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特掃隊長
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2013-02-13
すばらしい作品でした。これは今年読んだ中でもベスト5に入りますね!
特殊清掃:「腐乱死体の清掃」を仕事にする
「特殊清掃」は人気ブログのまとめ本。佐々木俊尚さんが時折ツイートしているブログなので、知っている人は知っているかも。ぼくも佐々木さん経由で存在を知りました。
で、この本、すばらしかったです。何がどうすばらしいか。この本を読むと、「死」の捉え方が変わるのです。
書中では淡々としたテイストで、凄まじい現場が描写されています。たとえば「二週間浴槽の中に浸かっていた死体の清掃」など…。
一読すると、どうしてもこういった強烈な描写が頭にインプットされてくるのですが、本書の見所はむしろ著者が投げかける「死」についての問い。浴槽のなかは、ホントにヒドい状態だった。故人や依頼者に失礼な表現ながら、浴槽のなかはおドロおドロしく私にとっては超がつくぐらいの汚物でしかなかった。
「余計なことを考えずに、淡々とやろう」
そう心に決めても、波じゃない汚腐呂は私の脳に容赦ないジャブを連打。私は、口から飛び出しそうになる胃を喉で抑え、特清魂のカラータイマーを点滅させながら悪戦苦闘した。
"死"……特に、自分の死を考えることは、とても有意義なことと私は考える。
もちろん、それで刹那的、短絡的になってはいけないのだが、深く深く考えると自然と神妙かつ減収な気持ちになってくるものだと思う。
こんな仕事をしている私は、普通の仕事をしていれば得られるものを得られていないかもしれない。普通の仕事をしていれば、失わなくて済むものを失っているかもしれない
しかし、死を数えるチャンスは、数えきれないくらい与えられている。これは、何物にも変えられない宝かもしれない。
本書を読むと、「あぁ、人間ってのは腐っていくんだなぁ…」ということを、ごく冷静に捉えることができます。こうして文章を書いているぼくも、腐れていくわけです。既に部分的に腐っているかもしれません。色んな意味で。
仏教絵画のなかでもっとも有名な作品に、「九相図(くそうず)」というものがあります。
現代においては、人の死体に触れる機会はほとんどありません。そんな問題意識から、アメリカでは死体を前にして瞑想をする、という取り組みも行われていたそうな。死体の変貌の様子を見て観想することを九相観(九想観)というが、これは修行僧の悟りの妨げとなる煩悩を払い、現世の肉体を不浄なもの・無常なものと知るための修行である。
九相図 - Wikipedia
レヴァインは、それぞれ30人ほどのボランティアをつれて、サンタ・クルズ市立病院にへ行き、遺体を前にして瞑想したのです。死体は、病院に提供された実験用の遺体を使いました。
70年代後半のアメリカでは、まだまだ死はタブーとされ、隔離され、隠されていました。遺体を前にした瞑想は、実に大胆な常識への挑戦でした。レヴァインは死を看取る人々が、直接死を見つめる機会がないかぎり、死に行く人に対して本当に心を開くことができないと確信していたのです。
チベット死者の書―仏典に秘められた死と転生 (NHKスペシャル)
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河邑 厚徳,林 由香里
日本放送出版協会
1993-09
本書「特殊清掃」は、この時代における「九相図」であり「死者を前にした瞑想体験」だと思います。人によっては嫌悪感を抱くかもしれませんが、記されていることは真実です。人間は、腐っていくものなのです。
比較的薄い作品ですが、中身は大変充実しています。著者のプロ精神のあり方、そして養老孟司先生の深遠な解説。これは「ブログ文学」の最高峰だと思いますよ、ホント。Kindleでも読めるのでぜひ。
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