国家公務員制度改革関連法が成立し、内閣人事局が発足します。一歩前進ですが、官僚主導政治が改まるかどうか。首相官邸の指導力が問われます。
国家公務員制度改革基本法が二〇〇八年に成立して以来、実に六年ぶりです。この間、政権が何度も代わり、官僚による強い抵抗もあって議論は迷走しましたが、ようやく一段落しました。
抵抗勢力の総本山だった人事院について一定の権限を残すなど骨抜き部分も残っていますが、首相と官房長官の権限は大幅に強化されました。まずは政治主導への第一歩でしょう。
◆強化された首相の権限
新しい制度は従来とどう違うのか。まず審議官級以上の幹部職について官房長官が適格性を審査します。そのうえで首相が幹部候補者名簿を作成し、実際の任命に当たっては、任命権者の各省大臣が首相、官房長官と協議して決める形になりました。
従来は大臣に任命権があっても形ばかりで、実質的には各省事務次官が幹部以下の人事を決めていました。退官後の天下りは次官と官房長の胸先一つにかかっていましたから、官僚たちは偉くなればなるほど上司の顔色をうかがう「ヒラメ集団」になりがちでした。
「省益あって国益なし」と批判されたのも、本をただせば「霞が関で一番偉いのは人事を握る各省次官」という仕組みに理由があります。今回、首相直轄の内閣官房に内閣人事局を設置し、首相と官房長官の権限を強めたのは、そんな縦割り制度に風穴をあけるためです。
ただ、あるべき理想的な形には遠いと言わざるをえません。政権が国民に約束した政策を実現しようとするなら、組織改廃と人員配置は柔軟にしたほうが望ましい。たとえば、環太平洋連携協定(TPP)交渉です。
◆温存された人事院権限
TPPに関わる省庁は外務省や経済産業省、農林水産省など多岐にわたっていますが、国は一つなのですから組織と交渉権限を一本化できないか。そんな国益と戦略を考えるのは首相の役割です。
ところが、現状では不可能に近い。人事院が聖域のようにして、給与水準別の定数を決める権限を握っていたからです。今回、定数に関わる権限は内閣人事局に移りましたが、それでも「人事院の意見を十分に尊重する」という条件が課されています。
民間企業なら能力が劣れば幹部でも降格や出向が待っています。ところが官僚の世界ではありえない。今回の改革で「勤務実績が劣る」とか「他に優秀な人材がいる」など理由があれば、一段下への降格が可能になりましたが、幹部職に変わりはありません。
さらに官民の人事交流についても手続きの簡素化、透明化を図る方針ですが、下手をすると官僚の身分を維持したまま、独立行政法人などに出向する「現役出向」が制度化されかねません。裏口からの天下りです。
こうしてみると、鍵を握るのは「政権の意志」ではないでしょうか。曲がりなりにも改革が実現したのは、〇六年の第一次安倍晋三政権で着手した公務員制度改革が頓挫して以来、再挑戦で首相と菅義偉官房長官が執念をもって取り組んできたからです。
福田康夫、麻生太郎の自公連立政権、その後の三代にわたる民主党政権ではほとんど議論すらありませんでした。官僚たちは首をすくめる格好をしながら事実上、官僚人事に手を触れさせなかったのです。
今回、霞が関からみれば一歩後退せざるを得なかったのは、最後の砦(とりで)である人事院を温存できたのに加えて「当分、政権基盤が揺るぎそうにない」という官僚ならではの見立てもあります。
もしも野党が強ければ、官僚は与党と野党の間を上手に立ち回って自らの利益温存を図ります。それは伝来の得意技です。しかし、いまは野党が非力なために、無用な対決を避けて巨大与党の言い分を聞いておくしかない。そんな計算が働いているのです。
少しでも理想に近づくために、次に何をすべきでしょうか。たとえば、内閣人事局は各省幹部を管理するだけでなく、自ら幹部官僚を直接採用してはどうか。
日本の官僚は「国家公務員」と名付けられていても、実は「各省公務員」にすぎません。採用は各省ごとで、他省に異動になっても本籍は採用された省に残ります。人事権も本省が握っています。だから逆らえないのです。
◆「日の丸公務員」をつくれ
ここは本当に国のために働く「内閣官僚=日の丸公務員」をつくる。天下りなど初めから期待しない真に優秀な人材を獲得するために給与も思い切って高くする。抜本改革はまだまだ必要です。
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