<オープニング>
聳える白砂の丘の上に、太陽が燃える。
ぎらぎらと輝く日差しの下、砂の起伏が描き出す影が風に吹かれて刻々と形を変えてゆくその様は、正しく砂漠だ。
砂月楼閣シャルムーンの外周に近い、開拓村。小さな水場に桶を沈めて、住民の男は額に滲んだ汗を拭った。短い春が終われば間もなく、夏だ。砂丘に掛かる白雲がもくもくと夏の形を取り始めるまで、それほど時間は掛からないだろう。
「……ん?」
何気なく砂の稜線を見詰めて、青年は首を傾げた。
胡麻粒のような影が点々と砂丘の上に現れたかと思うと、こちらに向かって下ってくる。通りすがりの旅人にしては大人数だな、と、そんなことを考えていると。
「!!」
違う。
人間では、ない。
まずいと認識した時には遅かった。輝く鱗で陽光を弾き、『それ』は瞬く間に砂を滑り降りて村へと迫る。そして陵辱と略奪の狂宴が、小さな村を飲み込んだ――果たして『それ』とは。
●邪道です
「邪道ですっ!」
「何が!?」
いきなり叫んだかと思いきや、竜愛ずる狩猟者・フレデリカ(cn0178)はテーブルに突っ伏して泣き出した。居合わせたエンドブレイカー達が脊髄反射で聞き返すと、少女はがばりと顔を上げ、涙に潤んだ柘榴石の瞳で一同を見る。
「わたし、エンディングを見たんです。見たんですけど……」
事件が起きるのは、シャルムーン外周の小さな村。
平和な村を突如として襲ったのは、輝くばかりの鱗に、鞭のようにしなやかで、曲線優美な長い尻尾。
それは砂漠の蛇か、或いは蜥蜴か、いずれにしてもさぞ恐ろしく、そして美しい者の仕業だろう――と、思ったら。
「ラミアだったんです」
ぷるぷると拳を震わせて、フレデリカはティッシュで鼻をかんだ。変な沈黙の中顔を見合わせて、一人のエンドブレイカーがおずおずと尋ねる。
「……で?」
「で? じゃないですよ! 乙女の純情を弄び、あまつさえ街を襲って食料を奪うだなんて下衆の極みっ!!」
そもそも男心ならまだしも、ラミアだって女心を弄ぶ趣味などなかろうに、とんだ逆恨みがあったものである。ただまあ、それはそれとして、街が襲われるのは事実な訳で。
「リカ、今日という今日は本気で怒っちゃいました。皆さん、村の平和を守るために、ピュアリィなんかぶっ飛ばしちゃいましょう!」
念の為補足しておくと、綺麗な蜥蜴だったら襲撃を見逃すのか、というと別にそんな意図はないので悪しからず。
ラミアの数は凡そ十体。彼女達はマスカレイドではなく、これまでシャルムーンの配下として男をあてがわれ、十分な食料を与えられて悠々自適に暮らしていたものが、シャルムーンの死後人里へ出てきただけである。元々は都市の外で暮らしていた個体故に、ちょっと力の差を見せつけてやれば『殺されるよりは』と逃げていく可能性は高い。
殺すか、追い出すか、その辺りの判断は各人に委ねることになる。尤も村人の目もあるため、逃がすには多少の配慮が必要になるかもしれないが。
「ラミアの狙いは食べ物と、村の若い男の人です。でも下手に避難させちゃうと、今度は避難先で襲われちゃうかもしれませんから、それは避けた方がよさそうですね」
ラミア達は、村の東に位置する砂丘を越えてやってくる。村の直前に布陣して迎え撃ってもよいし、或いは砂丘の上で待機してもよいだろう。
「あ、因みにですね。その砂丘は普段は地元の子供達の遊び場で、砂ぞりが出来るらしいですよ。砂ぞり!」
ちゃちゃっとラミアを追っ払えれば、遊んで帰るのもいいですね――と、現金にも笑って、フレデリカは言葉を終えた。
説明要員の関係で今一つ緊張感には欠けるものの、これも理不尽の一環だ。いくつかの溜息を零しつつも、エンドブレイカー達は熱砂の大地へ踏み出すのであった。
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<プレイング>
プレイングは1週間だけ公開されます。
ハムスター・シシィ(c03556)
■作戦
ローブを頭から被り、性別が判らないように偽装を。
食料を運ぶディノスピリット商隊を装い、村から砂丘を目指して移動。
ラミアを誘き出すよーっ!
