僕らの感情は汚染されている
海猫沢めろん(以下、めろん) お母さんがダイナマイト自殺されたとき、末井さんはどんな心境だったんですか? 僕は友人のK君が自殺したとき、あまりにも無意味だと思ったんです。泣きもしなかったし、もう、真空状態みたいな感じ。よく見てたサイトが、ある日「404 Not Found」になってたような。そこにまったく意味が見いだせない。あるいは逆に、そこにいくらでも意味付けできてしまうから、あえて意味付けすることを忌避していました。末井さんは、そういうのってなかったですか?
末井 その感じはよくわかるんです。だけど母親が自殺したとき、ぼくはまだ子供でしたからね。悲しいっていうのでもないし、強いて言えば驚きですかね。驚きとお祭り騒ぎ。ダイナマイト心中ってちょっとした事件ですから、人が集まってくるんですよ。警察はもちろん地元の新聞も取材にきていて、家のまわりがお祭り騒ぎで、わくわくしたことは覚えているんです。
めろん 寂しさもなかったですか? やっぱり昨日までいた人がいなくなるわけだから。
末井 もともと母親とぼくはそんなに一緒にいなかったんですよ。母親は肺結核でずっと入院してて、治る見込みがなくて退院して、それから1年くらいして自殺したから。まあ1年間の交流はありましたけど、そのあいだに若い男を家に連れ込んだりしてて、そういうときぼくは外に追い出されるわけです。だから、親子の関係をちょっと客観的に見ていたかもしれない。ただ、母親がいなくなったという空虚感は、いまだに残ってる気がする。
めろん ぼくらの、死に対する反応って、ドラマとかにすごい汚染されてるじゃないですか。人が死んだときの様子って、フィクションで見ることのほうが圧倒的に多いわけで。だからぼくは、型としては、そういうときには泣くのが正しいと思っていて、K君が死んだときの自分のリアクションが間違ってるんじゃないかという気がしてたんです。
末井 ぼくも、人が死んでもなかなか涙が出ないんですよ。お葬式なんかでも、みんな泣いてるけど自分は泣けなくて、だから人間的に欠陥があるんじゃないかって思うことはありましたね。
世界が灰色にみえるとき、やるべきことは?
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