政府税制調査会が、配偶者控除の見直し論議を始めた。安倍首相の指示がきっかけだ。

 何が問題なのか。サラリーマンの夫が主に家計を支え、妻がパートで働く家庭を例に、おさらいをしたい。

 妻は自分の年収が103万円以下なら、給与所得控除(最低保障額65万円)と基礎控除(38万円)が適用されて所得税がかからない。同時に夫にも配偶者控除(38万円)が認められ、納める所得税が少なくなる。

 これでは、妻は年収が103万円を超えないよう、調整しがちになる。働く意欲を損ねていないか――。いわゆる「103万円の壁」だ。

 実際には、配偶者特別控除という仕組みがあるため、103万円を超えた途端に世帯の手取り収入が減る事態は、大半の家庭では生じない。ただ、意識上の「壁」はまだまだ高い。

 さらに、妻の年収が130万円以上になると、厚生年金や健康保険で夫の扶養からはずれ、妻が保険料を納めねばならない「130万円の壁」もある。

 ともに問題点は長年指摘されてきた。当のパート労働者の間でも、もっと働きたい人がいる一方、負担増を避けたい人も多いのが実情だ。

 ここは原則に立ち返ろう。

 税制や社会保障制度は、働き方の選択をゆがめないようにすることが大前提だ。

 パート労働者への厚生労働省のアンケート(11年)では、夫がいる女性パートの2割が「働く時間を調整している」と答えた。その理由では、やはり「二つの壁」が上位にくる。

 待遇を改善しないままパートを便利に使う企業が少なくないのは、こうした制度の問題が一因だろう。少子化で働き手不足が深刻になるだけに、女性にしっかり働いてもらうことは経済にとっても大切だ。

 配偶者控除の背景には「夫が稼ぎ、妻は家庭を守る」という家族像があるが、今や共働き世帯は片働きの1・3倍に達し、「家計も家事も育児も夫婦共同で」と考える人が増えている。

 女性が働きやすい社会には、子育て支援に加え、企業の意識改革がカギとなる。

 政府は16年秋にパート労働者への厚生年金などの適用範囲を拡大するが、保険料の半額負担を迫られる産業界は強く抵抗した。ある調査によると、企業の間では早くも、適用対象とならないようパートの就業時間や賃金を抑える動きが出ている。

 配偶者控除の縮小・廃止論議を皮切りに、様々な制度や慣行を見直していくべきだ。