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先日、グリーンドーム前橋に初めて足を踏み入れた。昨春の着任前、先輩記者から、前橋には全国で二つしかない屋内競輪場があるから行ってみろと言われていた。その日、前橋のレースはなかったが、他の競輪場のレースの生映像を大型画面に映し、勝者投票券(車券)を売っていた。
見回すと、車券売り場や大型画面の見える観覧席に競輪ファンがざっと数百人いた。皆さん、ほとんど50代以上のようだ。経産省の資料を調べたら競輪ファンの平均年齢は2007年度で57歳。高齢化が進み、他の公営ギャンブルと比べて高いという。
全国の競輪の売上高はピークだった1991年度の3分の1に減っている。電話やインターネットによる車券購入が増えた半面、競輪場の入場者や1人当たりの購入額が減った。賃金の減少や失業の増加の表れに違いない。
前橋市の競輪は今年度も黒字で、市の一般会計に1億円を納める。ただ、その金はピークの93年度には45億円もあった。01年度からはゼロの年が4回だ。工事費157億円で90年に完成したドームは補修に金がかかる時期を迎えている。ギャンブルの是非は別にしても、将来は先細りだろう。
私が行った日、競輪コースの内側ではフリーマーケットが開かれていた。出店や大きなブタの形の遊具が並び、家族連れで大にぎわいだった。そこに時々「締め切り1分前」「間もなく締め切り」と車券販売のアナウンスが流れる。不思議な雰囲気だった。(前橋総局長・高谷秀男)

先週、県埋蔵文化財調査事業団で「甲を着た古墳人」が公開され、6日間で8306人が見学した。毎月千人程度の常設展示と比べると大変な人気だ。私が行った水曜は初日の日曜より人出が多く、100人を超える行列だった。駐車場には埼玉、千葉、東京、神奈川のナンバーの車も並んでいた。
待つこと40分。展示室に入った。甲の下の骨は予想以上にしっかり残っており、大腿骨の骨頭らしい丸い部分や前のめりに倒れた姿勢がよくわかる。樹脂ケース越しでも本物を目にすると、千何百年前、この人が榛名山の噴火で命を落とした様を想像せずにはいられない。
イタリアにある世界遺産のポンペイ遺跡が頭に浮かんだ。1世紀に起きたベスビオ火山の噴火で灰に埋まり、タイムカプセルのように古代都市の姿を現代に残した。噴火は津波も引き起こしたらしい。遺跡を歩くと、火砕流にのみ込まれた人々の最期の叫びや当時の生活の息づかいが聞こえてくるようだ。
東日本大震災から2年が経った。1万5千人を超える犠牲者。いまだ見つからない行方不明者。遅々として進まない復興。終わらない原発処理。甲を着た古墳人を見て、私は大震災を思った。
発見場所の金井東裏遺跡とともに今後、本格的な最先端技術を駆使した調査、発掘が進むはずだ。学術的な価値はその結果を待たなければならないが、甲を着た古墳人は、自然の猛威と対峙してきた人類の歩みを私たちに語りかけてくる。(朝日新聞前橋総局長・高谷秀男)

市民オンブズマンが群馬県の大沢正明知事を訴えた裁判の判決が先月27日、前橋地裁であった。原告は、知事が女性を知事公舎に泊めたのは県公舎管理規則に違反する目的外使用だとして知事に弁済を求めていたが、原告の敗訴に終わった。
問題は、週刊新潮が2011年7月、知事が公舎を「ラブホテル代わりに利用しているようなもの」と報じて公になった。知事は直後の記者会見で、1泊させたと認めたが、女性は愛人ではないと断言し、週刊新潮への抗議は「相談して考えたい」と話した。しかし、編集部に確認すると、これまで書面での抗議や告訴はないという。
規則は公舎の目的を「公務の円滑な運営を図るため」と定める。判決は、女性が泊まった7月8日、公舎で実際何があったかには踏み込んでおらず、1泊させたことだけでは目的外使用とはいえないと結論付けた。つまり、知事の「潔白」がはっきりしたわけではない。
判決は、女性が公舎に過去何回来て、何回泊まったのかも特定していない。1泊ではもちろん、仮に週刊新潮が報じた通り43回だったとしても、規則が禁ずる他人の「同居」とはいえないと述べている。要は使用の中身だ。
原告は一審で公舎の現場検証を求めたが、認められなかったという。控訴したら知事と女性を証人として法廷に呼ぶよう求めたらいい。知事は前述の会見で、今後を問われて「正々堂々とやっていきます」と答えた。拒む理由はない。(朝日新聞前橋総局長・高谷秀男)

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