第三章 5話
2014/4/4の投稿です。次は2014/4/7に投稿する予定です。
公爵家一行と別れて2ヶ月後
日が落ちて暗くなり始めた頃、ギムルの街の片隅では男達の悲鳴と怒声が響いていた。その声の元である男達は、竜馬を襲いに来た者達であり、竜馬の反撃によって瞬く間に制圧されていく。
「逃げろ! 俺達じゃ敵わねぇ!」
「ガキがっ、ぎゃあああ!!!」
「ぐがっ!?」
「く……」
「馬鹿野郎! 逃げろっつたのにかかっていく奴があるか!」
勝てないと悟った襲撃者の1人、襲撃者のリーダーがまだ倒されていない3人の男に指示を出したが、頭に血が上っていた男達には無視された。リーダーの指示を無視した3人が竜馬にそれぞれ腕と足の骨を折られ、顎を砕かれ、意識を奪われる。
「ま、待ってくれ、降参だ! 俺らはもうお前らに手は出さねぇ!」
「申し訳ないんですが、今はもうそんな言い分は聞かない事にしてるんですよ。最近あなた方の様な人が増えてまして、謝ったからと見逃していたらキリが無くなってしまうんです」
「そん……かはっ……」
見逃して欲しいと頼み込んだ男の目には止まらぬ速さで接近した竜馬は、男を殴り、気絶させた。
「一件落着、と」
竜馬は周囲を見渡し、既に気絶するか手足を折られて呻き続ける13人の男達を眺める。
「本当に、何時まで続くんだか……」
そう呟いた数秒後に、遠くから4人の男達が駆け寄ってくる。彼らはギムルの街の警備隊の隊員だった。
「何事だ! と普通は聞くところだが、やはり君か、リョウマ。もう聞かなくても良い、こいつらが今日の下手人だな?」
「はい。いつも通り、よろしくお願いします」
「ああ。大きな怪我の無い者から縛り上げろ! 怪我人は……今日もやるのだろう?」
「はい」
「さっさとやってくれ」
「了解です」
竜馬はヒールスライムを1匹出し、ヒールスライムと共に男達の手足にハイヒールをかけていく。するとへし折った男達の骨が治っていく。そして治療を終えた後の男達は、すぐに警備兵によって捕縛される。
「今日は7人、合わせて骨12本か……また高く付きそうだな」
「ハイヒール1回1000スート、骨1本治すのに6回の6000スート、それが12本で72000スートですね。少しおまけしてキリ良く70000スートです」
それを聞いた警備隊の男の顔が引き攣る。
「必要に駆られての事だとは分かっているが、恐ろしいな」
「これを始めてから少しはこう言う方々も減ったんですが、まだまだ来る人達は居るんですよね……居なくなれば僕もこんな事をしなくても済むんですがね……」
「とりあえず詰所に来て貰おう。支払いを済ませる必要があるからな」
「了解です」
竜馬は最近、日常的にゴロツキに襲われる日々を送っていた。それと言うのも、まるで公爵家一行が街から居なくなるのを待っていたように公爵家一行が帰った翌日から突然ゴロツキの妨害行為が急増し、1ヶ月前からは暴力的行為でくる連中が殆どになったからだ。
仕事にケチをつけるのは難しいと悟ったゴロツキ達は事実無根の悪評を流していった。しかし、その悪評は開店から長い時間は経っていなくともコツコツと築かれ始めていた店の信頼とグリシエーラやセルジュの手によってすぐに消えていった。そして悪評も効果が無いと悟ったゴロツキがこの頃から、とうとう実力行使に出てきた。
それからは店に夜襲をかける、もしくは竜馬を闇討ちしようとするゴロツキが多く出てきたが、店に居るスライム達やフェイ、リーリン、そして竜馬相手にゴロツキ程度で敵う訳が無い。被害があるとすればゴロツキが店に押し入ろうとした際、店の扉や窓に少々罅が入って修復のための材料と魔力を使う事になった程度である。
尤もその修繕費用もゴロツキの逮捕後に警備隊を通じて多少は支払われており、更に元々竜馬が魔法を使って殆どタダで作っている店であったため、その費用は殆ど使われずに収入となっているので、被害とも言えない軽微な物だ。
