国際報道2014

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[BS1]月曜〜金曜 午後10時00分〜10時50分

特集

2014年4月17日(木)

ハリウッド女優も巻き込んだイスラエル占領反対運動

イスラエルによるパレスチナ占領政策に反対する新たな運動が、世界に広がっている。ヨルダン川西岸などの 占領地で生産された商品の不買運動を行い、占領政策をやめさせようというものだ。そこに、ハリウッド女優、スカーレット・ヨハンソンさんも巻き込まれた。 彼女が出演したTVコマーシャルの広告主がヨルダン川西岸に工場を持っていたことから、彼女がイスラエルの占領政策を支持していると受け取られ、国際 NGOの親善大使を辞任する事態にまで発展した。こうした動きは、EUも、イスラエルが占領地で生産する物に対し税の優遇政策を取りやめるなどして、広が りを見せている。イスラエルの占領政策に反対する不買運動の波紋を伝える。
出演:辻浩平(エルサレム支局長)

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有馬
「今週末から公開になるハリウッド映画です。
ヒロインを演じているのは、スカーレット=ヨハンソンさん。
大人気ですよね。」



黒木
「ところが、このヨハンソンさん、実は、あるテレビ・コマーシャルへの出演をきっかけに、大きな批判を浴びることになりました。
それが、こちらなんです。
イスラエルの飲料関連メーカーのコマーシャルです。
一見、普通のコマーシャルですが、この出演で、ヨハンソンさんは8年間務めていた貧困問題に取り組む国際NGOの親善大使を辞めざるを得ない事態となりました。」

有馬
「背景にあるのは、イスラエルのパレスチナ占領政策をやめさせようと始まった、ある運動なんです。
その戦略、『占領地で作られた製品をボイコットする』ことです。
何が起きているのか、取材しました。」

“占領政策にNO!” 広がるボイコット

スカーレット・ヨハンソンさんが出演したイスラエルの飲料関連メーカーのコマーシャル。

スカーレット・ヨハンソンさん
「私の本当の仕事は世界を救うことです。」

出演直後から、多くの批判が寄せられました。

“世界を救うためには、もっとできることがあっただろう。”

“NGOのメンバーなのにイスラエル企業の広告塔を務めるなんて、偽善だ。”

このメーカーが、イスラエルが占領するヨルダン川西岸で操業しているからでした。

「ボイコット、イスラエル!」

今、イスラエルからの製品、とりわけ占領地で生産された商品を標的にした不買運動・ボイコットがヨーロッパを中心に広がりを見せています。

辻支局長
「イスラエル企業が参加する会議場の前では、イスラエル製品のボイコットを呼びかける運動が行われています。」

ボイコットの動きは、一般市民の間にも広がっています。
パリのスーパーマーケットでは野菜の産地が明記されており、消費者が選択することができます。

市民
「イスラエルの製品は買いません。
イスラエルの人々に問題があるというのではありませんが、政府の占領政策に反対の意志を示すためです。」


背景には、国際社会の批判を無視するイスラエルの占領政策があります。
イスラエルは、第3次中東戦争以降、パレスチナ人が多く住む東エルサレムとヨルダン川西岸、それにガザ地区を占領。





その後、1993年のイスラエルとの合意を受けてパレスチナの暫定自治区ができましたが、その範囲は限られています。
イスラエルは国連安保理で占領政策をやめるよう決議されたにも関わらず、今もヨルダン川西岸などにユダヤ人の移住を促す政策を続け、占領の既成事実化を進めています。
占領政策に反対するボイコットの動きは、占領地に住むユダヤ人に打撃を与えています。



この男性は、政府の支援を得て、ヨルダン川西岸で、ピーマンやパプリカを生産しています。
ところが、去年(2013年)、EU=ヨーロッパ連合は、占領地のヨルダン川西岸で生産された農産物を、イスラエルとの間で決めた税制優遇の対象から外すと決定しました。
男性が生産する農産物はヨーロッパ市場での競争力を失い、売り上げは20%近く減ったと言います。

ユダヤ人の農家
「こんなに打撃を受けると思いませんでした。
このままでは農業を続けていけるかどうかわかりません。」

スカーレット・ヨハンソンさんのコマーシャルで批判を受けた飲料関連メーカーも、ボイコット運動の対象となったことなどで、株価に影響が出ました。
メーカー側は、工場ではパレスチナ人もユダヤ人と同様に雇用しているとして、正当性を主張。
占領地での操業をやめれば、パレスチナ人の雇用が失われるだけだと反論しています。




イスラエルの飲料関連メーカーCEO
「工場を閉鎖してパレスチナ人労働者500人を解雇すれば、彼らは職を失い家族は路頭に迷います。
どうして雇用を与えている場が和平の障害になるというのか。
それどころか雇用によって双方は結びつけられています。」


ボイコット運動が高まる一方で、イスラエル政府は、あくまで占領政策を推し進める姿勢を変えていません。
ヨルダン川西岸で農業を営むパレスチナ人のハッサン・ジャルミさん。
今年(2014年)2月、栽培しているナツメヤシおよそ120本を突然、イスラエル軍のブルドーザーによって引き抜かれました。
イスラエル軍は、理由を「安全保障のため」としか告げず、占領下で暮らすジャルミさんは泣き寝入りするしかありませんでした。

パレスチナ人の農家 ハッサン・ジャルミさん
「息子を育てるように大切に育ててきたんです。
家族を養う大切なナツメヤシでした。
結局イスラエルは我々を追い出すまで占領政策を止めないでしょう。」




国際的な広がりを見せるイスラエルに対するボイコット運動。
占領政策への対抗手段として、どこまで効果を発揮するのか、大きな注目が集まっています。

世界への広がりは

有馬
「取材にあたったエルサレム支局の辻支局長に聞きます。
イスラエルの占領政策に反対するこのボイコット運動、どのぐらい支持されているんでしょうか?」

辻支局長
「支持は徐々に広がってきていると言えます。
NGOの動きにに呼応するかのようにヨーロッパ各国では動きが活発化しています。
例えば、デンマークの大手銀行や、オランダ最大の年金基金が、今年(2014年)に入って、占領地に店舗を持つイスラエルの銀行から投資資金を引き揚げると発表しました。
また、EUは占領地で生産された製品にはその旨を記載するよう求める政策も検討しています。
こうしたボイコットですけれども、実は日本でも行われています。
リポートで紹介した飲料水メーカーの製品を販売するデパートの前で抗議デモをするなど動きがあるんです。」

効果はあるか

黒木
「ただ、イスラエル政府は占領政策を強行する姿勢を変えていないわけですよね。
こうしたボイコット運動の効果っていうのはあるんでしょうか?」

辻支局長
「現時点では占領政策を変えるまでには至っていません。
イスラエル政府はボイコット運動に対して激しく反発していて、今後、さらに態度を硬化させることも考えられます。
しかし、パレスチナ側では、こうしたボイコット運動がイスラエル政府への圧力になるのではないかという期待が高まっているんです。
と言いますのも、かつての南アフリカの人種隔離政策、アパルトヘイトを終わらせた原動力の1つとなったのが、このボイコットだとされているからです。
パレスチナ側はそれを手本に市民レベルでの活動を今後も続けていきたいとしています。
パレスチナはイスラエルによる占領政策に対して、これまで武装闘争を含むさまざまな形で抵抗してきましたが、イスラエル側の圧倒的な軍事力によって押さえ込まれてきたというのが現実なんです。
そういうこともあって、パレスチナ側としてはこうしたボイコット運動という国際社会を巻き込んだ動きで対抗していきたいというのが本音のところだと思います。」

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