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レジェンド 作者:青竹

0119話

「では、素材の買い取り金額と討伐証明部位を合わせて白金貨1枚と金貨8枚となります。お確かめ下さい」

 ギルドの1階にあるカウンターで、レノラから渡された金貨と白金貨を確認するレイ。今回持ち込んだモンスターの素材に関して言えば、スプリガンのような希少性のあるモンスターは出さず、高値で売買されていると言うエメラルドウルフもその殆どがまだ素材を剥ぎ取られずにミスティリングの中にあるということを考えればかなり高額で素材等を買い取ってくれたと考えてもいいだろう。
 その金額に満足しながら金貨と白金貨の入った袋をドラゴンローブの懐へと仕舞い込むレイ。
 それを確認し終えると再度レノラが口を開く。

「それでレイさん。先程話していた依頼の件ですが……」
「ああ、頼む」

 そんな風に阿吽の呼吸……とまではいかないが、どこか慣れた様子で会話を続ける2人に、レノラの隣で他の冒険者の相手をしていたケニーが微妙に嫉妬めいた視線を飛ばす。
 ケニーのそんな視線に、たまにはいい薬だとばかりに小さく笑みを浮かべたレノラはカウンターの内部から数枚の書類を取り出す。

「はい、これに依頼内容を書いて下さい。基本的にギルドの仲介料は依頼のランクごとに決まっていますので、その辺はご了承下さい。依頼のランクについては基本的に依頼内容を見てギルドの方で判断させてもらっています」
「分かった。依頼内容は俺が書けばいいのか?」
「そうですね。字が書けない方には代筆もしてますが……」
「その辺は問題無い」
「では、この書類をどうぞ。あぁ、別に持って帰ってから書いて提出するという手順でも構いませんが?」

 昼が近くなり食事を求める冒険者や、中には一般人もギルド内部にある酒場で昼食を食べているのを見ながらレイへと告げる。
 レノラにしてみれば依頼を書くのに騒がしくない方がいいだろうという判断だったのだが、レイは小さく首を振ってその場で書類を埋めていく。

(依頼内容はモンスターの素材剥ぎ取り。対象モンスターは大まかにはウォーターモンキーが大量に、エメラルドウルフがそれなり。それと希少性の高いスプリガン。ただしスプリガンの皮は剥ぎ終わっており魔石も取り出し済み。それとランクの低いモンスターの数がそれなりに……と。報酬に関しては応募人数に関わらず金貨3枚……はちょっと多いか。1枚を頭割りだな。ただし素材の状態によっては多少のボーナスありっと)

 渡された書類に依頼内容を書き込み、レノラへと手渡す。

「こんな感じでいいか?」
「えっと、少々お待ち下さい」

 渡された書類に目を通した後、小さく首を振るレノラ。

「どこで素材の剥ぎ取りをやるのかとか、素材を横領した際の罰則の類も書いておいた方がいいと思います。それと、少々報酬が高すぎるかと」
「高いか?」
「ええ。モンスターと戦闘せずに、素材を剥ぎ取るという安全性が確保された上での報酬と考えると破格かと」
「けど、量が量だから労力的には相当厳しいと思うんだが」

 レイのその言葉に、改めて依頼書を読み進めるレノラ。

「そう……ですね。確かにウォーターモンキーの数が50匹近いとなると……」

 数秒程考え、隣にいるケニーの方へと視線を向けるレノラ。

「ねぇ、ケニー。以前素材の剥ぎ取りの依頼ってあったっけ?」

 その言葉に自分も公然とレイとの依頼に関われると思ったのか、笑みを浮かべつつ小さく首を振る。

「確か無かったと思う。何しろ基本的にパーティで活動する人が多いから、素材の剥ぎ取りもそれ程手間が掛からないのよ。少なくても私がギルドで働き始めてからは見た覚えは無いわね。それに普通のパーティがそんな風に悠長なことをやってたら腐り始めるから」
「となると、報酬の前例についても無い訳ね。……分かりました、レイさんの提示した金額で依頼を受けさせて貰います。それと罰則の方はどうします? レイさんが監督するのなら必要無いのかもしれませんが」
「いや、入れてくれ。さすがに50匹分の素材剥ぎ取りを黙って見ている暇があったら何か他のことをやりたい。……そうだな、もし着服が発覚した場合は魔法の実験台になって貰う、と書いておいてくれると助かる」

