朝日ぐんまって?
朝日フォトコン
コラム 
記者の目
プレミアム [5月24日号]

 富岡製糸場と工女の図柄をあしらった記念硬貨が今夏発行される。地方自治法施行60周年を記念して08年から47都道府県の図柄の硬貨が順次出されているが、富岡製糸場の世界遺産登録を目指す群馬にとって絶好のタイミングだ。コインはいいPRになる。
 500円と1000円の2種類の発行だが、1000円銀貨は6000円で売り出されると聞いて驚いた。額面超過額つまりプレミアムが5000円もする。財務省理財局は、現在の相場だと銀の原価だけで2000円を超え、その他のコストを加味すると「あまりもうけはない」と説明する。
 連休に、ある観光地の出店で郵便切手のシートを買った時もびっくりした。よく見ると、900円のシートには50円切手が10枚、1200円のシートには80円切手が10枚しかない。「えっ、高い」と声をあげたら、隣にいた女性客も「本当!」と目を丸くしていた。
 郵便局員は慌てて「切手以外の部分にも奇麗な写真が印刷されていますから」と言い訳した。確かに有名な桜と水芭蕉が写っており、だから私も買ったのだが、切手を含めてA4版ほどのシートにしては高すぎる。奇麗な写真なら無料のチラシにだって載っている。
 今始まったわけではないが、いやはや財務省、造幣局も、郵便局も商売人だ。コインや切手は趣味の対象だから、プレミアムを全面否定するつもりはないが、いったいどこまでやるのやら。独立行政法人化、民営化で拍車がかかっているのかな。(前橋総局長・高谷秀男)

 

憲法改正案 [5月17日号]

 自民党が昨春発表した「日本国憲法改正草案」を憲法記念日に読んだ。安倍首相が、まず96条を改正し、国会の改憲発議をしやすくする方針を示し、憲法論議が熱を帯びている。草案の他の内容も気になる。
 前文は全面書き換えといえる。冒頭は「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家」。現行の「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやう…決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し」は消えている。
 1条は「天皇は、日本国の元首であり」から始まる。3条には「日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない」とある。自民党の解説文は、尊重は「当然」と断言する。君が代斉唱や日の丸掲揚が強制されないか。
 9条には「自衛権の発動を妨げるものではない」という文言が新たに入っている。「個別的自衛権」とは書いていないから、集団的自衛権の発動も妨げない。A国がB国を攻撃した場合、日本が攻撃を受けていなくても、日本はA国に反撃できるようになる。戦争に巻き込まれないか。
 表現の自由を定める21条には新たに「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」との例外が加わっている。自民党は「社会的に表現する段階になれば、一定の制限を受けるのは当然」と主張する。何やら政府に異を唱えるだけで処罰されそうだ。(朝日新聞前橋総局長・高谷秀男)

 

被災地から [5月10日号]

 先月末、東日本大震災の被災地、宮城県石巻市を訪ねた。旧北上川河口の西、小高い丘の南に位置する門脇町、南浜町は約1キロ四方がほとんど更地のようだった。小学校や病院、寺の廃墟が目を引く。海岸線を走る道路沿いに無数の廃車が山を成していた。
 更地にぽつんと残った工場前でテントを張って、わかめや鯨肉を売っていた男性が教えてくれた。震災前、辺りは住宅地で、廃車の山の場所は子供らが遊ぶ公園だった。数件残る住宅は、ほとんどが一家全滅の家で、取り壊しが止まっているという。
 そこから3キロほど北、内陸側に行った市中心部で昼食をとった。店内の柱には、床から1・3メートルほどの高さでひもが結わえてある。そこまで浸水があり、電気製品をはじめ畳や寝具、車まであらゆるなものが駄目になった。店の女将が自分から話してくれた。
 実は私は今回初めて被災地に足を踏み入れた。3・11当時、遠い大分にいたという事情もあるが、昨春、前橋に移ってからも被災地への出張はなく、自分の意思で行くには躊躇いがあった。被災地に行けば必ず被災者に話を聞きたくなり、仕事柄、ついつい微に入り細に入り尋ねてしまうからだ。
 震災発生から2年2カ月が経った。被災者は何度も何度も繰り返し同じことを尋ねられ、話をさせられてきたことだろう。にもかかわらず、復興は遅々として進まない。私は今回、どうにも自分の名刺を差し出す気持ちになれなかった。(朝日新聞前橋総局長・高谷秀男)


最近のバックナンバーに戻る