同じSTAP細胞論文に参加しながら、別々の日に別々の場所で記者会見することになってしまった小保方晴子氏と笹井芳樹氏。それぞれの会見で「師弟」は互いに気遣いを見せたが、焦点のSTAP細胞の「成功」「有無」については、小保方氏は「あります」と断言したが、笹井氏は慎重な言い回しに終始。微妙なズレを感じさせた

写真拡大

同じSTAP細胞論文に参加しながら、別々の日に別々の場所で記者会見することになってしまった小保方晴子氏と笹井芳樹氏。それぞれの会見で「師弟」は互いに気遣いを見せたが、焦点のSTAP細胞の「成功」「有無」については、小保方氏は「あります」と断言したが、笹井氏は慎重な言い回しに終始。微妙なズレを感じさせた

 STAP細胞は存在するのか否か。

 理化学研究所などが1月末に発表した新型万能細胞「STAP細胞」の論文不正問題は、4月16日にキーマンの1人、理研発生・再生科学総合研究センターの笹井芳樹副センター長(52)が記者会見を行ったことで、理研と主な共著者らの主張が出そろった。論文の筆頭著者である理研の小保方(おぼかた)晴子研究ユニットリーダー(30)は「STAP細胞はあります」と自身の会見で断言した。一方、小保方氏が「尊敬している」と公言する共著者の笹井氏は「信じるか信じないかといわれるが、科学は宗教ではない」と明言を避け、科学的な再現実験が必要と強調した。笹井氏ら理研側と、小保方氏には細胞作製の成功について認識に“ずれ”があり、論文撤回に関する主張も平行線をたどっている。

■使わなかった「捏造」

 「一番は、こうした事態を避けてあげられなかった自分のアドバイザーとしての足りなさをわびたい」

 笹井氏が16日に東京都内で開いた会見。隣には理研の理事や広報室長が並び、会見は3時間半に及んだ。

 「小保方氏に声をかけるとしたら」という質問に笹井氏は、上司としての無念さを率直に表現し、部下を思いやる謝罪の言葉を口にした。

 一方で、小保方氏の会見でも繰り返し問われたSTAP細胞の有無について、笹井氏は「データを組み上げる部品にいくつかひびが入った以上、あいまいに信じる、信じないと言うべきではない」と科学者らしいデータ重視の姿勢を強調した。

 ただ、「存在しないと思ったら共著者に加わっていない」「STAP現象は最も合理的な仮説」とも述べ、STAP細胞の存在を期待している様子もうかがわせた。

 「信じるか、信じないかといわれても、科学は宗教ではない」と断定を避けた笹井氏だが、長時間の質疑応答の中でも、「捏造(ねつぞう)」という言葉を使わなかったのが、思いの表れのように見えた。

■「成功」認識の「差」

 一方、笹井氏と二人三脚でSTAP論文を執筆したという小保方氏は、4月1日に公表された論文に捏造や改竄(かいざん)の不正があったとする理研調査委委員の最終報告を受け、8日に不服を申し立て、9日に会見を行った。

 会見に弁護士は同席したものの、理研側関係者の姿はなく、理研の研究者としてはたった1人で会見に臨んだ。この日の会見で「STAP細胞は、あります」と言い切った小保方氏は、14日には会見で言い尽くせなかった部分に対する補充説明として、代理人弁護士を通じ、新たな文書も公表した。

 焦点は、小保方氏が会見で「200回以上成功した」と表現したSTAP細胞の作製について、どう認識しているのかだった。小保方氏の補充文書では、酸などでストレスを与えた細胞で、万能性を持つ細胞特有の遺伝子が現れたことを示すマーカー(指標)が「陽性」を示したことで、「STAP細胞ができたことを確認した」と定義付けていた。

 小保方氏は1月末に行ったSTAP細胞の作製に成功したことを発表する最初の会見で「STAP細胞からキメラマウス(万能性を示す胚にSTAP細胞を入れて作ったマウス)を作製した」「神経や筋肉などの細胞に分化する能力があることを確認した」と説明した。キメラマウスが作られたことが真実ならば、万能性の確かな証拠となる。

 一方、理研は2人の研究者が、マーカーの陽性を確認したことを明らかにしている。ただ、論文の発表前後を含めても、キメラマウスの作製まで再現した報告はなく、STAP細胞の存在は不明で、1年をかけて検証を行うとしている。

 そして、マーカーの陽性だけでは「科学的に完全に再現したとはいえない」として、「第三者による成功」を裏付けるものではないとするスタンスを取っている。

 笹井氏も16日の会見で、「何をもって成功したかと判断したかによる。小保方氏は成功という感触を持っているのだろうが、キメラマウスを200回作ったわけではない」と認識の“ずれ”をうかがわせた。

■論文撤回は潔いのか

 認識の違いは、論文の取り下げに対する姿勢にも現れている。

 理研側は「不正が確定すれば論文の取り下げを勧告する」とし、笹井氏も会見で「撤回が最適と考える」と述べている。

 その理由として笹井氏は「撤回は100をゼロにするのではなく、マイナス300くらいのイメージ。小保方氏は撤回に抵抗があると思う。そういう考え方があるということは一般論として十分理解できる」とした上で、「マイナス300になるとしても、一度受け入れ、より高い確度で検証するのが潔い」と、理性的な判断を主張した。

 ただ、小保方氏は「撤回すれば、国際的に結論が間違いだと発表することになる」と徹底抗戦の姿勢を示している。

 このように、小保方氏と理研側とでは、判断基準が異なるため、現状は両者の意見の相違は埋まりそうもない。

 小保方氏は笹井氏の会見後、「尊敬する笹井先生が私の過ちのため、厳しい質問に答えている姿を見て、本当に申し訳ない。申し訳なさ過ぎて、言葉にならない」と語ったという。

 しかし、笹井氏の言葉通り「科学」は「宗教」ではない。笹井氏の主張とは違い、小保方氏はこう言い切っている。

 「結論が正しい以上、(論文の)撤回はしません」