センターサークルのその向こう-サッカー小説-

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サッカーコラム

育て方を間違えられた怪物「平山相太」【エルゴラ 14/04/21】

エルゴラの表紙(一面)が平山相太だ。
素直に嬉しい。

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たとえば名波浩のように、たとえば遠藤保仁のように、特別好きな選手ではない。ただ、期待はしていた。気になっていた。彼がデビューしてから、"なんとなく"という程度では追っている。

高校選手権で大暴れしたとき、僕は彼がそんなに好きではなかった。優秀な選手が高校サッカー部ではなくJユースへ流れはじめていたその頃、"そこ"で活躍する彼をみてもそれほどのトキメキは感じなかった。理由は単純で「体格に任せたプレーに見えたから」。要は、周りが小さいからなんとかなってるだけでは?と思っていたわけだ。

でも、彼が高校を卒業してからのプレーをみて、僕は自分が間違っていたと認識するようになる。それは、日本でのプレーではなかったのだけど。

オランダでの彼のプレーを見て、僕は認識を改めた。

「ああ、違う。こいつは体格がウリなんじゃない。体格をとてつもなくうまく使って"得点を取ること"に長けた奴なんだ。」

「平山相太は、天性の"ストライカー"なんだ」






制空権を我が物にする身長も、柔らかいタッチも、彼には道具に過ぎない。そこから繰り出すポストプレーだって誤解を恐れずに言えば「道草」に過ぎないはずだ。

恵まれた体躯と柔らかいボールタッチ。しかし何より優れているのはそれらを駆使した「ゴールへのイマジネーション」だった。頭、左右両足のどこからでも点が取れる彼だからこそなし得たものだとも思う。

つまり彼は、本来ペナルティーエリアの中でこそ最も輝くタイプなのだと僕は思っていた。例えばそれはルート・ファンニステルローイであったり、もっと大げさにいえばマルコ・ファンバステンなどの一握りの点取り屋がもつ稀有な才能だったと思う。
さすがにファンバステンやファンニステルローイは大それた目標だったとして、ただ、彼の行く先はそれだと思っていたし、現実的な目線で言えばヴェルディやレッズで活躍した「ワシントン」こそ、平山が目指すべき道だと思っていた。

ワシントンは体格がありテクニックもあったが決して「ポストプレーヤー」ではなかった。いや、もちろんポストプレーはうまかった。しかし、ワシントンの真骨頂はなんといってもボールを持ってからのゴールへ邁進する破壊力だ。テクニックもあるしフィジカルも強かったが、ワシントンのそれは、そのほとんどが「ゴールに繋がる形」だった。あれこそまさに「脅威」だった。

平山は、そうなるべきだと思っていた。恵まれた体躯と柔らかいボールタッチ。この二つだけではさすがにプロでは通用しない。彼は背は高かったが、線は細かったから。だからこの二つの能力に「驚異のフィジカル」か「一瞬のスピード」のどちらかを身につけて、ペナルティーエリアの中で絶大な力を発揮することで、こと日本サッカーにおいて最も不足しているであろう「ストライカー」になるべきだと思っていた。

しかし、彼を迎えいれた城福FC東京は、異なる選択をする
あろうことか、彼に「左右に動きまわり前線のポストとして攻撃の起点となること」を求めた。時には、そのテクニックを見て「ボールのおさまりどころ」としてトップ下に入っていたこともあった。要は、平山を「ただのデカい奴」として扱ったわけだ
"たられば"を語り出したらキリがないのはこの世界の常であるが、それにしても、僕はこの選択は「日本サッカー史に残る世紀の誤判断」だったと思っている。

平山は高校時代から今も変わらず鈍足だ。元々はそれほど運動量が多い方でもない。サッカー選手において運動量は必要不可欠であるのは事実だが、全員がピッチを縦横無尽に動き回れる必要もない。彼のスキルセットを見てポストプレーをさせたくなるのはわかる。しかし、前線をああも動き回っては、肝心のゴール前にいる回数が減ってしまう。というより、その前のチャンスメークのシーンにいるのだから、ゴール前に出てこないのが当たり前だ。平山は岡崎とは違うのだ。チャンスメークに加わりながらゴール前に顔を出せるほどの最高速も加速力も持ち合わせていない。

岡崎までいかなくとも、平山のように上背があり、それなりにスピードがあるFWは他にもいくらでもいたはずだ。前線で起点になり潰れるような役目は彼らこそやるべきだし、実際にやってきた選手はたくさんいた。ならば、平山には平山にしかできないことをやらせるべきだったと思う。なぜなら、平山にはそれは向いてないのだから。
かくして、平山は結局「どこにでもいるデカい鈍足のFW」になってしまった。

それはすごく悲しい。
この日本サッカーにおいて、2人といない「驚異のストライカー」を僕らは得ることができたかもしれないのに。
いや、だからといって当時の平山への要求をそこまで批判もできないのも事実だったりする。日本サッカーの流れがそうだったから。城福監督のムービングフットボールは当時もそして今も全く間違いではない。日本人が世界と戦うにおいて正しい選択だったと思う。そして逆に、ワシントンが活躍していた頃の浦和レッズはむしろ日本サッカーの流れとは逆行するものだった。ワシントンがいると、どうしてもボールの流れが止まる。チームメイトも彼の絶対的な能力に頼るようになってしまう。つまり、平山は日本で育てるのには無理があったのかもしれない。あのまま、オランダでプロ生活を送っていた方が良かったのではないかと思う(本人の性格がそもそもストライカーや海外向きでは無かったのだけど)。

その、平山相太が、である。
今号のエルゴラで、まるで獲物を狩る獣のような、"ストライカーの顔"で表紙を飾っている。心踊らずにはいられない。

そして紙面を開けばこうだ。

『「左サイドから(太田)宏介がすごい勢いで突破してきたので、中央で自分の動きの質をしっかり出せれば点を取れると思って」。見事にマークを外した平山が先制点を決める』

この怪物は「日本サッカー」という逆境に潰されそうになりながらも、それでも力を蓄えて、ついに目を覚ますのかもしれない。

日本サッカーのスタイルを考えると、やはり厳しい状況だとは思うがそれでも期待せずにはいられない。

僕は、香川や本田との競演を夢見ている。

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