公的な医療保険が使える診療と、使えない自由診療を組み合わせる「混合診療」が、規制改革の焦点に浮上している。

 混合診療は従来、医療費全額が保険の対象外だったが、一定の先進医療を併用する場合、保険診療部分は1~3割の自己負担ですむ制度が導入された。これを抜本的に拡大しようというのが、経済人らからなる規制改革会議の提案である。

 むろん、患者のニーズにあわせ、認められる治療の審査を迅速化することなどは必要だ。

 しかし、一線を越えれば、「安全な医療を、貧富の差にかかわらず受けられる」という原則を骨抜きにし、患者の利益を損ねる可能性もある。6月の答申に向けて注視したい。

 規制改革会議は提案を「選択療養」と呼ぶ。患者と医師の合意があれば、対象となる治療法を積極的に認める内容だ。

 議事録から透けるのは、治療の選択を極力、当事者である医師と患者に委ねる姿勢である。だが、医療は専門性がきわめて高く、多くの場合、患者は医師を信用するしかない。

 「全国統一的な中立の専門家による評価を受ける」というものの、委員の発言を読めば届け出制に近く、「絶対危ない治療、めちゃくちゃな医者にストップをかける」という程度のゆるい審査で実施したいようだ。

 これは危うい。きちんと客観的に評価できる臨床試験の枠組みで進めるのが筋だ。

 そうでないと、すでに自由診療で広がりつつある「効果ははっきりしないが、副作用はごく軽い」という「最新医療」を横行させ、わらにもすがる思いの患者が食い物にされかねない。

 もう一つの懸念は、貧富の違いによる医療の格差を広げ、固定化する恐れがあることだ。

 これまで混合診療が認められた治療法は、安全性と有効性を確かめたら公的保険の対象に移し、誰もが使えるようにすることを前提にしている。

 今回の提案には、この前提がない。効果が認められた治療が「選択療養」にとどまり、金持ちしか受けられないなら、医療の格差は固定化される。

 難病患者の団体は「必要な医療は保険適用が原則」として、「なし崩し的な解禁」に反対を表明している。10年前の混合診療論議では、高価な未承認薬を使うがん患者らの声が一部解禁を後押ししたが、今回はそれも聞こえてこない。誰が大幅な緩和を望んでいるのだろう。

 「岩盤規制の打破」というスローガンの前に、患者の真の利益を考えてほしい。