道中で遭遇したら戦闘開始。
(可能であれば、村人達には見せないように砂丘の向こう側を戦場にするように)
ラミアと遭遇したら、その場をソーンリングで囲って一般の人が近付けないようにするねっ。
■戦闘
まずはアイアンドラゴン3SCで攻撃し、術付与を。
以降はシャドウリッパーで攻撃するねー。
暴走等のBSを受けたら、ジェノサイドレイブン3SCでの攻撃に切り替えてキュアを。
敵の数が多いから、最初に攻撃した人とターゲットを合わせて集中攻撃。
1体ずつ確実に倒していくようにするねっ!
■ラミア
マスカレイドじゃないから無理に命までは取らない方針で。
でもまた村や人里を襲わないように、「人間を襲うと痛いことになる」って理解してもらうために、手加減はしないんだよーっ!
一抱えの欲望と一握りの良心・シン(c04609)
【心情】
あーピュアリィがねぇ…
もったいないが面倒起こすってんならしゃあないか
【目的】
ラミアの撃退
【行動】
破竹円舞・デイジー(c05482)
■目的
・ラミア達を撃退する
・村人たちを安心させる
・砂ゾリを楽しむ
■作戦
隊商を装って、迎え撃っておくね。
私は深いフードを被って男に扮する。
村人達には見せない様に、砂丘の向こう側で戦闘を。
ラミアが村人を狙わない様に細心の注意を払い、
挑発するなどして攻撃目標をこちらに向けるね。
出来るだけ撃破を目指すけど、
逃げていくラミアは基本的に放置しておくね。
その際には
「また村に来ようものならまた私達がお相手して上げるよ!」
等と告げる等で二度と村を襲わせないようにする。
【行動】
私は後衛だね。
攻撃は主に、エッジアバランチを使用するよ。
プラスワンを積極的に狙って、纏めて攻撃だね。
基本的に狙う相手は、
村に向かう敵>負傷している敵>その他の敵
の順で狙ってみるね。
私がマヒを受けたら、一旦前衛に回り
プリズムアックスでキュア狙い。
体力が半分以下に減ったら
一旦後方に下がってベルセルクブラッド。
戦闘後は、砂そりを楽しむね。
風のように・アゼス(c15084)
▼
事前に砂用のソリや、車輪をソリに改造した荷車を用意
それらに荷物を乗せディノを召喚して牽引、砂漠の隊商を装う
待ち伏せる為に砂丘目指して移動
ホークアイを使って周囲に一般人の有無を警戒しつつ
俺は目立つように先導して、男が居る事をラミア達にアピールするぜ
色々な意味で飢えているなら食い付いてくれるだろう
▼
出来る限り砂丘の向こう側で戦闘をして村人からの目を遮りたい
数も多いしダメージの大きい敵から各個撃破
少しでも早く確実に数を減らしたいね
仲間と連携して声を掛け合い目標を定め
基本はディノで剣エンチャした後、近接攻撃でBS付与しながら攻撃
ギアスで敵のプラスワンとマヒで攻撃目を封じダメージ分散を狙う
一応、不殺
でも教育的指導でボッコボコだぜ、ボッコボコ!
…住み分けは必要だろ
GUTSが6割以下の時にメディカルバレットで回復支援
▼
事後はソリで滑りまくるぞ!
