
 界渡り前は、功刀一刀流第14代当主。
 幼少より剣道を嗜み、13歳にして剣術へ移行し、その才能を開花させる。
 15歳より、武者修行と称し中国大陸へ渡り黒社会で活動。
 刀一本で大人数へ切り込み、生還する様から「剣鬼」の異名で呼ばれる。
 黒社会活動中の殺害人数は5年間で912名に及ぶ。
 その後、世界大戦に従軍。
 4年間の従軍期間中の殺害数は3712名、全て斬殺。
 「ブレードオーガ」のコードネームで畏怖される。
 終戦後は功刀流の家督を継ぎ、後進の育成や、剣術の普及に尽力。
 各地で公演や剣術の実演を行い、功刀一刀流を広く普及させ、国内外に49の道場を持つに至る。
 晩年は刀匠として大成し、「華蓮」の銘を持ち、人間国宝に指定。
 美食家としても知られ、自身も高い料理の腕を持つ。
 94歳と127日目にして、老衰にて死去。
 生涯殺害数、5730名。

 「……リアルチートキター?」

 「なんでカタコトなんですか、主様」

 情報の書かれているウィンドウから視線を上げて、ぼそっと言った私に、部下が即時にツッコミを入れてくる。
 きっと今の私は、非常にうつろな表情をしているに違いない。

 「なにこれ!? 適当に選んだ割には、とんでもない人生だよねこれ!?」

 「こんな人生送って、よく老衰で死ねましたねこの人……。普通たたみの上では死ねない人生ですよねぇ」

 「刀だけで五千人以上殺すって、ありえないよね!? ってか終戦迎えた後からも4ケタくらい殺してるよね、この人!」

 「よほど上手に隠蔽したんでしょうねぇ」

 「そういえば、特記事項なしってことは、この人犯罪者になったことないよ!」

 犯罪歴があれば特記事項として情報が表示されるはずだった。
 ちなみにだが、ここで表示される犯罪暦は、その世界の法に触れたという事実がない限りは犯罪暦としてカウントされない。
 そうでもしないと、ほぼ全ての人間の情報に犯罪暦が表示されてしまうからだ。
 当たり前だが、いくら困っていたとは言え、犯罪者を界渡りさせるつもりなど毛頭なかったのだが、急いで手配したとは言え、私はなんという札を引いてしまったんだろうと頭を抱えてしまう。
 この人が元いた世界には数十億の人間がいたから、五千人程度の殺害数は、常識外れに多いとは言っても、世界にたいした影響は与えなかったはずだ。
 しかし、今回送った先の世界の人口は、せいぜい1000万前後がいい所だ。
 そこに素の状態で五千人を殺し得る人を、さらにチートっぽいスキルまで付属させた上で送ってしまった。

 「小石かと思ったら、核爆弾だった!」

 「津波、起こせそうですねぇ」

 のんびりと答える部下Aに、隠しようもない殺意を覚える。
 覚えた所で実行に移せない我が身が恨めしい。
 移してしまえば、こいつが抜けた穴を埋める作業が出てくる。
 新しく1体、天使を創ればいいという考えもあるが、創るのが自分である以上は、やっぱりその分の手間が増えるのだ。

 「部下A、名前」

 「未設定ですが?」

 「……ちょっと外見いじらせなさい。あと名前つけるから」

 「え? え、ちょっと、一体何を……」

 うろたえる部下Aの設定ウィンドウを開いて、有無を言わせずにちゃっちゃと操作する。
 そもそも、なんで部下達はみんな一様に金髪で女性型なんだろう?
 確か最初はある程度の差異をつけて創ってたはずなんだけど、途中から面倒くさくなってきて、雛形を創ってコピーで量産したんだっけ?
 なんとなくだけれども、あのお爺ちゃん、金髪があんまり好きそうに見えなかったから、髪は黒くして、髪型をツインテールにして、スタイルはやや控えめにして、年齢設定は大体同じくらいの18歳前後の見かけにして、声も落ち着いた感じに変えてやる。

 「今日からお前はギリエルね。大天使にするから、あの世界に行って、蓮弥さんの守護天使を勤めなさい。通常業務は継続するように」

 「えー……仕事増やさないで下さいよー」

 心底嫌そうな顔をする部下A改め、ギリエルと名づけた天使に、歯をむき出しにして威嚇してやると、しぶしぶといった感じでわかりましたーと答えたので良しとする。

 「でもいいんですか? 管理者の皆様の頭越しになりますが」

 「天使を差し向けるのは問題無いんです。それに個人への加護を与えるだけですから、文句を言ってきても加護を与えるのも仕事のうちですーで押し通せます」

 「それなら天使にリソース渡して行ってもらえばよかったじゃないですか」

 妙案を思いついたようなドヤ顔を決めてくるギリエルの頭に、飛び上がって一発拳骨を落とす。
 なんだかこの間から幼女の姿で固定してしまっているので、天使達との身長差が色々不便に感じてきたのだけれども、別の姿も特に思いつかないので放置。

 「あんたら天使は地上に常駐できないでしょうが!?」

 「そ、それもそうでした」

 「つべこべ言わずにさっさと出向く! あのおじいちゃんに加護を与えて、無茶しないように見張る! 無茶しかけたらなんとかして止める! 分かった?」

 「善処しますー」

 気の抜けた返事だったが、部下達にやる気を求めても無理があるのは、創った私自身にやる気があんまりないことから、分かりきった事実だった。
 それでも一応頭を下げて、指示された世界に出向こうとする背中に、私はついでにもう一つ指示を加える。

 「あと、あの竹刀、折を見て形状を刀に変えておいて」

 「タイミングと理由付けが重要ですねー。がんばりまーす」

 肩越しにぱたぱたと手を振って去っていく天使の背中を見送った私は、中断していた作業を再開するべく意識を沈める。
 あ、チョロインさんを殺された勇者が、魔族の無差別殺戮に走ってる……。
 もう、しばらくほっとこうかな……自然鎮火しないかなぁこれ……。
コミカルって難しいとしみじみ思う今日この頃…
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