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先週末、大友直人さんが指揮した群馬交響楽団のオープニングコンサートに行った。大友さんが群響の音楽監督に就いて最初の演奏会とあって、真冬に戻ったような寒さと雨にもかかわらず、群馬音楽センターはほぼ満員の盛況だった。
素晴らしい演奏を聴き、日頃、世俗の埃にまみれて右往左往している私は心が洗われた。曲は「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲、モーツァルトの「ジュピター」。最後のR・シュトラウスの「英雄の生涯」は、群響が23年ぶりに演奏したそうで、大友さんの強い意欲が伺えた。
本番前に総仕上げの稽古、ゲネプロも見学した。最初に大友さんが「ともに音楽を作っていく喜びを分かち合いたい」と挨拶したのが印象深い。その後、団員が拍手し、間を置かず、英雄の生涯の演奏に入った。音楽という共通項を持つ人々が何とも羨ましく思えた。
新聞記者も日々、チームで取材している。それが大きな事件や事故に即応し、特ダネや大ニュースを発掘する原動力だ。1人の力には限界がある。ただ、オーケストラほどの大人数が顔を突き合わせて同じ問題を取材し、達成感を共有することは少ない。
取材チームが大きくなると、記者がそれぞれ思い抱く方向が食い違って、切れ味が鈍る。無理にまとめれば主流の論調に沿った記事ばかりが紙面を埋めかねない。チーム力をどう生かすか。帰途、英雄の生涯の冒頭を反芻しながら、考えを巡らせていた。(朝日新聞前橋総局長・高谷秀男)

4月は人事異動の季節だ。群馬県は1日付の異動で、教育委員会や県警などを除く知事部局の女性の管理監督職が過去最多を更新したという。係長以上が130人となり、1年前より3人増えた。生活文化スポーツ部長をはじめ積極的に女性を登用したと胸を張る。
さっそく他県と比べてみた。今月の比較データはないので、内閣府が昨年4月現在でまとめた管理職総数に占める女性の割合のランキングを見たら、群馬県は堂々10位に入っている。やっぱり、かかあ天下の土地柄か。隣の栃木は24位、埼玉は30位、長野は42位だ。
ただ、十傑とはいえ、その割合は7%。職員総数の男女比にすら遠く及ばない。もちろん群馬だけの話ではない。1位の東京でさえ14%、2位の鳥取と3位の香川が10%台で、あとは1ケタだ。日本の女性管理職はまだまだ本当に少ない。
厚労省が最近発表した平均寿命は、群馬県の女性は85・91歳で41位だった。男性も29位の79・40歳でパッとしないが、女性の低位が気になるところだ。かかあ天下は、女性が働き者だからともいわれるので、働き過ぎが寿命に影響しているのではないかと心配になってくる。
勤勉と努力は大切だが、男も女も寿命を縮めてはしようがない。女性管理職が少ないからといって、候補者たちがことさら無理を強いられるようなことがあってはいけない。誰もが普通に勤勉に働いて、男女均等の処遇や登用が自然になされる組織がいい。(朝日新聞前橋総局長・高谷秀男

昨年の総選挙の効力を争う16件の裁判で、先月、選挙区割りを違憲とする判決が14件下された。うち2件は、この欄で総選挙直後に予想した選挙無効の判決だ。選挙区により人口に開きがあって一票の格差が歴然としているのに、国会が放置してきた。判決は当然だ。
とりあえず政府・与党は「0増5減」という小選挙区の区割り見直しで乗り切ろうとしているが、最大格差が1・998倍に縮まるだけだ。2倍未満なら問題なしとも言えないし、遅かれ早かれ人口増減で2倍を超える。根本的な解決策が必要だ。
そもそも本当に一票の格差を問うなら、議員1人当たりの人口の多寡だけでなく、死票にも着目すべきだ。選挙で落選者に投じられた票を死票と呼ぶ。死票は議席数にまったく反映されないから、結果として一票の価値はゼロになってしまう。死票と当選者に投じられた票との格差は無限大といえる。
その死票が、1選挙区で1人しか当選しない小選挙区制では膨大に出る。昨年の総選挙では、群馬1〜5区は、当選者の総得票が49万票、死票が40万票だった。全国300小選挙区の死票は3100万票にのぼり、当選票を上回って有効投票の53%を占めた。
死票が多かったため、自民党は35%の得票率で衆院議席の6割を得た。つまり、少数意見でも多数決で勝てる。果たして、これが民主主義といえるのか。死票を減らすには、得票の比率に応じて議席を配分する比例代表制がいい。(朝日新聞前橋総局長・高谷秀男)

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