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「がれきを燃やす」という表現に違和感を抱くのは私だけだろうか。がれきは漢字で書けば「瓦礫」であって、瓦や石ころを指し、普通、燃えないものに分類される。東日本大震災の廃棄物処理を巡って朝日新聞が紙面で繰り返し使っておきながら、勝手を言って申し訳ない。
震災後できた法律では「災害廃棄物」という。しかし、環境省は「みんなの力でがれき処理」というキャッチフレーズも掲げている。細野豪志環境相は先月、中之条町で「被災地の皆さんの目の前から1日でも早くがれきを無くしたい」と訴えた。
中之条町と東吾妻町、高山村は、木・紙・繊維のくずやプラスチックといった燃えるゴミを引き受ける計画だが、がれきと言う方がインパクトがある。がれきと聞けば、私は原爆や空襲の後の荒涼とした風景を思い浮かべる。心に迫るものがあり、何か自分にできることはないかと考えさせられる。
環境省は被災地を助けたいと思う人々の心情に少し頼りすぎていないか。山本龍前橋市長は環境省の要請に沿って岩手県大船渡市を3月末に訪ねたが、焼却して欲しいものはないと言われてしまった。環境省が古いデータに基づいて話を持ち込んだためだ。
中之条町などの計画を読んで気になって、被災地の焼却施設の稼働率を環境省に尋ねたら「把握していない」との答えだった。廃棄物を遠くまで運んで燃やす必要がどれくらいあるのか、まだ腑に落ちない。(朝日新聞前橋総局長・高谷秀男)

野田政権が消費増税法案を国会に提出した。あれこれ賛否の議論が広がりつつあるが、消費税は滞納が多いことをご存じだろうか。10年度の場合、税収は一般会計に入る国税全体の4分の1なのに、新規滞納額は国税全体の半分を占め、3398億円にのぼる。税率1%の地方消費税を含めると額はさらに増える。
消費者は払ったつもりでも、事業者が納める段階で滞る。消費税は、事業者が赤字で所得がなくても、納めなければならない。ライバルとの競争にさらされて、消費税を転嫁できず、自腹を切る事業者は少なくない。滞納の多くは資金繰りに困ってのことだ。
前回、税率が3%から5%に上がった97年度、滞納額は前年度より25%増えた。98年度はさらに34%も増加した。98年は自殺者数が急増し、初めて3万人を超えた年でもある。職業別の増加率のトップは自営者の43%だった。
パソコンで毎年の自営者の自殺者数と同年度の消費税の新規滞納額との相関係数をはじいたら、0・74と出た。1に近いほど、強い正の相関を示す。翌年の自殺者数との相関係数は0・81だった。
相関が強くても、因果関係があるとは限らない。原因は不況であって、その結果が自殺や滞納の増加とも考えられる。ただ、税率引き上げが資金繰りを難しくするのは間違いない。不景気の今、また税率を上げれば、必ず自殺も滞納も増えると私は思う。野田さん、どう思いますか。(朝日新聞前橋総局長・高谷秀男)

先月末、前任地の九州大分から前橋にやって来た。引っ越しは、社会に出てから15回を数えるが、今回、初めて新築のマンションを借りることになった。何から何まで清潔で、最新装備があふれている。新築はいいものだ。
ただ、防犯装置のオートロックが多いのには閉口している。門、建物入り口、エレベーターの3カ所もある。このため新聞を自室玄関まで配達してもらえない。冬の朝も1階まで取りに行かなければならない。これが新聞購読の減る原因のひとつといわれ、新聞社に身を置く者としては、なおさら気が重い。
県警によれば、県内の犯罪件数は04年をピークに減っている。減少のいくらかはオートロックの効果かもしれないが、関門を三つも設けなければならないほど群馬が危ない所とは思えない。近年、人口比の犯罪件数は全国平均を下回っている。
結局、防犯装置はマンション売り込みの道具に見える。パンフレットは「先進セキュリティ」と誇らしげにうたっていた。そこまでの装置が本当に必要なのか、どれほど効果があるのか定かではないが、購入者には格好よく映り、あるに越したことはないと思わせるのではないか。
気の毒なのが宅配便の配達員だ。部屋番号を何度も押して、解錠を請う。こちらは来訪者を繰り返し検分して、偉そうに振る舞うようで心地が悪い。セキュリティなんて売り物にならない方がいい。毎日、オートロックの門をくぐるたびにそう思う。(朝日新聞前橋総局長・高谷秀男)

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