2014年03月26日 公開
さて次に、海外からのお客さまを「おもてなし」でお迎えしなければならない2020年の東京オリンピック・パラリンピック(以下、オリンピック)までに巨大地震が生じている可能性はいかほどとなるのかを考えてみよう。これについても多くの国民は、このオリンピック年までに巨大地震が発生する可能性をイメージしていないのではないかと思う。しかし首都直下地震も、南海トラフ地震も共に、オリンピックの開催年次までの発生確率は(先ほどと同様の前提で推計すれば)、おおよそ4分の1(25%)程度となる。すなわちこれらの確率を踏まえるなら、南海トラフ地震か首都直下地震のいずれか一方の巨大地震が発生する確率は、45%程度と想定されることとなる。
しかも先ほどと同様に東海地震を想定するなら、いずれかの巨大地震が発生する確率は、じつに約55%(!)と凄まじい水準に達してしまうのである。
つまり、大雑把にいうなら、オリンピック開催までに東京を直撃する首都直下地震が生ずる確率は(少なくともポアソン過程という確率モデルを想定するなら)約4分の1、首都直下地震や東海地震等の巨大地震が首都を含めた太平洋ベルトを直撃する確率は、じつに五分五分程度ということとなる。
折しも、オリンピックの招致合戦の際、日本側の重要なアピールポイントは「安全・安心」であったし、その招致が決まったあとに開催された政府与党の東京オリンピックの実施本部の初会合(2013年12月5日)でも、同本部の馳本部長は「安心で安全で確実に2020年の大会を迎えることができるように全力で取り組んでいきたい」と決意表明している。
しかし、いうまでもなく、オリンピック開催までに東京がほとんど備えもなしに首都直下地震の直撃を受けてしまっていては、首都圏は文字どおりのガレキの山と化し、オリンピックで「おもてなし」どころではなくなってしまうであろう。オリンピックの成否は、あるいは、その開催の有無までもが、巨大地震に対する「安全・安心」にかかっているのである。
以上の状況を踏まえるなら、首都直下地震に対する「強靱性」の確保にオリンピック開催時点まで全力で取り組むことは、「おもてなし」という国際公約を実現するうえで何よりも重要であるということができる。
ではいったい、オリンピックも見据えた強靭化とはいかなるものなのか――ここではその点を概説しよう。
そもそも「強靭化」すなわち「レジリエンス(強靱性)」というものは、次の2つの合成概念である。
その第1は「耐ショック性の増進」である。これはつまり、地震による直接的な被害を可能なかぎり小さくしよう、というものである。具体的には、個々の建物の耐震補強などである。
オリンピックに絞って考えるなら、その関連施設は、開催日までに徹底的に耐震強化しておくことが必須であろう。スタジアム、競技場はもちろんのこと、選手村や海外からの観客たちのための宿泊施設、それら施設へのアクセス道路、鉄道、空港等を補強しておくことは最低限の必要事項であろう。これらの施設が死守されれば、仮に首都直下地震が2017年や2018年に起ころうとも、何とかオリンピックを開催するという判断を下すことができる可能性は「ゼロ」とはならないだろう。一方で、そうしたオリンピックに直接関連する諸施設の耐震補強が不十分であるなら、直下地震でなくとも、約4割もの確率で発生する可能性が指摘されている東海地震が生じてしまっただけで、オリンピック開催が不可能な状況に立ち至ってしまう可能性も十二分以上に考えられることとなろう。
こう考えれば、オリンピック関連施設の耐震補強は、日本国家にとって必須だということができるだろう。
そしてその第2は「迅速な回復力」である。これはつまり、被った被害を回復する際の迅速さを意味する。この回復力が不十分であれば、仮にオリンピック関連施設が死守できたとしても、日本国家は深刻な国力毀損を受け、オリンピック開催の断念に追い込まれてしまう可能性も十分に考えられるだろう。
そのためにまず重要なのは、「首都直下地震を被ったXデーに、どういうような救助、救援作戦を展開するか?」というXデーにおける救助・救援作戦を事前に入念に立てておき、自衛隊や消防隊等が共同で、その日に向けて徹底的に繰り返し訓練を重ねていくことである。そしてそんな事前準備については、こうした「救助・救援フェーズ」だけでなく、数カ月後から数年後にかけての「復旧・復興フェーズ」における効果的な戦略/計画の入念なる検討も必須である。
さて、そんな迅速な復旧・復興を考えるうえで何よりも重要となってくるのが、一極に集中しすぎた発電所や石油精製基地などのエネルギー施設や基幹産業の諸工場等の日本経済の中枢を、(仮に一部であったとしても)可能なかぎり被害の少ない内陸部や日本海側、北海道や九州地方等に、事前に「分散化=事前避難=退避」させておく、といういわゆる「疎開作戦」である。そうすれば巨大地震による被害を、その事前避難分だけ軽減させることができるばかりではなく、激甚被害からの回復を果たすための「国力」を「温存」することが可能となり、より一層迅速な回復が可能となる。
つまり、オリンピックという日本国家を挙げた「おもてなし」を図ろうとする大国家プロジェクトを展開しようとするなら、首都圏だけの強靱化策を図るのではなく、全国各地が参加する「オールジャパン」「チームジャパン」で遂行する国土強靱化対策が求められるのである。
もとより――オリンピックがあろうとなかろうと、巨大地震に対する強靭化が日本にとって必要であるのは明々白々である。そして、巨大地震がいつ何時起こるか誰にもわからぬ以上、1年でも、1カ月でも早く強靭化の取り組みを進めておくことが国民のために求められていることも論を俟たない。
それを踏まえるのなら、このオリンピックの機に合わせて行なう上述のような各種の強靭化対策は、仮に幸いにしてオリンピック開催までに巨大地震が起こらなかったとしても、日本国民、日本国家にとって大きな益をもたらすであろうことは間違いないのである。事実、わが国政府が昨年12月にとりまとめた「国土強靱化政策大綱」のなかにも、オリンピック開催を十二分に見据えた強靭化の取り組みを進める旨が明記されている(その大綱の詳細については、拙著『巨大地震Xデー』にて解説している。国土強靱化の具体的内容にご関心のある方はぜひ、ご参照願いたい)。
ついては世界各国の客人たちを快くお迎えし、万全の体制で「おもてなし」するためにも、官民挙げたオールジャパンでの国土強靱化を急ピッチで進めていくことが強く求められているのであり、かつ、それによってわれわれ日本国家の国益は、多面的な意味で大きく増進することが期待されるのである。
<掲載誌紹介>
総力特集「靖国批判に反撃せよ」では、小川榮太郎氏が「靖国参拝は純粋に精神的価値であって、外交的な駆引きが本来存在しようのない事案」と喝破する。岡崎久彦氏は靖国参拝問題も従軍慰安婦問題も、実は日本(のメディア)から提起され、戦後の歴史問題が歪められたと説く。在米特派員の古森義久氏は「日本側としては米国や国際社会に対して靖国参拝の真実を粘り強く知らせていくべきだ」という。長期戦を覚悟のうえで、世界の理解を得るしかない。
特集「日本経済に春は来るか」では、(米国の)金融緩和の出口戦略の難しさをどう解釈するか、(日本の)4月からの消費税増税の影響と成長戦略について考えた。
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