村人へのフォローと砂まみれになったら水浴びさせて貰えたら嬉しいね
華と夢・アルカ(c23651)
・基本方針
キャラバンのような荷車を使い、商人に扮するのでしたわね
わたくしは、布を被って荷馬車にて待機。戦闘が始まり次第即座に行動に移せるように
・ラミアへの対処
こちらも皆様に足並みを合わせましょう
万が一ラミアを捕える事がある場合は、首以外を砂に埋めて
いぢめて差し上げるのも楽しいかも知れませんわ
そんな状況になれば、ですが
・戦いの後
色々と考えましたが砂ゾリをメインに楽しむ事に致します
わたくしの改造砂ゾリがブリバリ(死語)火を噴きますわ!
ほかの方と砂ゾリレースなども、熱くなれそうですわね
・戦闘
火力としてフォースボルトを使用致します
何方かの負傷率が50%を超えた場合、わたくしもパラダイスブリンガーを使用して
フレデリカと共に回復に回りますわ
・フレデリカへの指示
貴女はディノスピリットをメインに
ですがマヒした場合は、即座にクイックドローでキュアを行いなさい
他者の負傷が大きい場合は、アスペンウィンドでフォローを
人魚の踵・ファラーシャ(c29228)
▼作戦
深く防砂フードを被って性別と武器隠し
仲間のディノや持ち込みのそりに荷を積んで、隊商を装います
村人の目から遮るため、砂丘の向こう側を戦場にできれば
無理であれば、後ほどフォローを
力の差は思い知ったはずです
人里を襲う危険は、もう冒さないでしょう
▼戦闘
前衛
GUTSの少ない敵優先で、ホライゾンスラッシュをメインに
マヒを受けた際には妖精剣
自身及び仲間のGUTS30%でフェアリーサークルを使用します
互いに声を掛けあい、不必要に被らないよう
戦闘中、一般人が巻き込まれぬよう注意
▼ラミア
気迫と覚悟を持って、傷を負わせて
二度と人里は襲わないと誓うなら、今回は見逃しましょう
けれど、わたしたちはあなた方を殺せるのだということ、覚えておいて
互いの力の差を実力行使で教え込み、
人里は襲わないと言質を取りたい
▼そり
せっかくだから、そり遊びしましょう!
転げ落ちても、楽しそうに笑って
ヌール、あなたもいらっしゃい!
うっかりボコる群竜士・リチ(c33420)
今日はシャルムーンの村を襲撃するラミアさん達をボコッちゃうよ。
ラミアさん達が村にたどり着く前にリチ達が囮になって引き付けるよ。
まずは、コールリザードで大トカゲさんを呼びだして、大トカゲさんやディノスピリットさんで商品を運搬する商人さんのふりをしてラミアさんを誘き出すよ。
リュビさんも荷物の運搬のお手伝い、お願いするね。
服装は肌をあまり見せないようにしてフードを深々に被って直射日光をあまりあたらないような砂丘越えの恰好でいくよ。
これでリチ達の性別は簡単には分からないよね。
ラミアさん達が現れたら、もう人里に下りてきて悪さをしないように懲らしめるよ。
戦闘ではサウザンドアーツをメインにしてマヒを受けたらガントレットミサイルでキュアするよ。
GUTSが半分以下になったらドラゴンオーラで回復するね。
懲らしめるだけだから逃げていくラミアさん達は追撃しないよ。
戦闘が終わったら、お楽しみの砂ぞりだよ。
竜愛ずる狩猟者・フレデリカ(cn0178)
(NPC)
このキャラクターはNPC(マスターのキャラクター)です。プレイングはありません。
<リプレイ>
●砂の稜線にて
焼けた砂と蒼穹とが際を接する境界線。その輪郭を辿るように、旅装束の一団が列を成し、砂の丘を登って行く。
「それにしても、ラミア達にも困ったものだよね」
なるべく足元のしっかりした道を選んで歩きながら、破竹円舞・デイジー(c05482)が呟いた。
