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研究の対象者をブログで募集することの問題点

公開日: : 最終更新日:2014/04/23 研究と臨床, 臨床心理学 , , , , ,

ブログを書く手

何年前のことだろうか…

遥か昔…と言っても、このブログを始めて数年くらいの頃ですが、表題の件についてある方と揉めたことがありました。

そして本日、同様の案件、つまり研究対象者を募集しているブログを発見してしまいました。

そんなわけで、改めてその問題点について考えてみようと思った次第。

皆様からも、コメント欄またはTwitter、Facebookなどでお気軽にご意見いただけたらと。

前回と今回の違い

…とか言いつつ、以前と今回とでは大きく違う点がいくつかあります。

まず、前回はブログ主が大学教員であり、そして実名(ブログ自体はハンドルネームでしたが、実名には容易にアクセス可能)でした。

しかし今回、ブログ主は臨床心理学専攻の修士課程の学生で、匿名でブログを運営しているという点が異なります。

さらに集めようとしている対象者についてですが、前回が健常群であることを想定しているのに対し、今回はある精神疾患を現在抱えている、あるいは以前経験したことのある人々であるということも大きな違いかと思います。

こうやって書き出してみただけで、今回の方が数倍厄介というか、色々と問題があるような気がしてきます。

そしてもう一つ、今回は大きな問題がありまして、そのブログ主が自身がその募集しているところの精神疾患を自ら抱えているのだということを表明しています。そんなブログ主が、自分と同様の疾患を抱える人達を対象として、インタビューをするという。

うーん、やっぱり厄介だ。

最大の問題は選択バイアス

いきなり結論に至ってしまいましたが、ブログでの募集ではかなりバイアスがかかってしまいます。

これがブログがらみの研究ならまだいいんでしょうけれども、「(自分と同じ疾患を持つ)ブログ主のブログを見ていて」「(自分と同じ疾患を持つ)ブログ主の募集に」「自発的に応えている」という条件だけで、既に想定される母集団(その疾患を持つ患者)とは異なる性質を持つサンプルになる可能性が高いです。

そういや以前に揉めた際、相手は頑に選択バイアスを否定していた(否認していた?)けど、最終的はどうなったんだろうか?

それはともかく、今回問題になっているブログ主が論文を書く際、正確を期するならば、対象者の募集方法について自身のブログの性質や、自身の疾患まで記載しなければならないでしょう。そこまでやるなら、それはそれで立派ですが(しかし、それで修論通るの?という気もする)、現実的には非常に困難だと思われます。

倫理的問題はどうなの?

研究の、特に臨床群を対象とした研究の倫理面には色々と慎重にならざるを得ない昨今、やはり倫理的問題が生じる可能性が高いです。

仮に「答えたくない質問には答えなくてもいい」という条件をつけたとしても、対象者がそのインタビューに耐えられるのかどうかについてのアセスメントはどのようにするのでしょうか?

もしそのインタビューが病態悪化の原因になったとしたら、件のブログ主はどう対処するのでしょうか?恐らく「そうならないように気をつけます!」と言うのでしょうが、どう気をつけるのでしょうか?

それ以前の問題として、最近は学内の倫理委員会を通さないとダメなんじゃないの?って気もするのですが、その辺りもどうなんでしょ。その辺、ゆるい大学は未だにゆるかったりするのだろうか?

この辺は大学の中の人に教えていただきたいものでございます。

そもそも指導教員のゴーサインは出てるの?

以上、2点を踏まえた上で、そもそも指導教員からその研究を進めてもいいという許可は得ているのでしょうか?

最近、コピペで話題沸騰の某O女史の博論じゃないですが、もし件のブログ主が研究を進めていって何か問題が起こった際、確実にその責任の一端はその指導教員にあるということになるんじゃないかと思うのですが。

まともな指導教員であれば、ゴーサインを出さないと思うんですけどねえ…。

前に揉めた際には、そもそもブログ主自体が指導する側の人間であるという大きな問題はありました。そして、それ故に生じるバイアスも確実にあったかと思われますが。

ゴーサインが出ない内に、勝手にインタビューを進めてしまったとしたら、後でそこで得られたデータが全て使えないということもあり得ますよね。そうなった場合、そのブログ主が困るというだけではなく、せっかく協力してくれた対象者の皆様にも迷惑をかけることになるでしょう。

そして私はどうしたか?

そんなこんなで、生来のおせっかいが災いして、思わずコメントしちゃったんですよ。そのブログに。前にあんなに揉めたのに、それにも懲りずに。

「この調査は指導教員の許可はとっているのですか?」と。

そしたらどうなったと思います?

結果、何事もなかったかのように、私のコメントは消されておりましたとさ。

一応、私のコメントを踏まえてなのか(許可を得ているのであれば、指導教員の名前も公表した上で募集するべきとも書きました)、返答があった応募者には実名を明かすという旨は書かれておりましたが、それは大した問題ではないのです…って辺りはきっとわからないんだろうなあ…。

もし応募してきた人がいたら気の毒ですが、私もそれほど暇ではないので、これ以上は関わり合いにならないようにしようと思います。

でもまあ、ああいうのを見るとやっぱり大学院での教育レベルの低さってのが気になってしまう今日この頃なのでございました。

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  • 某総合病院精神科勤務の臨床心理士であり臨床心理学者(自称)。なんだかんだで2児の父。妻との仲もそれなりに良好
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