 魔法の実験台、という言葉にレノラは微かに眉を顰め、隣にいるケニーは面白そうな笑みを浮かべる。

「ちなみに、どんな魔法か聞いてもいいですか?」
「さて、今はまだ思いついていないからな。実際にその時になってから考えるが……まぁ、俺の得意な魔法は炎だと言うのを思えば大体どんな種類の魔法かは理解して貰えるだろう」

 こちらもまた、ケニーに負けずに笑みを浮かべて語るレイ。ギルド内部に残っていた冒険者の数はそれ程多くなかったが、それでもそのレイの言葉を聞き、笑みを見ている者はそれなりにいた為に、自分がもし依頼を受ける場合は絶対に着服はしないと心に誓っていた。基本的に炎の魔法というのは攻撃魔法が多く、補助魔法の類は殆ど存在していない。術者のイメージにより魔法の効果が決められる以上はやはり炎は破壊の印象が強いのだろう。

「うんうん、レイ君ってば仕事にはシビアなのね。そんな所も格好良いわ」

 中にはケニーのようにレイであるという時点で無条件に肯定的な存在もいたのだが。

「それと、剥ぎ取りをして貰うモンスターにはスプリガンとエメラルドウルフがいるから、その2種類の剥ぎ取りを経験したことのある者は優先させて貰うと言うのも追加で頼む」
「……はい、受け取りました。では少々お待ち下さい。担当の者に依頼のランクを決めて貰いますので」

 ペコリ、と一礼して去っていくレノラ。それを見送ったケニーは自分の所に冒険者の姿が無いのをいいことにレイへと話し掛ける。

「ね、ね、レイ君。大きい依頼が終わったばかりなんだし、暫くは休みを取るの? もし良かったらお姉さんと一緒にデートしない?」
「あー、すまないが今出した依頼書の件もあるからな。それが何とかなったらまた依頼を受けたいし」
「もう、焦らし上手なんだから。……じゃ、暇になったら今度買い物に付き合ってね」

 ウィンクをしながらカウンターの自分の席へと戻るケニー。そしてその直後にギルドへと入って来た数名の冒険者がケニーの元へと向かう。何となくそれを眺めていたレイだったが、その中に1人顔見知りの姿を見つけ出す。向こうも殆ど同時にレイの姿を確認したのか、驚きの表情を浮かべながらパーティメンバーへと一言、二言話し掛け、そのまま別れてレイの方へと近づいて来た。

「久しぶりだな。随分と噂は聞いてるぜ」
「そう言うお前の噂は殆ど聞こえなかったけどな、ルーノ」

 そう、たった今ギルドへと入ってレイの元へとやって来たのはランクC冒険者のルーノだった。
 レイが初めてギルムの街に来た時にギルドで絡んできたランクDパーティ、鷹の爪。その鷹の爪と共にダンジョンへと潜り、魔力を見えるというその目を使ってトラップの類を見破るという役目をこなしていた冒険者だ。確かにその時には基本的にはソロであり、鷹の爪とは臨時のパーティだと言っていたのだが……どうやら今回の臨時パーティが今ケニーに向かっていった者達らしい。

「お前と一緒にしないでくれよ。俺はその辺によくいる冒険者の1人でしかないんだからよ」
「いや、俺もその冒険者なんだが」

 思わず呟いたレイの声に、苦笑を浮かべながら手を振るルーノ。

「よせよ。オークの集落ではオークキングを一騎討ちで倒し、その功績で一気にランクGからEに。その直ぐ後に特例的な扱いでランクアップ試験を受けて一発でクリアして現在はランクD。ギルムのギルドでは最速のランクアップ冒険者だって噂はそれなりに広がってるぜ? それに何と言っても、お前さんはランクAモンスターのグリフォンを従えているからな」
「……そう言うものか?」

 自分の噂に関してはそれ程頓着していないレイはルーノにそう言われても何でも無いかのように返すだけだった。

「これだ……いや、まぁ、そんなんだからこそ逆に有名になってるんだろうけどな」

 そんなレイの様子に溜息を吐きながら首を振るルーノ。

「で、今日はお前さんは何の用でギルドに? こうして見た所では依頼を受けに来たって訳でもないようだが」
「ああ、モンスターの素材と討伐証明部位の換金にな。それと、ちょっと1人で剥ぎ取りするのが大変なくらいのモンスターの死体があって、その剥ぎ取りを依頼としてギルドに頼んだところだ」
「へぇ? どこでそんなにモンスターを仕留めてきたんだ?」

