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視点・論点 「日本の捕鯨の将来」2014年04月15日 (火)
国際東アジア研究センター客員主席研究員 小松正之
3月31日国際司法裁判所(ICJ)から日本が2005年から実施している第2期南極海鯨類捕獲調査事業(第2期調査)の実施に判決が出ました。それは、日本にとって極めて厳しいものでした。第2期調査の実施を差し止め、今後日本政府の調査計画の許可も差し止める内容でした。
私は、この判決を吟味しましたが、日本敗訴には日本政府の対応の怠慢・不適切さに起因することとICJの判断があたかも日本の第二期調査を止めるシナリオが描かれている点があることや読み取りました。
その意味で今回の判決は、政府の対応とICJの国連機関としての公正と信義に疑問を生じる、妙な判決であります。
今日は、これらの点について解説し、今後日本の捕鯨の取るべき道を私なりに述べたいと思います。
ところで、この第2期の南極海鯨類調査計画は、私が水産庁で捕鯨を担当しているときに、日本と世界の最高水準の鯨類科学者の英知を結集して、それまで16年に及ぶ第1期の調査結果を総合的評価し、約2年以上の歳月を費やして作成されたものであります。その意味で、世界に冠たる目的を備え、調査結果が人類の鯨類資源の保護と持続的利用に大いに役立つことを期待しておりました。第2期調査がその設計通りに実施されれば、素晴らしい成果と貢献が期待できたのですが、結果的には、初期の目的からほど遠い内容の調査しか、実行されませんでした。私が一度も実施の責任者になれなかったことは、非常に残念ですし責任も痛感しております。この計画を実行した日本にためにも悔しさが残ります。
一方、私は第1期の調査捕鯨の改訂調査はすべてに加わりました。その調査の結果は、ICJの判事からも高く評価されました。このことは全く皮肉です。ICJに提出された日本の科学的貢献に関する文書も第1期の調査捕鯨に関するものでした。
ICJの判事は第一期南極海調査捕鯨と第2期調査捕鯨の比較を通じた議論を展開しました。日本が第1期調査捕鯨の成果を強調すればするほど第2期の成果の悪さが目立ちました。日本代表団の意図と真逆の効果が生じたことは日本の代表団取ってはまさに予想しなかったことです。
ICJの判事の多数はサンプル数が統計的な有意レベルに計算されても、実際に、船団によってその数まで捕獲されていないことに目を付けました。
ザトウクジラは豪州の政治的圧力に屈して早々と2005年から捕獲を断念しました。また、ナガスクジラの捕獲がほとんどありません。これではICJが言うように、第2期調査の目的の大きな柱である鯨種間の競合の調査ができません。ミンククジラの捕獲もシーシェパード妨害以前の2007年から目標(850頭)を505頭と大幅に下回り、そしてその科学的理由が説明されないとICJ判事は非難しています。そして、第1の目的である南極海海洋生態における鯨類のオキアミとの関係やミンククジラ年齢の構成の解明が果たされないことになり、いったい第2期の調査は何のために拡大充実させたのか。第1期調査と何が大きく変わるのかとの疑問が呈せられました。その結果、第2期の調査をICJは条約第8条第1項でいう科学的に計画・実施された調査でないと判断したのです。ここまではしょうがないでしょう。
しかし、これからが問題です。
ICJは、条約第8条1項に該当しない第2期調査は先住民捕鯨でもなく、調査捕鯨でもないので、商業捕鯨モラトリウムの付表10条(e)項、南氷洋の鯨類サンクチャリーを定めた付表の7条(b)項と、母船式漁業でのミンククジラ以外の鯨類の捕獲を禁止する付表の10条(d)項にも違反するとの強引な判断をつけました。この判断は「説明するまでもない」という強引なものであります。そもそも、儲かる場合は利益があり商業捕鯨であろうが、サンプル数を大幅に下回り、損失が大きく出ているものを商業捕鯨として扱ったICJの良識が強く疑われます。どうしてこれを商業捕鯨に理由も説明せずに分類するのでしょうか。
そして、更に問題は1982年に採択され1990年までには見直すとしながら反故にされてきた商業捕鯨一時停止の国際捕鯨取締条約付表第10条(e)項)をICJが第2期調査中止命令の根拠としたことです。
世界には52万頭もいる南氷洋ミンククジラや3万頭のアイスランドのナガス鯨と12.5万頭のノルウェーのミンククジラをはじめ、鯨類資源が豊富で、直ぐに持続的利用を図ることできる状態です。これらの資源量はIWCの科学委員会の合意であります。付表第10条(e)項は、従って国際捕鯨取締条約の前文と第5条の科学的根拠に基づく資源の持続的利用を定めた条項に違反しています。
1994年に採択された資源の状態に係りなく健全な資源にまでサンクチュアリーを設定し捕獲禁止にした付表第7条(b)項も国際捕鯨取締条約違反であります。
今回ICJは鯨類資源の状態と付表第10条(e)項の関係、すなわちその不法性を何ら検討しませんでした。時計の針が商業捕鯨モラトリアム採択時の1982年32年分に戻ってしまいました。大問題です。
しかし、判決は目的と実施が適切な調査捕鯨は合法との判決である。根本から、再び真の調査捕鯨に再構築し、新たに実施することが重要です。
ところで、早々に政府は、判決を尊重するとの談話を発表しました。これもいかがなものかと考えます。なぜなら、条約の趣旨と科学的根拠に反し我が国の国益に反する内容が含まれたからです。そして、これらに小和田判事ら複数が反対しています。多くの国民がこの裁判の結果を放置していいのか。再審できないのか。こんな外交でよいのかと思っています。
鯨類資源の持続的利用の確立のため、付表第10条(e)項、第10条(d)と第7条(b)項の撤廃を目的とし、日本がICJで反捕鯨国を相手に訴訟を起すことではないでしょうか。今度は国際捕鯨員会の現状を根本から変えるための新たな裁判を我が国から打って出ることではないでしょうか。それが日本政府の国民への責務でもあり国際社会で名誉ある地位を占めるための責任でもあると考えます。