強過ぎる陽射しを遮るための外套を纏い、荷物を載せた大トカゲやディノスピリットを従えて行く姿は、さながら砂漠の商隊だ。しかし言うまでもなく、それは仮の姿――彼等は眼下に望む村をラミアの襲撃から守る為に集まった、れっきとしたエンドブレイカー達なのである。
「状況は理解できなくもないけど、だからって村を襲って良い理由にはならないよね」
シャルムーンの死により置き去りにされたピュアリィ達の現状は苛酷なものだろう。しかし彼女等の欲望のために、村の平和が壊されるのを黙って見ている訳には行かない。きりりと表情を引き締めるデイジーの後ろに続いて、勿論です、と竜愛ずる狩猟者・フレデリカ(cn0178)は拳を固めた。
「それにあんなに綺麗な鱗なのに、ピュアリィだなんて……許せませんっ! これ以上騙される人が出る前に、なんとかしな」
「うんうん、フレデリカお姉さん、無念はちゃんと晴らそうねー」
純然たる逆恨みに鼻息荒くするフレデリカの言葉を、故意か偶然か適当な所で遮って、うっかりボコる群竜士・リチ(c33420)は言った。その反対側を黙々と歩く竜を見詰め、人魚の踵・ファラーシャ(c29228)はくすりと笑みを零す。
「蛇や蜥蜴は、確かにきれいですよね」
「! ファラーシャさんもそう思いますか!?」
「ええ、きれいで、頼もしくて」
それに可愛らしい、と。
にこやかに応じるファラーシャの言葉に、つい今しがたまで涙ぐんでいた柘榴石の瞳がキラリと輝く。とくとくと語り始める愛竜論を適度に聞いては流しながら、ファラーシャは竜の背に手を伸ばした。
「もう少し、頑張ってね」
目深に被ったフードを直しつつ膚を撫でてやると、大丈夫、と答えるように竜は小さく鼻を鳴らした。
時刻は間もなく正午に掛かるという所。じりじりと照りつける陽光は、赤み掛かった砂の丘に一行の影をくっきりと映し出す。そして登る傾斜も頂に差し掛かるという所で、風のように・アゼス(c15084)は先導の足を止めた。
「ストップ。この辺で様子を見よう」
エンディングの光景によれば、ラミアの群はこの丘を越えて麓の町へと到達する。此処で待ち伏せていれば、彼女らは町よりも先にエンドブレイカー達を発見することになるだろう。女性陣が顔を隠すように外套を纏うのは単に隊商らしく見せる為だけではなく、性別を隠すためでもある。女の多い一団と知れれば、ラミア達が興味を示さない可能性があるからだ。
見渡せば辺り一面が、空と砂の二色の世界。丘の裏側に一般人の姿はなく、それは振り返る村落側の斜面も同様であった。
この見晴らしの中、敵はどこから現れるのか――鷹の目を光らせて、アゼスが注意深く周囲の様子を窺っていると。
砂の起伏の裏側から、しなやかな女の上体が一つ、また一つと現れた。それは砂上のエンドブレイカー達を見つけるやひそひそと互いに耳打ちしたかと思うと、砂煙を巻き上げて猛スピードで動き出す。
「……来たぞ!」
仲間達を振り返り、アゼスが呼び掛けた。すると気だるげに武器を担いで、一抱えの欲望と一握りの良心・シン(c04609)が応じる。
「もったいないが面倒起こすってんならしゃあないか」
その肢体に如何に男の夢と浪漫が詰まっていようとも、敵は敵。迫るラミア達を十分に此方へ引きつけたことを確認すると、身構える男性陣に続いて華と夢・アルカ(c23651)が身体を覆う布を取り去り、荷車の中から飛び出した。
「そんなにいぢめて欲しくば、御覚悟なさい!」
びしりと指を突きつけて叫ぶ声に女がいると気付いても、ラミア達は止まらない。間近に迫る頃にはもう、美味しそうな食べ物の匂いが蛇の鼻にも届いているからだ。威勢良く外套を取り払って、ハムスター・シシィ(c03556)は翼の生えた踵を鳴らした。