 剥ぎ取りするのが大変な数のモンスター、と聞き興味の湧いたルーノが尋ねると苦笑を浮かべながらレイが答える。

「ダンジョンだよ。お前とあのゴブリンの涎が行ったって言ってたな」
「……マジか。お前ソロだろ? いや、グリフォンがいたとしても1人と1匹でダンジョンに潜ったのか?」
「いや、ちょっと指名依頼が来てな。その護衛としてだな。で、その護衛対象が倒したモンスターは全部俺の好きにしても構わないと言ってくれた訳だ」
「はぁ……何とも太っ腹な依頼人もいたもんだな。で、そのモンスターの死体は? それ程の数なら持ってくるのにも一苦労だっただろ?」

 金の匂いを嗅ぎつけたルーノの目が一瞬光り、レイへと尋ねる。だがレイはその様子に溜息を吐きながら右腕に嵌っているミスティリングを見せるのだった。

「忘れたのか? 俺はアイテムボックス持ちだ。倒したモンスターの死体は全部この腕輪の中だよ。幸いこのアイテムボックスの中では時間の流れが無いからな。腐る、といったことはないので助かってる」
「……そうか。ちなみに、剥ぎ取りの依頼の報酬は幾らだ?」
「何だ、受けるつもりなのか? いや、俺としては助かるが」

 一応顔見知りでもあり、以前の出会いから考えてレイやレノラが心配していた素材の着服はないだろうと若干の期待を込めた目で見る。
 何しろつい少し前まで自分が組んでいた、戦闘力に自信のあるパーティ鷹の爪を文字通りに一蹴したのがレイだ。もし恨みを買ったとしたらどうなるかを考えれば迂闊な真似は出来ないだろう。だがそんな薄い期待の籠もった問いかけにルーノは軽く肩を竦める。

「報酬次第だな。それにレイ1人で大変な量だって言うんなら、俺1人でってのも厳しいだろうし」

 その言葉に溜息を吐き、何かを口に出そうとしたところでレノラが戻って来る。

「あら、ルーノさん? あぁ、そう言えばお知り合いでしたね」

 一瞬だけレイとルーノの組み合わせに戸惑ったような表情を見せたレノラだったが、さすがに冒険者ギルドの受付嬢と言うべきか、すぐに笑顔を浮かべてルーノに頭を下げてからレイへと振り返る。

「レイさん、素材の剥ぎ取りに関してですが何しろ素材の剥ぎ取りだけ、しかも大量のモンスターからと言うのは初めてなのでこちらとしてもどのランクに設定すればいいのか決めかねています」
「……そこまで難しい依頼だったか?」
「そう、ですね。何しろ素材の剥ぎ取りだけで考えるのなら、それこそランクHの冒険者でも可能です。それに報酬もかなりの額ですので、低ランクの依頼として張り出せば恐らく大量の希望者が現れるでしょうが……恐らく、その殆どがランクCモンスターの素材を剥ぎ取るという経験は無い筈です。だからと言ってランクC冒険者用に依頼を張り出すと、大量のモンスターからの素材を剥ぎ取るだけに全員分で金貨1枚となると逆に報酬が安すぎると言われまして。……すいません、先程は報酬が高すぎると言ったばかりなのに」

 申し訳なさそうに頭を下げてくるレノラを見て小さく溜息を吐きながら口を開くレイ。

「そうなると依頼は受けられないと?」
「あ、いえ。勿論受けさせては貰います。ただ、うちのギルドでは前例が無いので他のギルドに連絡を取って類似の依頼が無かったかどうかを調べてから依頼書を張り出すという形になると思いますが……それでも構わないでしょうか?」
「……そうだな、幸いアイテムボックスの中に入れておけばモンスターの死体が腐ったりするということはない。それで頼む。ただ、出来ればなるべく早いうちに依頼ランクを決めてくれ」
「はい。……手間を取らせてしまって、申し訳ありません」
「まぁまぁ。何にも最初ってことはあるからさ。ほら、レノラちゃんもあまり気にしない気にしない」

 沈み込んだ雰囲気を嫌ったのかルーノが戯けるようにそう言い、それが分かったのだろう。レノラもまた笑みを浮かべて暫しの間3人で話を続けるのだった。
 尚、その際ケニーがレノラを羨ましそうに見ていたのはある意味では平常通りだったと言えるだろう。
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