挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
レジェンド 作者:青竹

0116話

 ダンジョンで入手したモンスターの素材剥ぎや魔石の吸収をしているレイとセト。だが今の所、入手したスキルはレイが飛斬のLv.2、セトが水球のLv.2とまだ2つだけだった。
 そして次にレイがミスティリングから取り出したのは……

「オーガ、か。エレーナの話によると通常の個体よりも大きいことは大きいが、希少種とまでは言えないという話だったが」

 レイとセトの目の前に広がっているのは5m近い身長のオーガの死体だ。本来であれば5mを優に超える大きさを持つのだが、その頭部をデスサイズで切断されている為に小さく見えるのだろう。あるいは、直接向き合った時と違い地面に横たわっているせいか。

「結局この大きさだと素材を剥ぐのにも苦労するのは変わらないんだがな」

 溜息を吐き、まずは討伐証明部位である右耳を切り取ってから教本でオーガの項目を探す。

「確か討伐証明部位は右耳で合ってた筈だよな。……うん、問題無し。剥ぎ取れる素材に関しては皮膚が防具用に一通り使えると。ほう、胸の筋肉が錬金術の素材として使用可能か。……セト?」
「グルゥ……」

 自分が食べたい、と言うように残念そうに首を項垂れるセトを目にして笑みを浮かべるレイ。

「そうだな、じゃあオーガの肉は売らずに取っておくか」
「グルゥッ!」

 レイの口から出たその一言に嬉しげに鳴くセト。何しろ金に関しては困ってるどころかエレーナの護衛の報酬として光金貨を2枚貰っているのだから、無理に素材を売る必要も無いのだ。
 嬉しそうなセトの様子を見ながら教本を読み進めていく。

「ああ、手の爪は薬の材料になるのか。これは問題無いな」

 呟き、オーガの左手と切り離された右手から爪を剥ぎ取り保存する。

「それと内臓だな。……いや、その前にまずは皮を剥ぐか。教本によると防具の素材としてそれなりに優れているという話だし」

 それから30分程掛けてオーガの皮を剥いでいく。
 さすがにこう何度も素材を剥ぎ取っていると慣れてきたのか、既にその手際には初めてウォーターベアから素材を剥ぎ取った時のようなぎこちなさといったものはなく、スムーズにオーガから皮を剥ぎ取っていく。この辺に関してはオークの集落に襲撃を掛けた時にエルクから教えて貰ったことも大きいのだろう。

「えーと、それで内臓は……肝臓が薬に、肺が錬金術の材料に、あぁ、それと骨が鍛冶の時に使用可能か。……骨、ねぇ。いや、何事も経験なんだしやっておいた方がいいんだろうけど」

 5m近いオーガから骨と肉を切り分ける面倒さを考え……

「取りあえず後回しにするか。ミスティリングの中に入れておけば鮮度は落ちないんだし」

 そういう結論になるのだった。

「取れる素材は殆ど取ったから、最後に魔石だな」

 心臓から魔石を取り出す。さすがに巨体のオーガらしく、その魔石は結構な大きさを持っていた。

「……さて。どっちがこの魔石を使うかだな。現状だとセトもデスサイズも両方スキルを1つずつ覚えている訳だが」
「グルゥ」

 同感、という風に頷くセト。その様子を見ながらミスティリングに入っている残りのモンスターを確認する。

「残っているのはスプリガンとエメラルドウルフか。ただエメラルドウルフに関して言えば結構な数があるから、分ける必要は無いな。そうなるとオーガとスプリガンのどっちかを1匹ずつ分けるのがいいんだろうが。……どうする?」
「グルルルゥ?」

 レイの質問に小首を傾げるセト。セトにしろデスサイズにしろ、どちらかの魔石を吸収しても確実にスキルを覚えられるという保証は無い為にどちらでも構わないのだろう。そう判断したレイは殆ど直感的に決断をする。

「じゃあデスサイズがオーガの魔石で、セトはスプリガンの魔石で構わないか?」
「グルゥ!」

 当然、とばかりに鳴いて同意するセト。その様子を見ながらレイは持っていたオーガの魔石を空へと放り投げ、デスサイズで横薙ぎに一閃する。
 空中で2つに切断された魔石はそのまま霞の如く消えて行き……

【デスサイズは『パワースラッシュ Lv.1』のスキルを習得した】

 脳裏にアナウンスが響き渡る。

「パワースラッシュか。名前から言って飛斬のような遠距離型の技じゃないようだが……さて、どんな性能だ?」

 笑みを浮かべつつ近くに生えている木へと近付いていくレイ。
 そしてデスサイズを振りかぶり……

「パワースラッシュ!」

 スキルを発動させると同時に、デスサイズを振り下ろす!
 斬っ!
 振り下ろされた刃は、殆ど何の抵抗を受けることもなく木の幹を真っ二つにしていた。……そう。魔力を通した訳でもないデスサイズの刃で、だ。
 その結果に、レイも驚きの表情を浮かべながら切り取った木の幹へと視線を向ける。
 そこにあるのは、斬ったというよりはどちらかと言えば叩き切ったと表現するのが正確だろう切り口が残っている。

