2014-04-22
バンクス氏を救い自分を救え ウォルト・ディズニーの約束
映画 | |
実録ノンフィクション第3弾にして一応これで終わり。2009年、2005年の出来事と来ましたが、年代はグッと下がって1961年。名作ミュージカル映画「メリー・ポピンズ」制作秘話。と言うか正確にはどのようにして原作者は映画化の許可を与えたか、という物語。「ウォルト・ディズニーの約束」を鑑賞。
物語
1961年、イギリス在住の作家P・H・トラヴァースは悩んでいた。これまで20年に渡ってディズニーから自著「メアリー・ポピンズ」の映画化についての提案をもたらされて、それを断っていた。しかし遂に経済的に行き詰まり具体的な案を検討せざるを得なくなる。ハリウッドに渡るトラヴァース。しかしそこにいたのはホテルの部屋をディズニーのぬいぐるみで飾り立て初対面の彼女に過剰に親しげに話しかける自己顕示欲の強い男、ウォルト・ディズニーが待ち構えていたのだ。アニメーションもミュージカルもダメだというトラヴァースを何とか説得しようとするディズニーとそのスタッフたち。ミーティングを全て録音することで脚本の読み合わせを進めていく。しかし登場人物の一人バンクス氏のルックスについてトラヴァースとディズニーは意見が対立する。そのことについては互いに譲れない理由があった…
現在も絶賛公開中の「アナと雪の女王」が歴史的大ヒットを邁進中!ということでその大本でもあるディズニー映画のメイキングもの。と言っても正確には具体的な制作に入るまでのプリプロダクションの段階の物語。観る前や映画が始まって最初のうちはアルフレッド・ヒッチコックが「サイコ」をいかにして撮影したか、を描いた「ヒッチコック」と似た感じかなあ、などと思ったのだが、どことなくユーモラスな部分は共通しているものの、全体としては大分違った。
ディズニーといえば実は作品とは別にウォルト・ディズニーその人や企業に対してはあんまりいい印象はない。理由はいくつか合って、例えば「ミッキー・マウス保護法」などとも揶揄される著作権が切れそうになるたびロビー活動をしてその期間を延長しているだとか、あるいはディズニーその人が50年代の赤狩りに肯定的な姿勢を見せ労働運動に否定的だったり、あるいは時折人種差別的な姿勢を見せたりすることもあったこと(とはいえ、当時の一般的な国民意識に則っただけとも言えるかもしれないが)。そしてディズニー作品はそのあまりに娯楽作品としての完成度が高すぎて、一度浸透すると他の童話の映像化作品を駆逐してしまうこと。「白雪姫」「シンデレラ」「眠れる森の美女」と名前だけ聞けばディズニーの絵柄で連想する人も多いだろう。これは何も結果論ではなく、ディズニー社はかなり意識的に「童話のタイトルを聞いてもディズニー以外の他の作品を思い起こさせないように」している。今後アンデルセンの「雪の女王」と聞いて「アナと雪の女王」が真っ先にあげられるようになるはずだ。
以上のような理由からディズニーそのものは時に否定的にも捉えられる。そうじゃなくても大ヒット作品に対するやっかみみたいなものも合って例えば「ONE PIECE」がその大ヒットぶりから時に不条理なやっかみを受けるみたいな感じでディズニーを嫌っている人もいるんじゃないかな。とはいえ、ウォルト・ディズニーがクリエイターとしても経営者としても稀有な存在だったのは確かで映画ではそういうディズニーのダークサイドな一面は全く描かれていない。もっともこの映画もディズニー制作で、自社の創立者を描く一面もあるので最初から悪く描く気はないんだろうけど。とはいえプロパガンダというわけでもないです。
映画では主に「メリー・ポピンズ」の原作者P・H・トラヴァースの視点で進み、制作のプリプロと平行して彼女の幼いころの出来事、主に父親との関係が描写される。原作者のトラヴァースについて少しでも事前知識があればまた違うのだろうけど、僕は全く知らなかったので(一応、この前に「メリー・ポピンズ」は見なおした)例えば回想の舞台がオーストラリアというのを知らなかったし、なんでパメラでなくギンティと呼ばれているのだろう、とかそういう疑問が後半一気に解ける楽しさみたいなものもあった。
過去シーンで父親を演じているのはコリン・ファレル。陽気なアイリッシュではあるが社会人としての適応能力に欠け酒に溺れていく。銀行員としてはおそらく優秀でしかも特段きつい仕事、というわけでもなさそうなので、この原因はもっと個人的な物に起因するのだろうか。現在だと精神的な鬱病であるとか。いずれにしろ酒と歌と娘たちが大好きだが社会生活は苦手、という基本善良だがちょっと精神的に弱い人物として描かれている。母親もまた多分お嬢様育ちぽく、追い詰められていく。
今放送中で前回の記事でも書いた「花子とアン」は意図的に主人公と「赤毛のアン」のアン・シャーリーをダブらせて描いているが、ここでも原作者トラヴァースの幼いころの出来事が小説の「メアリー・ポピンズ」の登場人物とダブらせて描かれている。実際のところは分からないがポピンズには手伝いにやってきた母親の姉がモデルとなっているし、子どもたちはトラヴァース自身。そしてバンクス氏は父親である(だから名前が「バンクス=銀行」で銀行に努めているのだな)。父親のファーストネームはトラヴァースでここでギンティのペンネームが父親から取られていることが分かる。この辺後半の感動のポイントでもある。実際の生活において苦労したのは母親でありながら長じて創作活動で父親の影響が強いところなんかスティーブン・キングやスティーブン・スピルバーグを思わせます。
先にディズニーの暗黒面は描いていない、みたいなことを書いたけれどそこは演じるトム・ハンクスが笑顔の裏に隠れた一筋縄ではいかなさみたいなものは見事に演じていて意地が悪いなあ、などと思った。トラヴァースを演じたエマ・トンプソンとの対比が面白かった。このトラヴァースとディズニーの対決を単にそれぞれの個性としてみることもできるけど、英国人と米国人の対比みたいな風にも受け取れた。不機嫌で仏頂面で初対面の相手には決してファーストネームで呼ぶことを許さない英国人トラヴァース(正確にはアイルランド系のオーストラリア出身)と初対面でもファーストネームで呼んでよ、てか呼ばねえと許さねえよ、という米国人ディズニーはそれぞれ英国と米国を代表しているように見える。
ディズニーはトラヴァースが泊まるホテルの部屋をミッキー・マウスなどディズニーキャラクターのぬいぐるみで埋め尽くしたりする強い自己顕示欲の持ち主だが、あれはどうなんだろう。ディズニー好きな人でも大人ならイラッとするような…ちなみに僕はドナルド・ダックのぬいぐるみを長年大切にしておりました。あいつはクールだぜ!
