社説:教科書選び 町の選択生かしてこそ

毎日新聞 2014年04月20日 02時40分

 国が小さな自治体を相手に何を、といぶかる人も少なくないだろう。中学公民教科書の広域共同採択をめぐる対立である。

 保守色が強いとされる育鵬(いくほう)社版を選んだ沖縄県・八重山採択地区協議会の決定に反して、独自に東京書籍版を採択した竹富町教育委員会に対し、文部科学省は教育長を呼び「是正要求」に従うよう求めた。

 平行線のままだ。文科省側は町の今後の対応次第で違法確認訴訟を起こすかどうか判断するという。そんなことをしても何ら益はない。ますます反発を強めることになろう。

 それより、これを機に今回の事態が提起した「教科書選び」のあり方について論議を深め、改革のばねにすることだ。

 また文科省は、町が育鵬社版を採択し、現在使用の東京書籍版を「副教材」として使うなら、違法性はなくなるともちかけた。町側は検討するとはしたが、否定的だ。

 この提案はメンツにこだわり「かたち」をつけようという苦肉の策とも受け取れる。問題の本質から外れているといわざるをえない。

 さらに、八重山採択地区から単独離脱したいとしている竹富町に対し、文科省は認められないとし、地区決定権限を持つ沖縄県教委に認めないよう求める。

 だが矛盾がある。今回のようなケースの再発防止のため、協議会で決定した教科書の使用を義務づけた改正教科書無償措置法は、一方で共同採択地区の区割りをこれまでの「市郡」から「市町村」に改め、町単独でも可能にした。合併が進み町村が減ったことなどを理由にしている。

 県教委が認めれば竹富町単独の採択が可能になり、改正法の施行は来年4月だが、今回の国の強硬姿勢も事実上意味を成さなくなる。

 1960年代、義務教育教科書の無償化とともに始まった複数の自治体にわたる共同採択は、教委や教員らの負担を軽くし、配布を効率よくし、共同で工夫もしやすくするなどを理由にしてきた。

 しかし、政府の規制改革論議でも改廃案が提起されるようになる。

 例えば、自民党政権下の2009年に閣議決定された改革計画の中では、学校教育の自主性、多様性確保の重要さを踏まえ「将来的には学校単位での教科書選択の可能性」も見て、採択地区の小規模化、さらに町村単独の採択も検討対象にした。

 事前の教科書研究に手分けが必要なら、近隣自治体と柔軟に共同し、採択はそれぞれの自治体単独でという専門家の提案もある。

 今回の混乱が平行線状態を越え、改革の足がかりを見いだす発想の転換につなげたい。

最新写真特集