「なるほど、一撃の威力を増やすスキルか。ただ、鋭く斬り裂くと言うよりはスキル名通りに力で強引に叩き切る効果を持つ訳か。……それなりに使えそうなスキルだな」

 満足そうに頷くレイ。何しろ今までデスサイズが習得したスキルは、相手が金属製の装備をしていないと効果のない腐食だったり、遠距離攻撃用の飛斬だったり、あるいは防御用のマジックシールドなのだ。純粋に一撃の威力が上がるパワースラッシュというスキルはレイにしてみれば是非とも欲しい種類のスキルだった。

「こうなると、セトに使うスプリガンの魔石にも期待出来るな」
「グルゥ」

 早く自分にもとセトに急かされたレイは、肉と骨に分けるのは後回しにしている解体途中のオーガはそのままミスティリングへと戻し、スプリガンの死体を取り出す。その大きさはオーガをも超える6m程。ましてや首を切断されていたオーガと違って左手の手首より先以外は切断されたりしていないので、よりその大きさが際立っている。

「えーっと……スプリガン、スプリガン……」

 呟きながら教本を調べていくレイだが……

「無い、な」

 珍しいモンスターという影響もあるのか、教本の中にはスプリガンに関しては何の情報も載っていなかった。

「あー、こうなると迂闊に解体も出来ないな。取りあえず素材の剥ぎ取りに関しては後でもっと上級者用の本を買うとして……皮膚だけでも剥いでおくか」

 溜息を吐き、ナイフを使いスプリガンの皮を剥いでいく。大きさはともかく、手順に関してはつい先程までやっていたオーガとさほど変わらない為にスムーズに進んで行く。そして30分程で無事スプリガンの皮を剥ぎ、素材に使えそうな内臓の類はそのままにして心臓から魔石を取り出す。

「さて。スプリガンの魔石だが何のスキルを覚えるか、だな。無難にスプリガンの特徴でもある大きさを変えられるというスキルだろうが」

 脳裏に体長4mほどになったセトの姿を思い浮かべるレイ。
 確かに今の倍近い大きさになれば、元々のグリフォンの身体能力もあってその戦力は圧倒的な物になるだろう。だがその状態のセトを他人に見せる訳にもいかないということを考えると、微妙に困った要素も出て来るのだ。

「結局は試すしかないんだがな。セト」
「グルゥッ!」

 放り投げたその魔石をクチバシで見事に咥え、そのまま飲み込んでいくセト。そして……

【セトは『サイズ変更 Lv.1』のスキルを習得した】

 アナウンスが脳裏に流れたのだった。

「予想通り、か。セト、早速サイズ変更のスキルを使ってみてくれ」
「グルルゥッ!」

 レイの言葉に頷き、高く鳴くセト。そして次の瞬間……

「……何?」

 レイの目の前にいたセトは確かにサイズ、つまりその大きさが変更された。だがその大きさの変化は体長2mから1m程。つまり半分くらいの大きさまで縮んでいたのだ。

「クルゥ?」

 セト自身も何が起きたのかあまり理解していないらしく、急に周囲の物が大きくなったように感じて小首を傾げている。
 そんなセトの様子を見ながら内心で何故こうなったのかを考えるレイ。

(縮む、だと? てっきり大きくなるものだとばかり思ってたんだが……予想外の結果だな。だが何故小さく……いや、待て。そうか。スプリガンの魔石を吸収して入手したスキルがサイズ変更。つまりそれはスプリガンの特徴が現れた結果で間違い無い筈だ。つまり、俺はスプリガンの小さい方が本体だと思っていたんだが、実はあのでかい方がスプリガンの本体で、サイズを変えるという種族特有の特殊能力を使って小さくなっていた……のか?)

 セトがサイズ変更のスキルを使って小さくなった理由に大体の予想がついたレイは、思わず溜息を吐きながら心配そうに頭を擦りつけてきたセトの頭を撫でてやる。

「クルルルゥ?」

 体長が縮んだ為か、鳴き声すらもどことなく可愛らしくなっているのに思わず笑みを浮かべながら口を開く。

「気にするな。ただちょっと混乱しただけだからな。……よく考えてみれば、小さくなれると言うのはそれなりに便利ではあるんだよな。敵から姿を隠す時とか、こっそりと忍び寄る……のは、1mもあるとちょっと難しいか」
「クルルルゥ!」

