韓国南西部、珍島の沖合で16日に起きた旅客船「セウォル号」の沈没事故で、韓国海洋警察は17日、イ・ジュンソク船長(60)を業務上過失致死傷などの疑いで調べ始めた。操船に過失があったことは間違いなさそうだがより重大なのは、乗客ほったらかしで、同船長が真っ先に逃げたのを目撃されていることだ。海洋警察幹部は「船員法に違反した」と話しているという。なぜこんな非常識な行動をとったのか?

 韓国の船員法は船長の職務として、緊急時に人命救助に必要な措置を尽くし、旅客が全員降りるまで船を離れないよう規定している。これは世界共通の認識だろう。

 17日付の韓国紙「東亜日報」によるとこの船長は、病院に搬送された際の取材に対し「乗務員なので何も知らない」とウソをつき、「暗礁に衝突したのではない。突然沈んだ」と語ったという。しかも、病室では海水で濡れた紙幣10枚を床暖房で乾かしていたというから、もはや船長失格を通り越し人間として…。修学旅行の多くの高校生たちが、恐怖におびえているのも関係なしなのだから恐ろしすぎる。

 また、船長は事故当時、船員に対して退避を指示したとの証言もある。

 事故原因については、船が急激に進路変更したことが明らかになっている。海洋警察は航路を変えた時に、自動運航装置をオフにして速度を落として手動で運航をしなければならなかったのに、船長がこれを怠ったとみている。なぜ船長は真っ先に逃げ、乗組員はそれを止められなかったのか。韓国事情に詳しいジャーナリストはこう説明する。

「韓国では肩書が重んじられます。給料が上がるより、長と名のつく役職をもらう方を喜ぶといいます。李朝時代の階級社会のなごりです。たとえば、朴さんという人がいるとして、その部下が彼を呼ぶとき、朴部長のあとに『様』をつけて、朴部長様(パク・ブジャン・ニム)と呼ぶのが常識です。それほど、上下にこだわる社会なのです」

 つまり、船長は船の責任を背負う重圧を感じることより“私は王様”との意識なのだという。

 過去にそんなことを示す事故があった。1995年、ソウルの三豊デパートの建物が地震でもないのに自然倒壊し、500人以上の死者を出す大惨事が起きた。原因は設計ミスと手抜き工事。

 同事情通は「日本ならまず、デパートの社長が事情説明とともに被害者へのおわびの会見をするでしょう。ところが、三豊デパートの社長は『建設工事を行ったのは建設作業員であって、私ではない。私は社長だ』と開き直ったのです。そもそもこのビルは、4階建ての予定を急きょ5階建てに変更していたのです。今回の日本製の船も、乗客を100人以上多く乗せるため無謀と言える改造をした。三豊デパートの大惨事が何の教訓にもなっていないことは明らかです」と指摘する。

 海洋警察関係者によると、25人乗りの救命ボートが46隻積んであったが、準備する船員が逃げたうえに、正常に動作したボートは1隻だけ。使えもしないでたらめな救命ボートが積み込まれていた可能性が高い。

 その一方、船員の中には最後まで船に残って乗客の脱出を手助けし、死亡した女性乗務員パク・ジヨンさん(22)のような人もいる。複数のメディアが「学生の脱出を助け、数が足りない救命胴衣を学生に譲り、20人を助けた。自らは亡くなったが、清海鎮海運(セウォル号の運航会社)の花だ」とたたえている。