朝井リョウ『何者』

何者

何者

朝井リョウの『何者』を読んだ。
読んでる最中も読み終わった後も、ただただ、「すげー」と思うばかりだった。作者の朝井リョウさんではない。いや、もちろん朝井リョウもすごいんだけど、一番すごいのは直木賞の選考委員だ。


『何者』は就活にのぞむ大学生たちを主人公に据え、今や当たり前に誰もが持っているスマートフォンやそこで使われるツイッターフェイスブックといったSNSを通して見られる人間関係を描いている。これが僕には、わかりすぎるくらいわかる。怖いくらいだ。仮にそのへんにいる僕と同年代の学生たちの普段の生活を“真四角に切り取ってガラスケースに閉じ込め”て神の視点で観察してみれば、ほぼ何も加えず無添加状態で、こういう話が出来上がるだろうってくらいのおそろしいリアリティだ。何年か後に「2010年以降の若者」を学問的に研究する時、文献として真っ先に当たるべきはこれだろう。

ただこの小説は今の10代後半~20代前半くらいの若者にはたぶん嫌ってほどビビッドなんだけど、もっと上の世代はどうなんだろうと思った。今の30代にSNSが盛んだった学生時代があるはずもないし、40代、50代ならなおさらだ。


馬鹿にしてるとかでは全くなくて、今の“大人”にこの作品が理解できるんだろうか。


実際この本が選ばれた当時の選考委員のリストと講評を見たけれど、やはりそれなりに年配の方が多い。そんな中「今の若者への好奇心」という一点のみでこれが選ばれたとはちょっと考えにくいなと思う。何よりこの小説が「嫌というほど今の若者の姿をありのまま描いている」という点に、そもそも気づけないのがフツウではないか。僕がちょっと年代が違ったなら「ふーん、まぁこんなもんかね」くらいで流してたんじゃないか。でも実際にはちゃんと「選ばれた」ということに、直木賞選考委員の方々の見る目の確かさ、(おそらく)自分たちにとって異質なものを評価する寛容さとか想像力に驚いた。すごい。


何者

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