ちなみに払われた修繕費用は建物を壊した犯人であるゴロツキ達から徴収されており、ゴロツキがその費用を持っていなければ警備隊が一時たてかえ、その返済が終わるまで刑罰に加えて強制労働をする事になっている。
多くのゴロツキが襲撃に失敗して捕まっているのだが、もう武力行使の他に手がないゴロツキ達は諦めなかった。その結果、ほぼ毎日竜馬は襲われている。これについてグリシエーラやセルジュ、更にウォーガンまで含めて話し合いをした結果、警備隊に突き出した後で襲って来た相手の怪我人やポイズンスライムの毒を食らっている者に対してヒールスライムや解毒剤での治療を行い、治療費を巻き上げて襲撃者のリスクを増やし、かつ竜馬達の強さと店の防犯対策の万全さをアピールする事になったのだ。
この世界では正当防衛であれば相手に怪我をさせても罪には問われない。そして襲った方は怪我をさせられても文句は言えない。正当防衛で怪我をさせた場合、その怪我を放置しても構わないのだ。そんな怪我を治してやったのならば正当な額の治療費を請求する権利は与えられる。他人をボコボコにして勝手に治療し治療費を請求する。言葉で聞くと悪質な強請だが、正当防衛の結果ならば、この世界の法的にはギリギリ合法の行為だ。
竜馬はこの治療費をまき上げるという手段に難色を示していたが、このままでは竜馬は問題無くともフェイとリーリン以外の店の従業員が危ないとグリシエーラに説得され、早めに必要が無くなって欲しいとも思っているが、今では必要な事と割り切ってこの方法を取っている。
この行為を続けた結果、竜馬とその店を襲うと痛い目を見てからそれを勝手に治療され、法外ではないがかなり高額の治療費を巻き上げられるという噂がゴロツキの間に流れ、そう言った輩は前よりは減ってきている。
「これが今日の分だ。70000スート、確認してくれ」
「確かに、頂きました。ありがとうございます」
竜馬は連れて行かれた警備隊の詰所で治療費を受け取り、礼を言う。
「気にするな、別に我々の懐が痛む訳でもない。一時的に肩代わりをしているだけで、あの連中から後でしっかりと払って貰うさ。それに、こちらもそれなりに助かっている。街のゴロツキが殆ど君の方に行っているからか、他の住民への被害が激減している。おまけに時々支払いのための強制労働で改心しようとする者が居るのだからそう悪い事ばかりじゃない」
「ありがとうございます。そう言って頂けると気が楽です」
竜馬はもう一度礼を言って詰所を出る。
「おつかれさん」
「お疲れ様です」
帰宅時に襲われて詰所に寄るのが最近の竜馬の日課となっていて、詰所や北門に居る警備隊員には顔見知りも増えた。竜馬は声をかけてきたり、にこやかに手を振ってくる警備隊員に返答したり手を振り返して家に帰っていく。
一方その頃、とある部屋の中
薄暗い部屋の中に2つの人影がある。その人影はテイマーギルドのギルドマスターであるマシューと怪しげな覆面の男の物だ。
「未だにあの小僧の店は営業しているらしいが、どうなっている? 私は潰すつもりでやれと命じたはずだが?」
そう言ってマシューは覆面の男を睨みつけ、覆面の男は深く頭を下げる。
「申し訳ありません。手練を用心棒に雇っており、また彼の少年自身も予想以上に手強く……」
「この能無しめ! たかが子供一人に何をやっている! ゴロツキにくれてやる金が嵩むだけで、一向に成果が無いではないか!!」
その言葉に、男は覆面の下で唇を噛む。覆面の男は後暗い依頼を受け、依頼主の意思に沿う形で計画を練り、実行する者を雇い入れるプロなのだ。後暗い仕事をする者にはどんな方法でも金が手に入れば良いという者から、自身の仕事に何らかの美学やプライドを持っている者も居る。男は後者のタイプであり、自分の仕事にプライドを持っていた。それが今、大きく傷つけられているのだから悔しさもあるだろう。