その他自分でトラヴァースをディズニーランドにエスコートしたりサービス精神旺盛な人であるのは間違いない。ディズニーランドがカリフォルニア州ロサンゼルスに開園したのは1955年で、開園時には後の大統領で当時は俳優だったロナルド・レーガンがリポーターをしていたりしたのは有名な話。日本で東京ディズニーランドができたのは1983年で僕が最初に訪れたのは1986年ですね。その頃にはすでに一大観光地となっていたけれどまだ3年しか経っていなかったのか!
僕は原作の「メアリー・ポピンズ」の方は知らなかったのでこの作品で原作者が「ミュージカルはダメ!」「アニメもダメ!」と言っていたのにびっくりしたのだが、冷静に考えればミュージカルの原作で原作の方もミュージカル仕立てになってるのなんてそうそうない。戯曲として成立したとかじゃないと普通は作中で登場人物が(ミュージカルとしてではなく)唄う部分で歌詞が出てくるぐらいだよね。ロアルド・ダールの「チャーリーとチョコレート工場」だとティム・バートンの映画化作品でウンパルンパ(歌声はダニー・エルフマン)が唄うシーンの歌詞は」全部原作中に登場するものだけれど。
その他の登場人物は音楽担当のシャーマン兄弟にジェイソン・シュワルツマンとB.J.ノヴァク。「メリー・ポピンズ」以降の中期ディズニー映画で音楽を担当した人である。ミュージカル映画における作詞・作曲担当というのは実質的に第2の脚本家と同じであり、実際この兄弟も脚本家のドン・ダラグディとともにミーティングに関わり放しである。この兄弟で活躍した音楽家の道のりも一筋縄ではいかないらしく、シャーマン兄弟のドキュメンタリーなんかもあるようです。(レンタルした「メリー・ポピンズ」のBlu-rayに「アナと雪の女王」、本作「ウォルト・ディズニーの約束」とともに予告編が収録されてました)
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他にハリウッドにおけるトラヴァースの専属運転手ラルフにポール・ジアマッティ。トラヴァースがハリウッドでの唯一の友達という彼とのエピソードがなかなか良かったですな。待機作は「アメイジング・スパイダーマン2」ライノ!ゴア!ゴア!ゴア!(違)僕は彼にECWのポール・ヘイマンの伝記映画でポール・ヘイマンを演じてい欲しいです。
原題は「SAVING MR.BANKS」。「メリー・ポピンズ」に出てくるお父さん、バンクス氏を救え!とのことで彼のキャラクターメイキングが映画製作における重要な要素となるのだが、トム・ハンクス主演でこのタイトルだと「プライベート・ライアン(SAVING PRIVATE RYAN)」とごっちゃになるから変えられたのかなあ。先述したとおりトラヴァースの描くバンクス氏には彼女の父親が反映されている。だからヒゲは生えていないし、悪い人物として描かれることに彼女は耐えられない。一方でディズニーもバンクス氏に自分の父親を反映させたいことが分かる。ディズニーにとっては父親はヒゲが生えているものなのだ。ずっと対照的に描かれてきたトラヴァースとディズニーだが、ラスト近くになって実はともにアイルランド移民の子どもとして生まれ父親に対して複雑な思いを抱いているという共通点が語られる。とだから映画「メリー・ポピンズ」のバンクス氏は救われるのだ。
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本作は撮影に入る前を中心に描いており、ラストはいきなりプレミアのシーンに突入するのでアニメとの合成だとか、ジュリー・アンドリュースの歌声だとかそういう撮影風景を描くメイキングみたいなものを連想するとちょっと違います。ジュリー・アンドリュースやディック・ヴァン・ダイク役もいるみたいだけど分からなかった。カットされたか、あるいはプレミアシーンで出てきたのか。
惜しむらくは僕が原作の「メアリー・ポピンズ」を読んでいないことである。映画の方のイメージしかないので劇中で登場人物が「夢中で読んだ」みたいなことを言っていても「音楽も、アニメもないし、物語も結構違ってるんでしょ」と思ってしまい、その凄さを実感できない。見終わった後に書店で探してみたのだがまだ見当たらないのだ。映画「メリー・ポピンズ」は事前に復習できたけど、それだけではちょっと予習不足だったかも。でもとてもおもしろかったです。
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