名前:中山涙 (由来=ペンネームが決まりました!)
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2014-04-21(Mon)
てれびのスキマさんの新刊2作を読んで打ちのめされた。
読書 |
参った。
これはヤバい。
てれびのスキマさんの新刊『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか』(コア新書)を読んだ時の、僕の正直な感想はそんなところだ。読みながら感嘆をおぼえると共に、頬が引きつるのを感じていた。冷汗が止まらなかった。
実は、僕も一時期、有吉さんに関する本を書くつもりで、企画書を書き、資料も集め始めていたのだが、主に僕の怠惰により頓挫してしまっていた。
でも、もし書き上げていたとしても、スキマさんよりも深く、鋭く本質を掴むことは出来なかっただろうな……。そう感じてしまった。少なくとも、方法論を一から練り直さないと。
この本は、有吉さん一人を扱ったものではない。
水道橋博士のメールマガジン「メルマ旬報」でスキマさんが連載している「芸人ミステリーズ」から選び抜かれた、オードリー、オリエンタルラジオ、ダウンタウン、ナインティナイン、爆笑問題、大谷ノブ彦、マツコ・デラックスの7篇に加筆したものが収録されている。
連載の時から感じてたけど、こりゃあ、俺には出来ない仕事だわ。
スキマさんは、芸人さんとその周囲を取り巻く人々の言動を丹念に収拾し、冷徹に分析する。
取材して裏話を聞き出すようなことをせず、常に「テレビのこちら側」から芸人さんを見つめて、表面にあらわれた事実だけを、抑えた筆致で書き連ねてゆく。
文章からほとんど「我」が見えないのも凄い。
スキマさんは「褒め芸」に長けた人だ。
ふつう褒め芸の人って、どうしても「こんな視点でコレを褒めてる俺って凄いでしょ」という部分が透けて見える。
しかしスキマさんの文章からはそれが一切感じられない。
また、スキマさんは、芸人さんの「芸」そのものにはあまり興味を持たず(あるいはあえて踏み込まず)、それよりも芸人さんの内面の苦悩や、その周りを取り巻く人々との関わり合い、誰かに与えた影響などに注目する。
つまり人生を描いている。
だから芸能を扱ったコラムなのにマニアックにならず、普遍的な感動を生み出す。
そんなわけで、僕は心の底から打ちのめされたのだった。
もう一冊の新刊、本名の戸部田誠名義で書いた『タモリ学』(イースト・プレス)も、もちろん読んだ。
「有吉本」の手法で、対象を一人に絞り、さまざまな角度からタモリの人物像を描いている。
両書を読んで感じるのは、スキマさんの尋常ならざる観察眼と、分析力、そしてその後ろに横たわる巨大なテレビ愛である。
対象から常に距離を置くという姿勢も含めて、スキマさんは、故ナンシー関の正統な後継者であると思う。
テレビブロスや週刊文春でスキマさんの連載コラムが読める日が来るのも、そう遠くないだろう。
もっとも、ナンシー関と違って、スキマさんは、基本的に批判や悪口のような文章を書かない。
「有吉本」の編集を担当した小島研一さんは、以前「ブレイクマックス」という、「コアマガジンの中でも最もゲスな、悪口しか載ってないような雑誌」(小島さん談)の編集をやっていて、スキマさんも僕も、依頼されていくつか文章を書いたことがあったのだけれど、スキマさんは、悪口でお願いします、という小島さんの注文を軽やかにスルーして、いつものブログのような良質なコラムを書いた。
「いかにして褒めながらけなすか」ということに心血を注いでいた僕は、その大胆なやり方に驚嘆して、目からウロコが落ちまくったのだった。
なお、この話を本人から聞いた時、ふだんものすごく無口で、文章でもあまり我を張ることのないスキマさんが、実は強烈な美学や哲学をお持ちなのだとわかった。カッコいいぜ!
それにしても参ったな……。俺は、スキマさんがやらない手法でやっていくしかないんだろうな。芸人さんの「芸」そのものの分析とか? どんどん「我」を出していくとか? いろいろ模索してみます。
有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方 (コア新書)
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