ガンダムのプラモデルによるバトルという、ガンダム作品の中でもホビー色を全面に出した明るく楽しい作風である一方、昔からのガンダムファンをうならせるマニアックなモビルスーツも登場させ、新旧のファンから熱い支持を受けつつ終了した「ガンダムビルドファイターズ」。
この「異色」なガンダム作品はいったいどのようにしてできあがったのだろうか? そこにはガンダムブランドのプレッシャーとスタッフへの信頼が強くあったという。サンライズの小川正和プロデューサーに話を聞いた。
念願の「ガンプラアニメ」
――「ガンダムビルドファイターズ」の企画はいつ頃から準備されていたのでしょうか?
バンダイのホビー事業部さんからはずっと前からこの企画をやりたいという要望が来ていたのですが、サンライズの中にも数多くのガンダム作品があったので、ちょうど「機動戦士ガンダムAGE」(以下、AGE)が終わるころくらいに具体的な話になった感じですね。実質1年半くらい前だと思います。
内容的にも、ガンプラバトルを扱うからといって従来のガンダムに映像が劣るようなことはしたくありませんでしたし、バンダイの担当の方とも付き合いが長いので、こちらの指針については特に反対もなく、了承していただきました。
――今回は2クールでしたが、他のガンダム作品のように1年間という考えもあったのでしょうか?バンダイさんからそのようなお話もありましたが、サンライズ内の全体的な作品のバランスもありますし、制作の感覚的な部分でもあるのですが、無茶をできるのは2クールかなと。いろんな事情を相談した結果、「まずは2クールをやりきろう」と決まりました。商売の観点から見ると1年間やってくれたほうがプロモーション効果になりますし、他のホビーアニメでもそれが普通なんですが、映像的にこだわると2クールなんです。結果的にはこれでよかったという手応えを得ています。
――小川プロデューサーは制作畑の方としてこれまで何作もガンダム作品に関わられてきましたが、本作に向かうにあたってのプレッシャーは大きかったですか?サンライズに入社して半年後に「
機動戦士ガンダムSEED」の制作に異動してから「AGE」までずっとガンダム作品に関わってきましたが、今回は特に失敗できないなという思いでした。「ガンダム」というコンテンツは非常に大きくなっているので、取り扱いが難しいですし、やるからには必ずある程度の結果を期待されます。他のアニメ作品は映像作品のパッケージ販売、あるいはホビーやゲームといった商材を売ることが目的とされるのですが、ガンダムにはその両方が課せられます。その意味でサンライズの中でもハードルが高い作品であるのは間違いないですね。ただ、企画の最初から関われたという意味でいい機会をもらえたなと思っているんです。スタッフの選定も含めて、こちらの主導でやれましたし、結果的にいろいろとやることは増えましたが、やることをやったうえである程度の結果が出てきたのはよかったですね。
――スタッフィングの頃はどんな状況だったのでしょうか。
バンダイのホビー事業部は記念作品としてOVA「模型戦士ガンプラビルダーズ ビギニングG」という作品は作っていましたが、TVシリーズとして作るのは彼らにとっては念願で、自分としてもスタジオとして関わる以上、きちんと世間に出せるような作品にしたいなと思っていました。とはいえ、ガンプラが題材というところでこの作品は「機動戦士ガンダムUC」とは違ったところに存在していた感じで、実際のところあまり期待もされていなかったんです(笑)。発表会でも「なんだ。次はガンプラか」という風な感じで、ハードルが低かったのでやりやすかったですね。最初に出したプロモーションビデオからSDガンダムを出したり、バラエティに富んだガンプラをいっぱい出せたり。
これがガンダム本編だと、キャラや世界観の説明をしなくちゃいけなかったりするのですけど、そこはある程度割り切って作れたんです。昨今、期待値が上がれば上がるほど周囲の要求が高くなってくるし、いろいろな調整が必要になって、結果として作品が微妙なものになってしまいがちです。もちろん、ガンプラを売らなくてはいけないという課題はありましたが、それはガンダム本編のほうでも要求されていたことですから。逆に、モチーフがガンプラになったことでより純粋にやれることもありました。もうひとつは、スタッフの多くが今まで付き合ってきたスタッフだったので意図を汲みやくてやりやすかったという点です。畑が違うところから口出しされずに各々がそれぞれのポジションでやれることをしっかりやるという。それは本来当たり前のことなんですけど。
――監督を長崎健司さんにお願いした理由を教えてください。自分は「
機動戦士ガンダム00」(以下、00) のときに制作デスクを担当していたのですが、「機動戦士ガンダム00」の1stシーズンの第23話でロックオンが死ぬ回を演出されるなど、そのときから演出としてのセンスや仕事に対する姿勢はわかっていたので、いつかいっしょにやりましょうという話はしていたんです。ただ、今回の作品が、人が死ぬような従来のガンダム作品だったら、たぶん受けてもらえなかった気がします。創作上のものとはいえ人の生死に関わる作品にはちょっと間を置きたいという話も聞いていました。もちろん自分としても内容的にそっちに向ける気は毛頭ありませんでした。
ベテラン監督の名前も考えてはいたんですけど、せっかくこういう新しいガンプラアニメをやるわけだから、サンライズの中でも新しい人にお願いしてみるのもいいんじゃないかという意見もあり、提案したら意外とすんなり通りました。弊社の佐々木(佐々木新エグゼクティブプロデューサー)も、「00」を含めずっとガンダムに関わっている人間で、長崎さんがどういう人かわかっているので、話が通りやすかったんだと思います。長崎さんは業界内で嘱望されている方なので、けっこうな引っ張り合いになりましたが、お互い「00」での仕事ぶりを知っていたからこそ成立したのかなと考えています。
――長崎監督のお仕事ぶりの何が決め手だったのでしょうか?
どういう映像に仕上げてくれるかはある程度予測がつくし、納得がいくものを作ってくれるだろうとは思っていました。メカ演出ってある程度、経験値がないとできるものではないと思うのですが、長崎さんは「00」で劇場版まで長く関わってくれたので心配はありませんでした。脚本の黒田洋介さんはガンダムに詳しい方ですし、「ガンプラビルダーズ」をやっていたこともあります。「00」のときに長崎さんという演出家がどういう方かもご存じで、いつかいっしょに仕事をしてみたい演出家だと黒田さん自身おっしゃっていたので、熱血スポーツものという方向でやるんだったらいっしょにやりましょうと始まった感じですね。路線は最初から決まっていたので、あとは具体的にどういうふうに詰めていくかだけで、その意味では趣旨が一貫していましたね。