「よーし、いっくよー!!」
周辺一帯を囲む棘の環を創り出せば、もう邪魔者が入る心配もない。
熱砂の丘を制するのは、飢えた蛇か、それとも人か。砂の高みの裏側で、砂漠の戦いは静かに幕を開けたのであった。
●蛇は踊る
「出て来たね、ラミア達」
纏めて相手してあげる――あどけない表情に勝気な一面を覗かせて、デイジーは小さな口の端を上げた。
「刃の雪崩よ、敵を切り刻め!」
銀の巨斧を振り抜けば、刃先の生んだ見えない刃は前を守る仲間達の間を器用にすり抜け、ラミア達を襲う。直撃を食らってのたうつ蛇の肢体を眺めながら、アゼスはぽつりと零した。
「まぁね、本音を言えば魅力的ではある」
「アゼスさん、何か言いましたか?」
「!! いや!? 別に!?」
素で聞き取れなかったらしく、きょとんとした視線を向けるフレデリカに、青年は思わず声を上ずらせる。女性陣の多いこの面子で、迂闊なことを言えばラミアより前にボッコボコに――精神的にか物理的にかはともかくとして――される可能性は否定できない。
しかしながら、輝く鱗のうねる度にたゆんたゆんと跳ねる双丘を魅力と感じない男がこの世に在るだろうか? いや、ない(反語)。
(「うっかり胸に飛び込んでみたりもしない、しないぞ!」)
ミイラ取りがミイラになってしまわぬよう。自らを戒めるように首を振って、アゼスは輝く竜の背にひらりと飛び乗った。そして頭をもたげた煩悩を吹き飛ばすが如く蛇の只中へ突撃すると、弾き飛ばされたラミアの一体が高々と宙を舞い、砂の海へと墜落する。
「フレデリカ! 貴女もディノスピリットをメインに!」
「了解しました!」
アルカの一声に敬礼で応じて、フレデリカは竜の横腹を蹴った。アゼスの後を追うように敵の中へ突っ込んでゆく後姿を見送って、アルカは厚い本の表紙を捲る。その唇には、小悪魔の如き微笑が浮かんでいた。
「さて、お仕置きの時間ですわね」
細い指がなぞるページから、飛び出したのは見えない衝撃。幾重にも連なる魔弾に打ち据えられて、前線のラミア達が思わず躊躇する素振りを見せる。しかし、この程度ではまだ手緩い。
「人間を襲うと痛いことになるんだよ」
険しい視線を半蛇の女達に送って、シシィは言った。人里に手を出してはならない――それを骨身に沁みて解らせなければ、意味がない。手加減は互いの得にならないのだ。
無数の刃で編み上げた鉄の竜が、風を唸らせ蛇へ迫る。そして弾き飛ばされた鱗膚を、今度はリチが狙っていた。落ちてくるタイミングを測って砂の地面を蹴り、少女は輝く肢体に痛烈な蹴撃を叩き込む。
「ヨクモ!」
昏倒した仲間を見やり、たどたどしい語調で一体のラミアが叫んだ。別の生き物のように動く蛇の尾が、ファラーシャの身体をするりと絡め取る。しかし有りっ丈の力を込めて締め上げても、獲物はどこまでも冷静だった。
「放して下さい」
発した言葉には静かで、それでいて確固とした気迫と覚悟が篭っていた。締め付けの緩んだ一瞬の隙に、ファラーシャは右手の琴剣を一閃する。妖精を纏いより深い蒼に染まった刃は硬い鱗も鮮やかに切り裂いて、蛇の口からギャアッと獣じみた悲鳴が上がる。もんどり打って倒れたラミアへと刃を突きつけ、少女は言った。
「力の差は思い知ったはずです。二度と人里は襲わないと誓うなら、今回は見逃しましょう」
「ナッ! 誰ガ、ソンナこと」
「わたしたちは」
食って掛かったラミアの首に、つ、と刃の先が沈む。もはや微動だにすることも出来ずに喉を震わせるだけの蛇へ、ファラーシャはあくまでも静かに告げた。