男は金を受け取り、今までマシューの望みをそれなりに長い間叶えてきた。今回も男はマシューの依頼を受け、公爵家一行が帰った直後から何度もゴロツキを雇い竜馬と店にけしかけたものの、一向に成果が出せていないのだ。
最初は確かに様子見として街で適当な者を雇い送り込んでいた。しかし今は違う。場数を踏んだそれなりの経験者を態々別の街から呼び寄せてまで襲撃させている。普通の店ならこれで終わる筈だった。
成功しないのは単に竜馬が多くの権力者に守られているので下手に動けない事、用心棒2人と竜馬自身が強すぎる事、そして対抗出来る者を呼ぼうとすれば腕に釣り合うそれなりの額の金を用意する必要があるが、マシューが金を払わないのだ。
「ここは腕の立つ者を雇い入れなければ……」
「またその話か!! これ以上の金額は出さんと言った筈だ! あんな小僧相手にこれ以上の報酬など釣り合わん、そうやって金を搾り取ろうとしても無駄だ!」
「ならば、今の状態を続ける以外の方法はありません」
「この役立たずめ……大体何故あんな小僧の店が未だにやっていける……何故スライムと言う下等な魔獣を使っているのに……おい、あの小僧の店は儲かっているのか? それくらいは調べているのだろうな?」
その問いを聞いて、覆面の男がマシューの無能さに辟易する。
この男はマシューと深い付き合いではないが、長く、何度も心からの怒りと嫉妬に満ちた依頼を受けているためマシューの性格を熟知している。そんな男にとってはいつもの事ではあるが、どうしても、何故妨害を依頼する相手の事くらい調べていないのかと思ってしまう質問だ。
「ご存知なかったのですか? 儲けが出ているから妨害をさせていると思っていましたが」
本心ではない。覆面の男は単なる嫉妬で行った事と分かった上で皮肉を言ったのだ。
長い間覆面の男が策を考え実行してきたからか、マシューは今では人を陥れる際、調査と計画を立てる事を全くと言って良い程しなくなっていた。覆面の男もそれは分かっていたが、自分の仕事に変に口を挟まれずに済むため放置している。
マシューの性格を分りやすく例えるならば、玩具を貰った子供のような男という表現が正しいだろう。気に入らない奴は気に入らないと言うだけで権力や財力を用いて潰そうとする、それがマシューのやり方なのだから理由など考えるだけ無駄なのだ。
マシューは能力的な面ではまず人の上に立てるような人間ではないが、地位と権力で集めた金とコネを使って上の者にゴマをすり、賄賂を渡して更に上の地位に就くという事を繰り返した結果、支部とはいえギルドマスターになった男だった。今の地位を手に入れられたのは覆面の男を通じて汚れ仕事を請け負う輩を使い、競争相手となる者を陥れて行った事も大きい。
「フン! なぜ私があんな小僧に気を配らなければならんのだ。噂が時折耳に入る程度なら知っているが、客は多く来ていても安い金で洗濯を請け負っているのだろう? その上で人まで雇っているならば、儲けなど出るまい。出ても少額だろう」
この答えに呆れるしか無い覆面の男。
「確かに、マシュー様から見れば少額の稼ぎでしょう」
男のその言葉にマシューはニヤリと顔を歪め、鼻で笑う。しかし男の次の言葉で顔色を変えた。
「我々の様な小物には支店を出せる程の儲けを少額とは言えませんが」
男はそうあからさまに皮肉を言い放った。男はこれでマシューが怒り、これ以降の依頼が来なくとも構わないと考えていた。マシューは覆面の男にとって、些細な事でも依頼を出す金払いの良い上客だったが、あまりにも暗愚過ぎる。
