韓国はいま、国全体が深い悲しみと怒り、さらに何ともやるせない思いで覆われている。

 韓国南西部の珍島付近で起きた旅客船の沈没事故は、300人を超す死者・安否不明者が出る大惨事となった。

 乗客の多くは修学旅行に向かう高校生だった。隣国の悲劇に胸がえぐられる思いだ。いまは一人でも多くが奇跡的な生還を果たすことを祈りたい。

 6千トンを超える客船が、どうして転覆、沈没したのか。

 原因はまだ特定されていないが、捜査当局や韓国メディアの報道をみる限り、海運会社や船の乗組員らの、あまりにずさんな行動が浮かびあがってきた。

 現場付近は韓国でも有数の潮流が速い難所にもかかわらず、操船は経験の浅い航海士に任されていた。最大積載量を超える貨物を積んでいたほか、それらをしっかりと固定していなかった疑いも強まっている。

 さらに被害を大きくしたとみられるのは、乗客に適切な避難誘導をしなかったことだ。

 船が傾き始めた際、船内放送は「動かないように」と繰り返した。管制センターが、乗客に救命胴衣を着させて早く脱出させるよう強く促したのに、対応した形跡がみつからない。

 朝鮮戦争で国土が廃虚となった韓国は、「漢江の奇跡」と呼ばれる驚異的な成長で、経済先進国の地位を築き上げた。

 だが、まるで高度成長のひずみが噴き出すように、これまで多くの大事故が起きた。運輸に限らず、インフラや建造物などのまさかの惨事もあった。

 90年代半ばには、営業中の百貨店が崩壊したり、早朝に大きな橋が落ちたりして、多数の死者が出た。今年2月にはリゾート施設の屋根が崩れ、大学生たちが犠牲になったばかりだ。

 その裏側では、効率や利益を優先する油断や慢心はなかったか。成長と競争の論理が、地道な安全策の積み重ねを置き去りにする風潮はなかったか。

 安全の落とし穴は、他の国々にとっても決してひとごとではない。日本でも05年に起きたJR宝塚線の脱線事故で、安全対策を後手に回した利益優先のJR西日本の体質が批判された。

 日々の業務のルール順守、機材や施設点検の徹底、事故時を想定した避難・救助の訓練などは、どの業界にも通じる基本原則である。

 どんなに技術が進んでも、安全の最後の守り手は人間の意識でしかない。

 悲劇を防ぐために毎日の安全を不断に見つめ直す。隣国の事故をそんな他山の石としたい。