<< 前の記事 | アーカイブス トップへ | 次の記事 >>
ピックアップ@アジア 「アジアの人工衛星市場を狙え」2011年11月07日 (月)
出石 直 解説委員
(VTR)東日本大震災やタイの洪水、災害の被害把握や復興に力を発揮しているのが人工衛星からの映像です。先日(10/31)、日本政府は、ベトナムの地球観測衛星を使った災害監視システムに72億円の円借款を供与することでベトナム側と合意しました。欧米など各国のメーカーがしのぎを削る人工衛星ビジネス。今回の合意は、日本のメーカーが、この分野に進出する足がかりとなるのでしょうか。拡大するアジアの人工衛星市場への売り込みを図る日本の国際戦略を読み解きます。
「アジアの人工衛星市場を狙え」
Q1、ここからは出石 直(いでいし・ただし)解説委員とともにお伝えします。
きょうはアジアと宇宙のお話しですね。
A1、最近も人工衛星の破片が地表に落ちてくるのではないかと話題になりましたが、今、地球の周りを回っている人工衛星は3000以上もあるそうです。日本は国際宇宙ステーションでの日本人宇宙飛行士の活躍や、小惑星探査機「はやぶさ」の成功でもわかるように日本は宇宙開発技術では世界のトップクラスなのですが、宇宙ビジネスという点では欧米、中国、ロシアなどに大きく後れを取っています。
そんな中、先日、日本の宇宙ビジネスの将来を大きく変えるかも知れない画期的な出来事がありました。
Q2、どんな出来事ですか。
A2、ベトナムの人工衛星計画を日本のODA・政府開発援助で支援することになったのです。
ベトナムは、ハノイ西部の工業団地に宇宙開発のための研究施設を建設し、2017年以降、2機の地球観測衛星を打ち上げる計画です。衛星の製作と打ち上げ、さらに衛星を運用したりデータを解析したりする地上基地の建設費用など総額でおよそ500億円の事業費を日本が支援することになりました。その第一期分として先日、72億円の円借款を供与することで両国の首脳が合意し、東京で署名式が行われました。2機の地球観測衛星のうち少なくとも1機は日本製、日本で組み立てて、日本から打ち上げられる予定です。
Q3、日本の宇宙ビジネスの将来を大きく変えるかも知れないというのは、どうしてなのでしょうか。
A3、日本がこの分野での後れを取り戻すきっかけになるのではと期待されているからです。
宇宙機器産業の売り上げをみてみますと、アメリカはおよそ4兆5000億円、EUが7000億円なのに対して、日本は2700億円に留まっています。
商用の静止衛星の受注でも、2010年にはアメリカが40機とほぼ半分のシェアを占めています。次いでEUが23機、ロシアが11機、中国が5機と続き、日本はこの年の受注は1件だけでした。日本は過去にさかのぼっても海外から3つの人工衛星しか受注できていません。
人工衛星ビジネスでは各国が激しくしのぎを削っています。先日も中国が宇宙ステーションの実験機と宇宙船のドッキングに成功したというニュースがありました。欧米各国や中国は、地上基地を無償で提供したり、ODAを供与したりして、官民一体となった宇宙ビジネスを行っています。
一方、日本はこれまで民間ベースでのセールスでしたので、高い技術をもちながら、なかなかこの分野に参入していくことができませんでした。
そこでODAを使って日本の衛星を買ってもらいやすくする、その第一号がベトナムだったのです。日本の人工衛星を世界に、とりわけ「宇宙新興国」と呼ばれているアジア、アフリカ、中南米に売り込んでいこうという、先駆的な取り組みとして注目されているのです。
Q4、ODAと言いますと、道路や橋などというイメージが強いのですが。
A4、人工衛星は軍事目的に転用されるおそれがあるということで、これまでODAの対象にはなっていませんでした。しかし今回は、衛星から撮影される映像の解像度を制限する、衛星の運用状況について必要に応じて報告を求める、などの条件をつけて、初めて人工衛星の分野に日本のODAが使われることになったのです。
Q5、初めてのODAということですが、アジアやアフリカなどで人工衛星が売れるのでしょうか。
A5、人工衛星というと最先端の技術で値段も高いというイメージがありますが、実は小型軽量化が進んでいて、新興国や途上国でも手が届くようになってきています。アジアでは、すでにベトナム、タイ、インドネシアなど、アフリカでもエジプト、ナイジェリア、モロッコ、アルジェリアなどが衛星を保有しています。
共同所有も含めると人工衛星を保有している国は100を超えています。こうした宇宙新興国での人工衛星の市場規模は、今後10年間で今の4倍に増えると予測されています。
Q6、それだけビジネスチャンスがたくさんあるということですね。新興国では、どんな目的で人工衛星を使っているのでしょうか。
A6、ベトナムが導入を計画しているのは地球観測衛星という小型の衛星です。小型で高性能の衛星は日本が得意としている分野です。地球を周りながら様々な画像を撮影して地上に送り、災害の軽減や被害状況の把握、地図の作成、収穫量の予測などに活用されます。
こちらは日本の地球観測衛星「だいち」が捉えた東日本大震災後の岩手県大槌町の様子です。海岸線の様子がはっきりと写っています。ベトナムに導入される日本の人工衛星はもっと小型のものですが、レーダーセンサを搭載しており、雲があっても鮮明な画像を撮影することができます。日本は人工衛星の供与だけでなく地上基地の建設、人材育成も行う計画です。
Q7、日本の技術がベトナムでの災害の軽減や防災に役立つのですね。
A7、実はもっと壮大な計画もあります。「ASEAN防災ネットワーク構想」というのですが、ことし7月のASEANとの会議で日本が提唱しました。ASEAN地域全体で防災ネットワークを構築し、日本が技術協力や専門家の派遣、情報の提供などで支援していこうというものです。
例えばベトナムの地球観測衛星は90分で地球を一周しますが、ベトナムの上空を通過するのは一日に2回か3回程度です。残りの時間は他の国の上空を飛んでいますので、その時間は別の国の撮影をしてその画像を提供することができます。実は、東日本大震災の時にも、日本は、台湾、タイ、インドの地球観測衛星が撮影した画像の提供を受けています。
そこで構想では、地球の周りを回っている日本、ベトナム、タイなど各国の人工衛星が撮影した画像データを、地上の基地に集めます。送られてきたデータを各国で共有し、各国の防災に役立てたり、共同で解析して地域全体の防災に活用したりします。
そのための宇宙と地上を結ぶネットワークを構築しようというという壮大な計画なのです。
Q8、色々な可能性がありそうですね。
A8、多くのアジア国々はまだ独自で人工衛星を開発する能力はありませんが、人工衛星を持ちたい、活用したいというニーズは非常に高いのです。宇宙新興国での人工衛星ビジネスに参入し、実績を積んで日本の宇宙ビジネスの競争力をつけていく。同時に、防災ネットワークづくりなどを通して、地域全体の災害の軽減や防災に貢献していく。いわば一石二鳥を目指しています。この取り組みが成功するのかどうか、ベトナムのプロジェクトはその試金石になるのではないでしょうか。