台湾・馬英九総統に新たな動き・・・台湾籍元慰安婦の女性と面会、尖閣諸島の主権を改めて強調


 台湾の馬英九総統は17日、総統府に台湾籍の元慰安婦を招いて面会した。馬総統は同日、尖閣諸島問題についてのシンポジウムに出席し、「主権はわが方にある」と述べた。台湾の中央通信社が報じた。  馬総統は17日、総統府に旧日本軍の元従軍慰安婦の鄭陳桃さんと陳蓮花さんを招いた。2人は先に着席して馬総統の到来を待っていたが、入室した馬総統は足などの状態がよくない鄭さんが立ち上がるのに苦労するのを見て、駆け寄って助ける起こすなどした。  馬総統は、日清戦争の講和条約として119年前に結ばれた下関条約が、鄭さんらの運命を決めたとして、従軍慰安婦問題を日本の統治による傷跡との考えを示した。  従軍慰安婦については、「国連人権委員会が1995年、性奴隷であり、人権を深刻に侵害した戦争犯罪のひとつと明確に結論づけた」と述べ、日韓で従軍慰安婦を巡る問題が深刻化していることについて「日本側が過去のことがらを正面から見ることが、正しい態度だ」と述べた。  台湾では5人の元慰安婦が暮らしている。馬総統は元慰安婦について、「1人も、(自分の人生を)後悔したり落胆していないことには喜びを覚える。すばらしいことだ」と述べ、政府は元慰安婦に毎月1万5000台湾ドル(約5万円)の生活費を支給し、医療保護、深刻な傷病の際には看護も手配していると説明した。  馬総統は、元慰安婦との面会に先立つ午前、中央研究院近代史研究所が主催したシンポジウム「多元的な視野による釣魚台(尖閣諸島の台湾側通称)問題についての、新たな議論」に出席した。  同シンポジウム出席に際して馬総統は改めて「主権はわれにある。争議は据え置く。平和互恵の共同原則」が政府の一貫した立場だと述べた。  シンポジウム会場の外では、主催の中央研究院関係者らが、「318公民運動の後、政府はいまだに善意ある対応をしていない」、「馬英九は人民の声を聴け」、「憲政を行え」などのプラカードを掲げて抗議した。  318公民運動とは、馬英九政権側が大陸とのサービス貿易協定の締結を強行しようとしたことで、学生が3月18日に立法院(国会)に突入し占拠したことに始まる、一連の大規模な抗議活動を指す。馬英九総統に対する支持率は長期間にわたって10%に満たない状態で推移している。 ********** ◆解説◆  馬総統が論じた旧日本軍の従軍慰安婦についての「1995年の国連人権小委員会における結論」とは、同年に提出されたマクドゥーガル報告書を指すと考えられる。  同報告書は戦時における性奴隷問題全般について報告し、附属文書として日本の慰安婦について取り上げた。同報告書は旧日本軍の慰安所を「強姦収容所」、慰安婦を「性暴力を受けた性奴隷」であるとして、日本に国家責任があると主張した。  ただし、強制連行については問題として取り上げず、「日本軍の要請で慰安所を経営したもの、および利益を得た民間人のした行為に責任がある」とした上で、日本政府については「慰安婦への被害を防止できず加害者を処罰できなかったこと自体に責任がある」との見方を示した。  同報告書には、「作成にあたって使用した」と主張する資料と矛盾があるとの指摘もある。また、同報告書は従軍慰安婦が20万人存在としているが、この数字を疑問視する研究者も多い。  第二次世界大戦で、インパール作戦、サイパンやグアム、テニアンにおける日本軍玉砕、マリアナ沖海戦、台湾沖航空戦など激戦が続くとともに、日本がますます劣勢になった1944年時点で、陸海を合わせた日本の総兵力は400万人弱とされている。  従軍慰安婦は1日20人程度の接客を強制されたというが、従軍慰安婦が20万人存在したとすれば、ジャングルや中国大陸奥地の最前線にいた将兵を含めた平均で、旧日本軍人は1日に1回程度は慰安所に通っていた計算になる。  第二次世界大戦終結までの日本側の行為については、日本の責任を強調したいがために、誇大な数字が用いられる場合があるとの見方も少なくない。  日本人の間に自然な感情として、「できることならば、過去の非道な行為を認めたくない」との気持ちがあったとしても不思議ではない。そのため、戦前・戦中の日本の責任を追及する際に、根拠のはっきりしない誇大な数字などを使ったとすれば、多くの日本人が「やはり、事実とは異なる。ありえない話だ」と考え、正当な主張に対しても耳を傾けなくなる可能性がある。  過去における日本の責任を追及することの大きな目的は、日本人にも「過去の事実」を認めさせ、納得させることだろう。とすれば、誇大な数字や事実と異なる主張を盛り込むことは、過去の日本の責任を追及する上で逆効果ということになる。(編集担当:如月隼人)