2007-05-30
■[経済学] 経済学を学ぶと利己的になるか?

友野本(asin:4334033547)の以下の引用についてだが。
http://d.hatena.ne.jp/bhikkhu/20070310/p1
マーウェルとエイムスの研究によれば「経済学を学ぶと利己的になる」ことが示されている。マーウェルとエイムスは経済学専攻の学生とその他の専攻の学生に公共財ゲームを行った。その結果、経済学専攻者の平均貢献率は初期額の20%であるのに対し、その他の専攻者は平均49%であった。この結果に対してフランクが様々な観点から「経済学を学ぶと利己的になる」のかについて検討したが、経済学専攻者は多く利己的な行動を選択した。
ここで言う「フランクの検討」とは、Robert H. Frank他による以下の論文のことだろう。
詳しくは原文を読んでいただくとして、簡単に要点だけ記してみる。
まずFrankらによると、Marwell and Amesの実験では、経済学専攻のグループは大学院生なのに対照群が高校生や学部生だったり(年齢が異なる)、被験者の男女比が異っている可能性があるので、この実験だけで「経済学を学ぶと利己的になる」と結論づけるにはやや弱いということだ。
そこでFrankらは、経済学専攻の学生とそれ以外の分野の学生を集めて、おなじみの囚人のジレンマ実験を行った(繰り返しなし)。それによると、実験前の被験者同士の面通しなしのケースでは経済学専攻の方が「裏切り」を選ぶ率が60.4%に対し、対照群のそれは38.8%と、経済学の方が「利己的」に行動していた。
ところが、実験前に30分の被験者同士の面通しをして事前に協力の約束をすることを許したケースでは、経済学専攻群の裏切り率は28.6%に下がり、対照群との違いはあまり見られなくなった。
つまり、経済学専攻の人間は相手が協力すると思われるときは協力、そうでなければ裏切るというごく当たり前の戦略をとっているにすぎない。
また、慈善事業への寄付をどれぐらい行っているかの調査では、経済学専攻の人では平均よりやや少ない程度で、それほど「利己的」ではないという結果が出た。人文科学や建築・芸術専攻の方がより少ない。
また、別のCornell大のグループは、ミクロ経済学入門コースの学生を対象に「拾った100ドルをネコババするかしないか」というアンケート調査を行なった。調査はコース受講前と修了後の2回行い、経済学を学ぶ前と後で考えがどう変化したかを調べた。
その結果、同じ経済学専攻でも教える人や内容により利己的になったりそうでなくなったりする、ということがわかった。IOとゲーム理論の専門家の先生のコースでは「落し主に返す」より「ネコババする」に変わった人の方が多かったが、中国の開発経済を専門とする先生のコースでは「落し主に返す」に変わった人の方が多かった(前後で意見を変えてない人は除外されている)。
というわけで、必ずしも「経済学を学ぶと利己的になる」とは断定できないような気がする。ただし、「世の中そんなに甘くない」と考える人が増える傾向はあるかもしれない。その結果、経済学徒の主張は一見冷笑的に見えるが、現実をちゃんと見た上での合理的なものになるということではないだろうか(例えば「最低賃金を上げたらかえって失業は増える」なんていう発言は一般人にはたぶん「冷笑的」に聞こえるだろう)。
実際、個人の自発的な協力に期待した社会システムは不況でパイが小さくなればフリーライダーが増えて立ち行かなくなるのは明らかで、システムを設計する政治家や官僚は経済学をきちんと学んだ上で、利己的な人間ばかりでもうまく働くように作って欲しいと思うんだけど。
あと、これらの研究から「経済学を学ぶと露悪的になる」とまで主張するのは無理があると思います。非経済学徒だって露悪的な人はたくさんいます。