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【社説】

竹富町の教科書 地方の教育こそ尊重を

 国の是正要求には応じず、中学校の公民教科書は変えない。沖縄県竹富町が下した決断は評価できる。国は理不尽な介入をやめ、地方の多様な教育を温かく見守るべきだ。主役は子どもたちである。

 かいつまんでおさらいしよう。

 竹富町教育委員会は石垣市と与那国町の教委とで八重山採択地区協議会をつくり、小中学校の教科書を決めてきた。三年前に協議がこじれ、中学公民は異なる教科書を寄付金で賄い、配っている。

 協議会の答申は領土に手厚い育鵬社だった。だが、はなから結論ありきの協議手順だったとして竹富町は拒み、米軍基地に詳しい東京書籍を選んだ。

 地方教育行政法は市町村に教科書選びの職権を認めている。竹富町はこの規定を根拠にした。

 一方で、義務教育の教科書を国費で賄うルールを定めた教科書無償措置法は、複数の自治体でつくる採択地区では教科書を統一するよう求めている。竹富町はこれを破っているとして、文部科学省は答申に従うよう是正を要求した。

 法律の矛盾を放置しての発動には無理があったのではないか。協議会決定に法的拘束力がなかった点も踏まえれば、竹富町の振る舞いを違法とするのは強引すぎる。

 文科省はその欠陥を認めていたからこそ無償措置法の改正に動き、採択地区での協議結果を守るよう義務付けたのではないか。

 是正要求に正当性はなく、相手にしない。第三者機関に不服を申し立てる余力があるなら、子どもの教育に振り向ける。竹富町はそう結論した。余計な負担を抑える賢明なかじ取りといえる。

 これに対し、文科省は違法確認訴訟をちらつかせ、育鵬社を採択して東京書籍を副教材として使うよう竹富町に提案した。あくまで是正要求をのませ、国の体面を保ちたいようだ。自治理念をないがしろにするどう喝に等しい。

 改正無償措置法には利点もある。相次ぐ市町村合併を背景に、採択地区の構成が「市郡」から「市町村」に細分化された。竹富町が独立を望んだのは当然だ。地区割りを決める沖縄県教委はその意向を十分に尊重してほしい。

 グローバル化や高度情報化の時代だ。学校教育の多様性や創意工夫が一層求められる。国立や私立のように、公立でも学校単位の教科書選びを視野に入れ、採択地区の小規模化を目指すべきだ。

 安倍晋三政権の教科書統制的な動きは時代に逆行し、地方の教育の個性を窒息させかねない。

 

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