最近読んだハーバード・ビジネス・レビューに「トライセクター・リーダー:社会問題を解決する新たなキャリア」という特集がありました。
トライセクター・リーダー(Tri-sector Leader)とは、民間・公共・社会の3つの垣根を超えて活躍する人材を言うそうです。必ずしもこの3つに所属している(していた)必要はなく、2つ、または1つのセクターに身をおきながら、他のセクターに属する人と協同してセクター横断的な課題に取り組む人もトライセクター・リーダーとして紹介されていました。
政府にしか解決できない課題は年々減っており、民間や個人が関わり、解決する課題が増えてきていると感じます。また、グローバル化等でビジネスが複雑化し、企業間の競争も激化しているために、必要とされる人材の幅も広がっています。企業、政府、非営利組織の境界は年々曖昧になってきており、持続的な発展のためには全てのセクターでの知見を集結させることが必要になってきているのだと思います。
■トライセクター・リーダーの具体例
IT分野だけでも、トライセクター・リーダーとして以下の方々が思い浮かびます。
・アル・ゴア氏 (Albert Arnold “Al” Gore, Jr.)
下院議員、上院議員、副大統領を歴任。その後、環境啓蒙活動家として活躍し、2007年にはノーベル平和賞を受賞。現在はアップルの取締役、Googleのシニアアドバイザー等も務めています。
・シェリル・サンドバーグ氏(Sheryl Sandberg)
ハーバード大学を主席で卒業後、世界銀行へ。ハーバードビジネススクールでMBAを取得し、マッキンゼー&カンパニーで経営コンサルタントとして勤務した後、クリントン政権下でサマーズ財務長官の首席補佐官に。その後Googleに移り広告・出版関連商品の販売等を担当し副社長に就任。今はFacebookのCOO(最高執行責任者)として活躍中。女性の社会進出をテーマにした財団Lean In.orgも主催しています。
・ジャレド・コーエン氏(Jared Cohen)
史上最年少の24歳で米国国務省の政策企画部スタッフに。現在はGoogleのシンクタンクGoogle Ideas創設者兼ディレクター。最近Googleの会長エリック・シュミットと「第五の権力-Googleには見えている未来」という本を出しましたね。米国外交問題評議会の非常勤シニア・フェロー、国家テロ対策センター所長諮問委員会のメンバーも務めています。現在32歳。
<参考記事>
『外交を舞台にしたソーシャルメディアの伝道師。ツイッターのフォロワーは30万人』
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/929
■トライセクター・リーダーの6つの特徴
この特集では、トライセクター・リーダーの特徴として以下の6つが挙げられていました。
1. 理想と実利をともに追求する
民間企業では安定した収入、政府機関では影響力・発言力・リーダーシップを発揮できる地位、非営利組織では使命の追求、とそれぞれに魅力があります。トライセクター・リーダーは、理想と実利の両方を追求しています。ビル・ゲイツは「自己利益と他者への気遣い、両方を原動力にしたほうが、どちらか片方だけの場合よりもはるかに多くの人々に貢献できる」と語ったそうです。
2. 無関係に見える状況の類似性を見抜く
3つのセクターにいるリーダーは、得意分野が異なり、それぞれ以下のように分類されていました。
企業→稀少な経営資源をうまく配分し、うまみの大きそうな市場機会をつかむ
政府→公益にかなった法律や政策の枠組みを設けるための利害調整
非営利組織→限られたリソース、長期的な視点、大きな裁量の下、手法を凝らして社会利益の増進を目指す
トライセクター・リーダーは、これら3つのスキルとそれぞれの分野での経験を持っており、分野横断的に考え、課題が発生した時に今までの経験との類似性を見抜き、解決に繋げることができるとされています。
3. 状況判断力に優れている
トライセクター・リーダーは、その組織がどう機能しており、各当事者がどんなインセンティブで動いているか、また各組織がどのような恩恵をもたらすかを把握して、状況判断を下すことができます。
4. 知的専門性を高める
トライセクター・リーダーは、セクター間の垣根を越えて特定分野の専門性を培い、活用することが出来ます。職業経験を積みながらも、正式な教育、職業訓練、非営利組織でのリサーチ経験等を等して知的専門性を高めます。
5. セクター横断的な人脈を築く
採用担当者が別のセクターまで広げて人材探しをすることはまずないため、トライセクター型のキャリアを積みたい人にとって、セクター横断的な人脈は重要な意味を持ちます。3つのセクターに関係する複雑な課題を解決する際も、セクター横断的な人脈から多様な人材を招集することができます。
6. 心構えを忘れない
トライセクター・リーダーになった人は、ほぼ全員が偶然の成り行きでそうなったと答えます。しかし、その偶然を活かすための準備として、経験やスキルを積み、チャンスを逃さない心構えを持つことが必要になります。
■トライセクター・リーダーの具体例(日本編)
日本でトライセクター・リーダーとして思い浮かんだのは、以下の方々。
・駒崎弘樹さん (@Hiroki_Komazaki)
SFC在学中にITベンチャーを起業、その後病児保育に関するNPO法人フローレンスを立ち上げた駒崎さん。内閣府非常勤国家公務員の経験もあり、最近では休眠口座の活用に対しての働きかけをしたりと、様々な分野で社会を変える活動をされています。
・藤沢烈さん(@retz)
飲食店経営、マッキンゼーを経てコンサルティング会社を起業。311後は復興支援に関わり、復興庁政策調査官に就任されています。現在は(社)RCF復興支援チームの代表理事として活動中。
・楠正憲さん(@masanork)
大学在学中からフリーランスとして活動し、大学2年時にインターネット総合研究所に入社、その後マイクロソフトに転職。現在はヤフーに勤務しながら政府CIO補佐官にも就任され、東京大学大学院などで講師もされています。
また、この記事は友人のショコラさんのFacebookの投稿で知ったのですが、彼女も会社員をしながら非常勤国家公務員をしている、まさにトライセクターで活躍する方の一人です。
これからますます必要とされていくトライセクター・リーダー。この記事を読まれている方はほとんどが企業にお勤めの方かと思いますが、週末にNPOの活動に参加するとか、行政が主催する懇談会を傍聴するとかしてみると、ちょっと新しい視点が得られるかもしれないですね。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、トライセクター・リーダーのキャリアの各段階(トライセクター・リーダーの育て方)についても書かれているので、より詳しく知りたい方はぜひ手にとってみてくださいね。
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佐藤 茜
サンフランシスコのbtrax社のマーケティング部門でのインターンを終え、2013年1月に日本に帰国。現在は都内でマーケティング・コミュニケーション担当として勤務。 より詳しいプロフィールはこちらから↓
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