さて先日、ネットのニュースを眺めていたら、「お酒をいつでもどこでも手軽に摂取できる粉末状アルコール」という記事を見かけました(Gigazineの記事)。Powdered Alcohol、略して「Palcohol」なる名前がつけられており、販売に向けて米国政府の許可を得たところだそうです。「ウォッカ・ラム酒・カクテルなどの各種アルコールを粉末にすることでお手軽に持ち歩けるようにし、水と混ぜるだけでなく、食べ物の上に振りかけることもできる」のだそうで、酒好きには大変便利な一品です。

上の図にある通り、この粉末のうち重量比で58%、体積比で12%がエタノールだそうです。しかし、ウオッカやラム、カクテルなどが粉末化されているということは、単にエタノールのみを何らかの手段で粉にしたのではないのでしょう。香りや色の成分なども粉末にし、水に溶かせばその味や香りも再現できるようにしてあるわけで、さてどうやっているのだろう、と思えます。
そこでちょっとググってみたところ、こちらのページが出てきました。手品のタネは、どうやらシクロデキストリンのようです。
ブドウ糖(グルコース)は、最も基本的な糖であり、人体にとっても重要なエネルギー源になります。これが2つつながったのが麦芽糖、多数連結してらせん状になったのがデンプン(アミロース)です。

グルコース
このデンプンに対してある種の酵素を作用させると、らせんの一部を切り出して輪っかにし、グルコース6〜8個でできた環状分子を作ります。これがシクロデキストリン(CD)で、ブドウ糖単位が6個のものがα-シクロデキストリン、7個がβ-シクロデキストリン、8個のものをγ-シクロデキストリンと呼んでいます。

γ-シクロデキストリン
このシクロデキストリン類は、内部の空間に他の小分子を捕えることができます。これにより、エタノール分子や香り成分などの化合物を閉じ込めて逃げないようにし、安定な粉末にしているのでしょう。

エタノールを捕えたシクロデキストリン(CPKモデル)
シクロデキストリンのいいところは、内部が親油性、外部が親水性であるため、普通は水に溶けにくいものを包み込み、水に溶かしてしまえることです。また、構成単位がブドウ糖ですから生体にも全く危険がなく、食べても飲んでも問題ないため、これに限らず食品に広く利用されているのです。
たとえば練り辛子や練りワサビなども、シクロデキストリンが配合されています。揮発しやすい辛味成分を閉じ込め、香りが飛んでしまわないようにしているのです。ガムやスープ、インスタントコーヒーなどにも広く用いられ、香りが抜けないよう保護する役割を負っています。
脂肪の分解を高めるという触れ込みの、トクホ緑茶は最近の売れ筋ですが、これにもシクロデキストリンが用いられています。これは、有効成分であるカテキン類の渋味を抑えるため、これらを閉じ込めるために配合されています。カテキンは体内でゆっくり放出され、効果を著す――と思われます。
面白いところでは、消臭剤のファブリーズなども、シクロデキストリン誘導体が配合されています。内部に香り成分を閉じ込めており、湿気を感知すると内部の香り成分が徐々に放出され、代わりに悪臭成分を閉じ込めてしまうといいますから、ずいぶんうまくできています。
というわけで、シクロデキストリンにはすでに数多くの応用製品があったわけですが、アルコールを粉末にして持ち歩くという着想はこれまでなかったわけで、ちょっとしたコロンブスの卵です。こうした物質があることを、ちょっと頭に入れておけば、何かしらの発明に結びつくのかもしれません。みなさんも、何か考えてみてはいかがでしょうか。
上の図にある通り、この粉末のうち重量比で58%、体積比で12%がエタノールだそうです。しかし、ウオッカやラム、カクテルなどが粉末化されているということは、単にエタノールのみを何らかの手段で粉にしたのではないのでしょう。香りや色の成分なども粉末にし、水に溶かせばその味や香りも再現できるようにしてあるわけで、さてどうやっているのだろう、と思えます。
そこでちょっとググってみたところ、こちらのページが出てきました。手品のタネは、どうやらシクロデキストリンのようです。
ブドウ糖(グルコース)は、最も基本的な糖であり、人体にとっても重要なエネルギー源になります。これが2つつながったのが麦芽糖、多数連結してらせん状になったのがデンプン(アミロース)です。
グルコース
このデンプンに対してある種の酵素を作用させると、らせんの一部を切り出して輪っかにし、グルコース6〜8個でできた環状分子を作ります。これがシクロデキストリン(CD)で、ブドウ糖単位が6個のものがα-シクロデキストリン、7個がβ-シクロデキストリン、8個のものをγ-シクロデキストリンと呼んでいます。
γ-シクロデキストリン
このシクロデキストリン類は、内部の空間に他の小分子を捕えることができます。これにより、エタノール分子や香り成分などの化合物を閉じ込めて逃げないようにし、安定な粉末にしているのでしょう。
エタノールを捕えたシクロデキストリン(CPKモデル)
シクロデキストリンのいいところは、内部が親油性、外部が親水性であるため、普通は水に溶けにくいものを包み込み、水に溶かしてしまえることです。また、構成単位がブドウ糖ですから生体にも全く危険がなく、食べても飲んでも問題ないため、これに限らず食品に広く利用されているのです。
たとえば練り辛子や練りワサビなども、シクロデキストリンが配合されています。揮発しやすい辛味成分を閉じ込め、香りが飛んでしまわないようにしているのです。ガムやスープ、インスタントコーヒーなどにも広く用いられ、香りが抜けないよう保護する役割を負っています。
脂肪の分解を高めるという触れ込みの、トクホ緑茶は最近の売れ筋ですが、これにもシクロデキストリンが用いられています。これは、有効成分であるカテキン類の渋味を抑えるため、これらを閉じ込めるために配合されています。カテキンは体内でゆっくり放出され、効果を著す――と思われます。
面白いところでは、消臭剤のファブリーズなども、シクロデキストリン誘導体が配合されています。内部に香り成分を閉じ込めており、湿気を感知すると内部の香り成分が徐々に放出され、代わりに悪臭成分を閉じ込めてしまうといいますから、ずいぶんうまくできています。
というわけで、シクロデキストリンにはすでに数多くの応用製品があったわけですが、アルコールを粉末にして持ち歩くという着想はこれまでなかったわけで、ちょっとしたコロンブスの卵です。こうした物質があることを、ちょっと頭に入れておけば、何かしらの発明に結びつくのかもしれません。みなさんも、何か考えてみてはいかがでしょうか。