「あなた方を殺せるのだということ、覚えておいて」
反論を許さない声に、ラミア達は言い淀む。だけど、と躊躇う別の一体に、アゼスは呼び掛ける。
「住み分けは必要だろ。大人しく引き下がれよ」
彼女達が人の領域に踏み込まなければ、人もまた彼女達の領域を侵すことはない。少なくとも、互いに関与しないよう努力は出来るはずだ。
「大人しく諦めて逃げるのと、首まで砂に埋められてわたくし達の玩具になるの、どちらがお好み?」
わたくしはどちらでも構いませんのよ――。
うっとりと空恐ろしいことを言ってアルカは微笑む。流石に身の危険が勝ったのか、ラミア達はぎくりと肩を震わせ、言った。
「ワカッタ、ワカッタヨ」
「モウ来ナイ。イイカ」
「……本当に? もう来ない?」
こくこくと頷いて許しを請うラミア達の顔を真剣な顔で順々に覗き、シシィは吐息一つ、爪先の刃を収めた。
「次はないんだからね」
ピュアリィと人。隣人としては相容れない存在ではあるが、互いに干渉をしないことで共存出来るのなら、マスカレイドでもない彼女達を殺す必要まではないだろう。
赦す言葉と共に少女の指先が砂漠の果てを示すと、すっかり怖気づいたラミア達は先を争うように逃げ出した。遠ざかってゆく背中に向って、デイジーはもう一押しと声を張り上げる。
「今度来たら、また私達がお相手して上げるよ!」
赤茶けた砂に跡を引き摺りながら、蛇の尾はやがて黒っぽい点になり、そして砂山の陰へと消えて行った。その姿が見えなくなったのを確かめて、ファラーシャはほっと安堵の息をつく。
「人里を襲う危険は、もう冒さないでしょう」
ひとまずは、一件落着。肩の荷が下りたように武器を収める仲間達を振り返って、リチは両腕を広げた。
「さ、後はお楽しみの砂ぞりだね!」
●空と熱砂
「ヒャッホー!!」
どこまでも青く高い砂漠の空に、軽快な声が響き渡る。砂ぞりの板に腹ばいになって、アゼスは猛スピードで丘を下っていた。風の描いた紋様を掻き消すようにシュプールを描いて行けば、赤い砂の地面が飛ぶように後ろへと過ぎて行く。そして、どっ、という衝撃と共に青年は板ごと砂地に突き刺さった。
「やべー、これ楽しい」
若干口に砂が入ったが、それも気にならないくらいには楽しい。もう一回やってみるかと身体を起こすと、甲高い声が聞こえてきた。
「きゃーどいて! どいて下さーい!!」
「ぐはっ!?」
衝撃と共に、オレンジ色の塊がぶつかってきた。柔らかい地面に頭から突っ込んで動けずにいると、思い切り引っこ抜かれた。
「ごめんなさいごめんなさい、大丈夫ですか? お怪我ありませんでしたか?」
あわあわとアゼスの髪や体から砂を払って、覗き込んだのはフレデリカだ。前見て滑れ、とでも言いたいところだが、砂塗れになった姿を見るとなんだかおかしくなって、しょうがないなと噴き出してしまう。
「よし、も一回滑るか!」
「はいっ!」
すっくと立ち上がって丘上を示すと、両手を握り締めて少女は頷いた。折角こんな所まで来たのだ、帰る前にやれることは全部やり尽くして行かなければ。
板を引き摺ってせっせと丘を登って行く二人と入れ違いに、ファラーシャは悠然と斜面を滑り降りてゆく。
(「砂漠って、砂浜とは似ているようでやっぱり違うのね」)
汐の匂いもしなければ、水や海の青もない。あるのは熱い砂と一面の空、広がる景色はどこまでも乾いて、寂寥さえ感じさせるけれど――どこか心に迫るものがある。
「きゃ」
硬めの地面に当たって、座った板が大きく跳ねた。ぽーんと弧を描いて投げ出された体が柔らかな砂の上へ落ちると、自然に笑いが込み上げてくる。クスクスと堪えきれない声を零して、ファラーシャは褐色の腕を伸ばした。