覆面の男が手配した者が問題なく仕事をこなしていた今までは特に何の問題も無かった。しかし竜馬というただの少年とは言えない実力者が相手となり、ただ気に入らない一般人を潰すためのやり方では通用しない。覆面の男は当然方法の変更を提案するも、マシューは聞き入れない。失敗の一番の原因であり、少なからず男のプライドを傷つけていた。
竜馬はそれなりに諜報能力がある者が調べれば、冒険者ギルドや商業ギルドのギルドマスター、国有数の大商会の会頭に加え、公爵家までが動いて守ろうとしている事が分かる少年である。それに手を出すのはそれを理解していない者か、手を出して無事でいられる自信のある者だけ。そしてマシューは前者、男は後者だった。
例え公爵家が相手でも自分の尻尾を掴ませない自信のあった男だが、マシューは足を引っ張る事しか出来ない。このまま理解の無いままのマシューに付き合って万が一自分の尻尾を掴まれては堪らない。何より今のままでは割に合わない仕事だと考えた男は、マシューがこれ以上同じ事を行うのならばマシューを見限り、身を引く事を考えていた。
「支店とはどういう事だ!? 安い金で仕事を請け負っていると聞いているぞ! そんな儲けが出るはずがない!」
「事実、大きな儲けが出ていまして、支店の話も大分前から有るそうです。確かに料金は安いですが、毎日大勢の客が来ているのですよ? 1人が10スートしか支払わなくとも、1000人集まれば10000スートの売り上げが出る。安ければ何度も利用する客も出て、しかも洗濯物は人が生活する以上毎日出る。つまり需要が無くなる事は無い。本当によく考えられた商売です」
「確かに、それはそうだろう。しかしだ! そんな量の洗濯物を処理しきれる訳がない! 処理しているとしたら人件費が嵩むだろう!」
覆面の男はあからさまに溜息を吐く。
「あの店では毎日数千人分の洗濯を行うことが出来ます。それを行っているのは誰だと、いや、何だと思われますか?」
「何を急に……人に決まっているだろう! だから人件費がかかると言っているではないか!」
「確かに人なら人件費がかかります。ですが、あの店で洗濯をしているのはスライムです」
「スライム……だと? 貴様何を言っている」
「言葉通りです。貴方が馬鹿にしていたスライムに洗濯をさせているから人件費がかからず儲けが出ている、それだけの事。それ以上言う事はありません」
そう言って男は小さな袋を取り出し、マシューに投げ渡す。
「何だ、金か?」
「今まで預かっていたお金と私の取り分の一部です。私はこの件から手を引かせて貰いますので」
「なっ!? 待て! 今更手を引くだと!?」
マシューの慌てながらの怒鳴り声を意に介さず、覆面の男は呆れを含んだ声色でマシューを諭す様にこう言う。
「預かった金は返しました。……貴方はリョウマという少年から早めに手を引く事です。あれは貴方程度の手に負える相手ではありませんよ。私の言う事を聞いていればまだ可能性はあったのですが……」
男は言い終わると、マシューが止める間もなく空間魔法で転移した。そして部屋にはマシューが一人残され呆然としていた。しかし数秒後、マシューは額に青筋を浮かべ、手近にあった椅子を蹴り飛ばして部屋の外に出て行く。その目には先程までより強い怒りと嫉妬が宿っていた……
更新頻度を増やし、今週2度目の投稿! ですが、めでたい日? なのに終わりがマシューの話というこの作者的にモヤっとするタイミング……作者は結構気分屋なので、もしかしたら今日か明日に追加で次話投稿するかもしれません。
何はともあれ、やっとマシューがギルドマスターになれた理由を本編で出せました! 皆さんも何でこんなクズが高い地位に? と思っていた方も多いのでは無いでしょうか? 覆面の男の存在が大きかったんです。マシューに出来る事はゴマすりと権力・金の行使、荒い人使い、保身のみです。
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