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世界に、「水」ビジネスで貢献を! 100の行動64 国土交通8

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上下水道の民間開放を徹底し、経営効率化と規模化を進めて日本版水メジャーを育成せよ!

 世界では、フランスのヴェオリア、スエズ、英国のテムズウォーターなど、水道設備の製造から上下水道の整備・運営まで一括して運営する水メジャーと呼ばれる多国籍企業が各国の水マーケットを席巻している。

 これは、フランスやイギリスで古くからコンセッション方式によって水道事業が民間開放されてきたために企業が育ち、確立させた技術・運営ノウハウを背景に国際展開を進め、世界的な水メジャーへと成長したものだ。

  この水メジャーを追随しているのが、韓国とシンガポールだ。

 前シンガポール首相のリー・クアンユーは1970年代から国策として水に取り組んできた。シンガポールの一人当たり水資源量は世界で下から4番目の346立方メートルという少なさだ。そのため、シンガポールは隣接するマレーシアのジョホール州から水を輸入していた。両国間の水供給協定は1961年に結ばれ、50年間有効な協定であったが、2011年以降の協定更新交渉においてマレーシア側は100倍の価格上昇を提案した。それを受け入れざるを得なかったシンガポールは、マレーシアからの水輸入以外のオプションに取り組み始めた。それが、海水淡水化事業・下水再利用水の製造への投資だった。こういった水資源開発政策によって得られた技術を背景に、シンガポールは水処理技術、水管理技術を世界に向けて輸出する政策を進めている。シンガポールの水企業は国内の水ビジネスで経験を積み、中国や中東、北アフリカにまで海水淡水化などの事業拡大を行ってきているのだ。

 韓国も2000年代に入り水に関わる高度技術の研究開発を政府主導で進め、水ビジネスの規模を倍増させ、世界10位以内の企業を2つ以上育成する方針を打ち出して政策を進めている。

 一方、日本の水道事業は主に公共が担当し、1億2千万人のマーケットに対して3兆2千億円の料金収入で運営されている。これは上水道のみの数字で、下水道の営業収益である約2兆円はこの別枠だ。単純比較は出来ないが、給水対象人口がほぼ同程度であるフランスのスエズ社の水道事業収入は1兆5千億円であり、日本は民営化されていないことによって約2倍の経費が投入されていると言うことも出来る。

 2000年以降のPFI法施行以降、近年では日本でも水道事業の民間開放の事例が出てきつつある。広島県三次市、広島市と埼玉県の下水道処理場の運転・維持管理、大福岡県牟田市と熊本県荒尾市の水道事業全般の運営権などだ。ちなみに、三次市以外の4自治体の事業を受託したのはフランスの水メジャー・ヴェオリアだ。

  一方、大阪では橋下市長が水道の民営化の方針を決めているものの、大阪府内のほかの42市町村が運営する大阪広域水道企業団と大阪市の水道局を事業統合する案が市議会の反対で頓挫するなど、水道事業の民営化は進んでいない自治体がほとんどだ。

 東京都水道局や横浜、名古屋といった技術力があり、品質管理面でも優秀で経営基盤も良好な自治体水道が民営化され、その自治体に縛られることなく、日本国内の他自治体の水道経営も自由に受託出来るようにして、彼らを日本水メジャーとして育てて海外進出させるのが一番早道であろう。その結果、株式公開でもできれば、国家財政に貢献することもできる。

 日本の水は世界でも最もおいしい水の一つだ。安全でおいしい水で、かつ利益も厚い。国内の全ての水道事業を民間開放すれば、国内企業が大きく育ち、管理・運営能力、技術力を向上させ、水メジャーへと発展することが可能だ。シンガポールや韓国は国策として水産業の育成に取り組んでいる。日本でも、政府が全国の水道事業を民営化する方針を徹底し、日本版水メジャーを育てる意思をもって、経営効率化と規模化を進めるべきだ。

国家戦略として海外マーケット獲得競争に参入せよ!

 海外における上下水道の整備、運営・管理は、今後も大きな需要が見込まれ、2025年には約80兆円規模の市場に成長する見通しだ。特に中国は、急速に拡大する都市の需要に水道事業が追いついておらず、今後益々ニーズは拡大していく。中国には既にフランス企業などが多く参入しているように外国企業が参入することに法規制上の制約はない。

 フランスでは、自国企業に有利な規格の国際標準化を実現するなど、国策として自国の水メジャーの世界の水道事業への参入を後押ししている。既に述べたようにシンガポールや韓国においても、自国の経験を生かしつつ、国策として世界展開を図る動きが加速している。

 日本では、国土交通省、厚生労働省、経済産業省によって上下水道など海外の水インフラプロジェクトに関して、官民による情報の共有・交換を行うための場として「海外水インフラPPP協議会」を設置されている。中東などにおける海水淡水化事業では、日本企業の進出も目立ってきてはいるが、日本企業が海外で得た事業額は1200億円(2009年)とまだまだ小さい。

 上下水道事業の民間開放の徹底により国内市場において水メジャーを育成するのと同時平行で、海外での水事業市場を獲得するため、国家としての明確な戦略をたて、日本の得意とする技術を生かして企業間の連携をはかり、トップセールスも大いに活用して海外進出支援を徹底すべきだ。

政府の水政策の司令塔「水循環政策本部」を確実に運営し、政策遂行を!

 日本の水に関する政策は各省庁がバラバラで縦割りになっているという点はよく指摘される。国土交通省は河川、ダム、下水道、厚生労働省は上水道、農水省は農業用水、経産省は工業用水、資源エネルギー庁は水力発電、環境省は水質汚濁の防止などなど、7つの省庁が揺るぎない縦割り行政を構築している。

 先日成立した水循環基本法では、首相をトップとする水循環政策本部を設置して水に関する政策を一元的に執行する体制とするとされている。これまで同じような「対策本部」がいくつも内閣官房に作られては、実質は各省庁からの出向の束に過ぎない事例が多くあった。水循環政策本部は、そうではなく、実質的に水政策を推進する体制にして欲しい。

 そのためには、政治、特に首相官邸のリーダーシップが不可欠だ。水政策は国家の安全保障の重要課題であり、世界の水資源獲得競争に日本が勝っていくことは成長戦略にも外交戦略にも適う。ぜひとも確実な一元体制を構築し、本稿で提言するような、「水資源の規制強化」「水資源確保のための地下水利用規制などの法整備」「水道事業の民営化の徹底」「海外マーケットの獲得」といった政策を実現してほしい。

 世界経済フォーラムでも「水」に関する議論は、必ずアジェンダに上がってくる。水が豊富にある日本だと、その議論を共感しながら聞くことはできないが、その重要性を認識する良い場になっている。

 東京都水道局は世界一規模が大きく、かつ、世界一品質管理にすぐれている水道企業体である。ここが、自治体の枠に縛られているのが大変残念である。そもそも、日本では「水」を金儲けの種にはしないという暗黙の文化がある。この文化を覆さないと、いくら「民営化」しても利益が出ず、長続きはしない。

 世界では、いわゆるウォーターバロンという水会社が、多数の途上国で庶民を苦しめていることを耳にする。日本の良質な水ビジネスを海外に進出させ、相手国の庶民にも喜ばれることができると、日本の外交上でも、世界にとても良い貢献ができると思う。

 水の分野でも、適切な司令塔を持ち、賢い規制の運用を行い、林業の復活、水道局の民営化、海外進出などにより、日本を利し、世界に貢献できる道が多く存在する。水の分野でも、行動が期待される。

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