Why stagnation might prove to be the new normal by Lawrence Summers
http://www.ft.com/cms/s/2/87cb15ea-5d1a-11e3-a558-00144feabdc0.html#axzz2ydg5Tfxb
ファイナンシャルタイムズの12月15日(2013年)のコラムの翻訳です。部分的には翻訳されているようですが、全部翻訳しました。
**********
なぜ停滞が新しい定常状態だと言えるのか? ローレンス・サマーズ
過去10年間のうち危機前の時代では、バブルと金融規制の緩和のおかげでかろうじて緩い成長が達成できた。
アメリカや他の主要な経済国は、非慣習的な政策の助けを借りなければ完全雇用と強い成長に戻ることができないのだろうか? 私は、このような考え――「長期的停滞」("secular stagnation")という古い概念――について、IMFによって主催された会議で言及した。
私の関心は、いくつかの根拠にもとづいている。最初に、金融市場の回復は、4年前にだいぶ進んだが、その他の点での回復は、アメリカでは人口成長率と長期的な生産性成長率に追いつく程度にしかなっておらず、他の国ではむしろ悪化している。
第二に、過去10年の中頃のどう見ても持続するとは思えないバブルと金融規制の緩和によって、加えて簡単に得ることができる大量のお金のおかげで、かろうじて穏やかな経済成長が達成されていた。第三に、短期の金利はゼロ制約によってまったく下がらなくなっている。そのため、実質金利は、投資を促し完全雇用を達成するのに必要なレベルまで十分に下がらなくなっているかもしれない。
第四に、このような状況では、低下する賃金と物価、あるいは期待されたレベルより低い賃金と物価は、消費者や投資家に支出を遅らせるようにうながすので、経済活動を悪化させる。またそれは、通常支出性向が高い債務者から、支出性向が低い債権者に所得と資産を移転することになる。
このような仮説から得られるインプリケーションは、経済と政策はやがて正常状態に戻るだろうという考えが、もはや通用しなくなっている、というものである。日本を見てみよう。日本の現在のGDPは、名目金利がほとんど0である状態が何年も続いているのに、30年ほど前に予測された値の3分の2以下である。しかし、注目すべきは、1980年代末の日本のバブル崩壊後の5年間のGDPの低下は、2008年以後のアメリカのGDP低下よりも少なかった、ということである。現在のアメリカのGDPは、金融危機前に予測された値よりも10%以上低いのである。
もし長期停滞に対する懸念が現在の経済状況と関連をもっているなら、これは重要な政策的インプリケーションを提示している(これについては改めて別のコラムで論じることにしよう)。しかし、政策の問題に移る前に、長期停滞に陥っているという仮定に関する、注意すべき2つの中心的な問題を見ておこう。
第一に、成長の加速は、アメリカや他の国ではもう起こらないのだろうか? これに関しては、確かに楽観論にも根拠がある。最近の統計を見てみよう: 株価は好調だし、急激な財政引き締めも終わっている。また、長期停滞の不安というのは第二次大戦後にも蔓延していたが、結局まちがいだと証明された。現在では、長期的停滞は、私たちが必ず陥る運命ではなく、予防すべき付随的現象と見なされるべきものになっている。しかし、1990年代の日本と同じように、ここ数年、多くの指標の予測における回復のスピードは低下してきているし、回復だと思われたものがまちがっていた、ということも起こっている。より重要な点は、現在では、経済成長が次の年に上昇しても、定常状態での実質金利においてそこそこの成長を維持できる、という保証にはまったくならないことだ。ヨーロッパと日本は、アメリカより低い成長率になると予想されている。先進国全体で、インフレは政策目標を下回っており、上昇する気配を見せていない――これは、慢性的な需要不足に陥っている、ということである。
第二に、どうして経済は、金融危機の影響が解消されたのに正常状態に戻らないのだろうか? 経済を均衡させる実質金利が低下している、と信じるに足る根拠があるのだろうか? どんな名目金利のレベルでも(訳注 0以下にはならないのでい0以上の、ということ)、支出のレベルは以前に比べて低下しているだろう、と考えてよい直感的な理由がたくさんある。投資需要が、労働力人口成長率の低下によって、もしかすると生産性成長率の低下によっても、低下しているかもしれない。富裕層の所得のシェアの急激な増加によって、また資本の獲得による所得のシェアの増加によって、消費も低下しているかもしれない。金融危機の影響によって、また政府と消費者の両方の貯蓄の増加にしたがって、リスク回避の傾向も高まってきている。金融危機は金融仲介の費用を高くし、いっぽう債務者に大きな債務を残した。耐久消費財の価格の低下――とくに情報技術に関連する消費財の価格低下――は、同じレベルの貯蓄で毎年より多くの資本を購入できることを意味する。インフレが低下すると、どの名目金利でも課税後の金利は、インフレ率が高かった時代と比べて高くなる。これは実際のデータによっても支持される。ここ何年も、物価連動債の利回りは低下する傾向にある。実際、5年の期間で見るとアメリカの実質金利は完全にマイナスになっている(訳注)。
ある人は、長期的停滞の考えから、需要の底支えをするためにバブルが起こったほうが望ましいと指摘している。しかし、この考えは、予測と望ましいことを混同している。人工的にバブルを引き起こすより、生産的な投資や価値の高い消費を促進することで需要を増加させるほうがいいに決まっている。いっぽう、低い金利は資産価値を高め、よりリスクを冒すように投資家にうながすので、バブルを発生させる可能性が高くなる、と認識できたとしても、そういう予測が合理的であるにすぎない。むしろ金融が不安定になるリスクが高くなるのなら、構造的停滞をあらかじめ防いでおくことが非常に重要になるのである。
訳注)ここの「実質金利」は、5年満期物価連動債の利回り。