「ヌール、あなたもいらっしゃい!」
伸ばした指先で舞い降りた妖精の翅が、陽射しを受けて空に融ける。深く鮮やかなその青の眩しさに、少女は淡い色の瞳を細めた。
「何だか、不思議」
始まりの場所も、行き着く果ても。
仰ぐこの空は、全ての空と繋がっているのだから。
一方、丘の上では。
「わたくしの改造砂ゾリがブリバリ火を噴きますわ!」
「ぶりばり?」
首を傾げるフレデリカには目をくれず、アルカは仁王立ちで斜面を見下ろしている。
「速度は実に通常のソリの三倍! ご覧遊ばせ、わたくしのこの魔改造砂ぞりを!」
「わー。面白そうー♪」
瞳を輝かせるシシィの眼前で、まずは見てなさいとアルカは砂ぞりに飛び乗った。そして猛スピードで斜面を下りきり、華麗に着地してポーズを決めたかと思うと――普段履きのブーツをそっと脱いでひっくり返し、大量の砂を零していた。ばかわいい。
その光景にほのぼのとしながらシシィが荷車を漁っていると、横からデイジーが顔を出した。
「そういえばその荷車、何が入ってるの?」
見せ掛けの商隊ではあったが、確かにシシィの荷車からは戦いの間もずっと美味しそうな匂いがしていた。すると覆い布の下から大きなバスケットを取り出して、荷車の主は満面の笑みを浮かべる。
「えへへ、実はお弁当だったんだ。砂丘で遊ぶための栄養補給なんだよー」
「お弁当ですか!?」
横で聞いていたフレデリカが、にゅっと顔を出して目を輝かせる。図ったように、腹の虫がぎゅるると鳴いた。
「うん。全員分あるから、みんなで食べよう♪」
期待感に満ちた複数の眼差しににっこりと笑い返して、シシィは安定した砂岩の上に布を敷き、バスケットを置いた。そこへ、息を切らせてアルカが戻って来る。
「何してるんですのシシィ! 一緒に行きますわよ!」
「え? でも、お弁当」
「そんなの後々ですわ!」
ぽんぽんと二人乗りの板の後ろを叩き、アルカは一緒に座るように促す。にまっと口元に笑みを広げて、じゃあ、とシシィは友人の背を抱きかかえた。
「ボクのほうが大きいから後ろねー?」
子供扱いにむぅ、と唇を尖らせるアルカだが、事実なのでひとまずはよしということにしておく。気を取り直して砂の斜面に向き直ると、少女は高らかに叫んだ。
「いざ、地平線の彼方までっ!」
砂を蹴って滑り出せば、二人分の体重でそりは瞬時に加速する。瞬く間に遠ざかって行く二人の姿を眺めるフレデリカに、デイジーが言った。
「フレデリカお姉ちゃん、わたし達も一緒に滑ったらスピード出るかな?」
「あっ、そうですね。やってみましょうか!」
ソレだ! というように両手を合わせて、フレデリカが頷く。そして有言即実行と飛び出して行く二人を見送って、リチは額に手を翳した。
「みんなすっかり砂塗れだね」
「ま、帰りに村で水場でも貸して貰おうぜ」
村の平穏を脅かす蛇は、もう居ないのだから。そう言って笑い、アゼスもまた斜面の縁に立つ。
「よーし、もう一滑りだ!」
風を切り、軌跡を描き、何度でも繰り返し砂の大地に身を投げ出して。目と目が合えば誰からとなく、楽しげな笑い声が上がる。
溢れる笑顔と歓声の中、砂漠の昼下がりは穏やかに過ぎて行くのであった。
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参加者:7人
作成日:2014/04/17
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冒険結果:成功!
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