選手関白宣言
開幕を明日に控えた前日練習が始まる前に、練習場の横の駐車場で、奈良クラブのサポーターが集まっていた。
楽しそうな雰囲気に引き寄せられて向かってみると、まっさらな白い横長の布が並んでいた。
何本ものスプレー缶が置かれた光景を見て、横断幕を作る過程なんやと気付いた。
いままで数えきれない横断幕を見てきたけど、完成してあるものやったから、こんなふうな工程で作っているのを初めて見た。
どんなメッセージを書けば、選手の気持ちに届いて力になるのかを、あれこれと悩んで書くのを躊躇っているサポーター達を見かけて、俺の悪い癖が出てしまった。何に対しても出しゃばってしまう。
「俺も書きたい。」
何かプランがある訳でもなく、気の利いたメッセージを思いついたでもなく、そこに白い布があり、スプレーで書いたら気持ち良さそうやなとの思いだけで、言ってもうた。
そら、サポーターはオモロいし選手が何を書くか興味があるから、二つ返事やな。
昨今の横断幕の問題があり、メッセージを書く、掲げるすべてにおいて責任という物がついてくる。
軽はずみな気持ちで書いたらアカン。真っ白な布に向かい合って困惑した。
何を書けばええねん。
普通は選手やチームに対してのメッセージを書くんやろうけど、俺、当事者やしな。
「オカさん、もしかして、ノープラン?」
やばい、バレた。でも、そんなことないでと、とっさに書き出したのが(サポーター)の文字。
「オカさん、練習始まるで。やばいよ。」
「マジで、遅刻してまうやん。ほな、書いてしまうわ。」
焦りながら、書き切った。
「いま書いたのをスプレーで濃くしてて。」練習ギリギリで間に合った。
[選手関白宣言]
奈良クラブのサポーターになる前に、言っておきたいことがある。
かなり厳しい話もするが俺の本音を聴いておけ。
選手より後に来てはいけない。
選手より先に帰ってもいけない。
チャントは上手く作れ、いつも声をだしていろ
出来る範囲でかまわないから
忘れてくれるな 仕事をしながらの選手で
家庭を守りながらサッカーを続けているってことを
サポーターにはサポーターしかできないこともあるから
チームの為に口出しをして、唄って俺についてこい。
他のチームの陰口言うな聞くな。
それからつまらぬ嫉妬はするな。
俺は他のサポに愛想を振りまかない。たぶんしないと思う。
しないんじゃないかな。
ま、ちょっとは覚悟はしておけ。
幸福(しあわせ)は選手とサポで育てるもので
どちらかが苦労して
つくろうものではないはず。
お前は奈良クラブにチームを捨ててくるのだから
帰える場所はないと思え
これから奈良クラブがお前のチーム
俺の引退より先にチームを去ってはいけない。
例えわずか1日でもいい
俺の引退を見届けてくれ
何もいらない 俺の手を握り
涙のしずく ふたつ以上こぼせ
お前のお陰で いいサッカー人生だったと
俺が言うから 必ず言うから
忘れてくれるな 俺は愛する奈良クラブで
サッカー選手を終えると約束するから
忘れてくれるな 俺は愛する奈良クラブで
ユニフォームを脱いで スパイクを置くから
サポーターついて来い。 by岡山一成。(はい。ついて行きます byサポーター)
ご満悦になっているとサポーターが言ってきた。
「オカさん、当然、これはオカさんが持ち帰って、明日、張ってくださいよ。」
マジで。こうして、選手が自ら作り、自ら張るということになった。
「忘れもんないな。横断幕も持ったし、大丈夫やな。」
バスの隣に座るキャプテンの伊澤に確かめた。
「オカさん、何十年、選手やってんすか?毎回言ってますやん。」
いくつになっても出発前は不安になる。
「スパイクとユニフォームがあればなんとかなるよな。」
「それもいっつも言ってますよ。」
開幕の緊張感もあり、落ち着かないままバスが出発した。
高速に入り、日岡山に向かうバスの揺れにウトウトしだした頃に、キャプテンの携帯が鳴った。
「作戦ボードですか?たしかオカさんが当番でしたけど。」
一気に眠気が覚めた。
やってもうた。荷物車に詰め込むのを忘れて、マツ君から譲り受けたゲレンデのなかや。
奈良クラブは選手がボールやマーカー、水のボトルなんかを手分けして持っていくのに、忘れてしまった。
取りに戻る時間もないし、鍵は俺が持っているし、愛車のゲレンデはセキュリティー万全やし、どないしよう。
パニクっている俺に中村監督が電話越しに言ってくれた。
「オカ、心配するな。何か代用品をこっちで探すから、気持ちを落ち着かせて寝ておけ。」
中村監督にとってのデビュー戦でもあるのに、大事な作戦ボードを忘れてしまうなんて、やってもうた。
来る途中の文房具店で画用紙を何枚も買って代用してくれた。何枚も手書きで書いている監督に申し訳ないと謝ると。
「オカ、挽回してくれると信じてるぞ。」
絶対に結果を出そうと思った。
そんなバツの悪いなか、横断幕を張る肩身の狭い俺を想像して。
横断幕をもってくる前に作戦ボードを持って来い、とツッコマレそうななか、張る作業をしていると、
チームメイトが手伝ってくれた。
「オカさん、この横断幕ずっと張っていきましょうね。サポーターも喜んでくれますよ。」
「サポーターもこういう新たな形を他のサポーターに伝えて、凄い反響ですよ。」
俺のパフォーマンスとしてではなく、自分達の思いを代弁してくれたと思ってくれたのが嬉しかった。
絶対にこのチームで昇格したいと強く思った。
1−2のビハインドの後半20分に出場した。
チームメイトが繋いでくれたボールをヘディングでゴールに叩き込んだ。
汚名返上のチャンスをみんながお膳立てしてくれた。
逆転ゴールを決めないと名誉挽回にはならないから、必死にゴールを狙ったけど、2−2でバンディオンセ加古川に引き分けた。
4月20日、13時00分。 奈良の鴻池競技場でレイジェンド滋賀FCと対戦する。
奈良クラブとして初めての3000人を集めたい。
奈良クラブの歴史を塗り替える手助けをして欲しい。
地域リーグのアマチュアの俺たちは、お金を頂いて試合を運営していないので入場無料です。
純粋に3000人のなかでプレーがしたいし、観てもらいたい。
普段、お金を払って観ている、目の肥えたJリーグのサポーターの方達が、
アマチュアやけど人生を変えようと必死に闘う俺たちを観て、何かを感じて貰えるのか。
その後も応援しよう、サポーターになろうと思ってもらえるかチャレンジさせて欲しい。
それぞれの応援するJのチームのユニフォームを着てくれてもいいので、
いつか奈良クラブのユニフォームを着てもらえるように必死に頑張るので、
一度だけでもいいので、4月20日に鴻池競技場に来て頂けないでしょうか?
知らないおじさんについて行っては行けないと、言い聞かされて育ったでしょうが、
一度だけでいいので、岡山一成擁する奈良クラブについて来てもらえないでしょうか?
Jリーグのサポーター、特に俺の在籍していたクラブのサポーター、とりわけ同じ関西で、4月20日に試合のないセレッソサポーターに告ぐ。
サポーターついて来い。 ちょっと偉そうやな。
サポーターついて来て。 やっぱり頼んだほうがええよな。
サポーターついて来てください。 ほんまにお願いします。