 大丈夫、とばかりに高く鳴くセト。

「よし、元に戻ってもいいぞ」
「クルゥッ!」

 レイの声に短く鳴き、次の瞬間にはその身体はいつものように2mオーバーのグリフォンへと戻っていた。

「あー、さすがにちょっと予想外だったな。ただまぁ、さっきも言ったが小さければ小さいなりに便利に使えるだろうから気にするな。……ただし、街中や他の冒険者のように他人がいる所では使わないようにな」
「グルゥ」
「よし。じゃあ最後のモンスターだ。ランクCモンスターのエメラルドウルフだ。それなりに高ランクのモンスターだから恐らくスキルの習得は出来ると思うが」

 呟きつつ、ミスティリングからまずは1匹目のエメラルドウルフの死体を取り出す。エメラルド、と名前に付いているだけにその牙は深い緑の色をしており、まるで宝石のエメラルドがそのまま牙の形を取っているかのようにも見える。
 だが当然この牙は宝石で出来ている訳では無い。エメラルドウルフの牙とその魔力が結びついて出来たものだというのが一般的な説となっていた。

「教本によると……まずは牙だな。錬金術の触媒としても、武器屋防具を打つ鍛冶屋にしても、薬剤師にとってもそれなりに使える素材らしい。後は毛皮。こっちは防具屋や服屋で需要が高いらしい。それと内臓は……肝臓と舌と眼球が素材扱いか。後は心臓……は駄目か」

 本によると心臓も素材として買い取ってくれると書いてあるのだが、注意事項として魔石が埋め込まれたまま限定となっていた。

「まぁ、エメラルドウルフはそれなりに数があるから心臓に関してはそっちでやるとするか」

 最初に討伐証明部位の右の触手を切り取り、慣れた様子で毛皮を剥ぎ、内臓を取り出して素材として売れる肝臓を保存してミスティリングへと収納する。その後は頭を切り取ってからエメラルド色の牙を途中で折れないように気をつけながら根本で折り、同時に舌を切り取って牙と同様に綺麗な深緑をしている眼球を取り出す。それらを肝臓同様に保存容器へと入れてミスティリングへと収納する。
 尚、ランクCモンスターであるエメラルドウルフの肉は、当然魔力量が多い為にかなり上物の肉としても買い取って貰える。だが、レイにとってはモンスターの肉はセトの餌であるという認識なので売り払うことは滅多にない。
 あるいはミスティリングが無ければ腐る前に売っていたかもしれない。しかしミスティリングの中に収納しておけば腐る心配も無く、いつでも新鮮なままである以上は売るという選択肢は無かったのだ。

「さて。まずはセトからにするか」
「グルゥ」

 レイの声を聞いていたセトが顔を上げ、そこへとエメラルドウルフの魔石を放り投げる。それをいつものようにクチバシで咥え、飲み込むと……

【セトは『トルネード Lv.1』のスキルを習得した】

 レイとセトの脳裏にアナウンスが響くのだった。

「トルネード、ねぇ。いや確かに風系の魔法を使ってたから考えられないでもないんだが。セト、使ってみてくれ」
「グルルルゥ!」

 セトの鳴き声が周囲へと響き渡ると、次の瞬間には高さ1m程度の竜巻が1つだけ少し離れた位置に存在していた。

「……何と言うか、微妙にしょぼいな」
「グルゥ……」
「あ、いや。別にセトを責めてる訳じゃないからな。Lv.1なんだしこんなもの……いや、待てよ? 竜巻か。ふむ、これは結構使えるかもしれないな」
「グルゥ?」

 どうしたの? とばかりに小首を傾げてくるセトの頭を撫でながら笑みを浮かべる。

「デスサイズの魔石吸収が一段落したらちょっと試してみるか。もしかしたらこの竜巻は結構いいスキルかもしれないぞ」

 セトへとそう声を掛け、再びエメラルドウルフを1匹ミスティリングから取り出して先程と同様に素早く処理をしていく。そして魔石を放り投げてデスサイズで切断すると……

【デスサイズは『風の手 Lv.1』のスキルを習得した】

 脳裏へとそうアナウンスが響き渡るのだった。
【セト】
『水球 Lv.2』『ファイアブレス Lv.2』『ウィンドアロー Lv.1』『王の威圧 Lv.1』『毒の爪 Lv.1』『サイズ変更 Lv.1』new『トルネード Lv.1』new

【デスサイズ】
『腐食 Lv.1』『飛斬 Lv.2』『マジックシールド Lv.1』『パワースラッシュ Lv.1』new『風の手 Lv.1』new

パワースラッシュ:一撃の威力が増す。ただし斬れ味が鋭くなるのではなく叩き切るような一撃。

サイズ変更:元の大きさよりも縮む。Lv.1だと1m程度になる。

トルネード:竜巻を作り出す。竜巻の大きさはLvによって異なる。Lv.1では高さ1m程度。

風の手:風の魔力で編み込まれた無色透明の触手のような物がデスサイズから生える。触手の先端部分で触れている物のみ風を使った干渉が可能。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
▲ページの上部へ