朝日ぐんまって?
朝日フォトコン
コラム 
記者の目
氷上の輝き [11月22日号]

 今月初め、前橋市内でフィギュアスケートの東日本選手権が開かれ、妻に連れられて観戦に行った。以前この欄で紹介した通り、話題の安藤美姫選手が出場したので、東京からテレビ局のクルーやスポーツ記者が押し寄せ、客席もほぼ満員の大盛況だった。
 安藤選手はショートプログラムで失敗したが、翌日のフリーで挽回して2位につけ、来月に埼玉で開かれる全日本選手権の出場権を得た。やはり貫禄が違う。ただ、点数は浅田真央選手らの水準と相当開きがあって、目標のソチ五輪出場は容易ではないらしい。
 安藤選手の演技が終わるやいなや、テレビカメラが一斉にリンクサイドから引き上げるのが気になった。インタビューの様子を撮りに行ったのだろう。私も彼女を見ようと来たのだし、メディアの一員なので事情はよく分かるが、何とも浅ましく映る。
 観戦後、私の心をじんわりと占めたのはむしろ他の選手たちだった。1人は32歳のベテラン村主章枝選手だ。トリノ五輪4位をはじめ世界で堂々たる戦歴を誇る彼女が20歳前後の選手に交じって直向きに滑り続ける姿は光を放つ。全日本の出場権は逃したが、立派だった。
 20歳の西野友毬選手が1位に輝いた。自己ベストを大幅に更新した素晴らしい演技だった。観客は総立ちで拍手をおくった。その様子も、男子やアイスダンスの選手の戦いも、応援の「がんば!」のかけ声もテレビには流れないが、実にすがすがしかった。(朝日新聞前橋総局長・高谷秀男)

 

スピード判決 [11月15日号]

 最高裁が20日、衆院選の1票の格差訴訟の判決を下す。3月の高裁判決は16件中14件が選挙を違憲と、うち2件が無効と断じており、最高裁判決は注目だ。昨年末の提訴から338日目の判決はスピード判決という。前例は1年5カ月〜3年4カ月だった。
 しかし、公職選挙法213条1項は選挙の効力を争う訴訟について「判決は事件を受理した日から百日以内に、これをするように努めなければならない」と定める。今回の最高裁判決は最後の高裁判決から数えても238日も後ではないか。
 さらに同条2項は「他の訴訟の順序にかかわらず速やかにその裁判をしなければならない」と裁判所に義務付けている。しかし、最高裁は4月以降、裁判所の判例検索で把握できるだけでも、他の30件近い訴訟の決定や判決を下している。
 砂川事件の裁判を思い出した。1959年3月、東京地裁が米軍の駐留を違憲とする判決を下す。検察が高裁を跳び越す異例の跳躍上告を行い、最高裁は一審判決から261日後の12月16日に原判決を破棄した。本当に大急ぎだったのだろう。
 当時の最高裁長官は上告審判決前に駐日米公使らに面会し、裁判の見通しを伝えていた。今春、米国の公文書で明らかになった。司法権の独立を投げ捨てる行動だ。現在の長官はこの事実について「(最高裁内の)資料に該当するものはなかった」と記者会見で述べている。最高裁にも法を守って欲しい。(朝日新聞前橋総局長・高谷秀男)

 

ああ水戸 [11月8日号]

 高校野球関東大会の県勢の活躍を見ようと水戸までJRの両毛線と水戸線を乗り継いで行った。渡良瀬川の清流を渡り、足利辺りでは「大小」の大きな文字を掲げる大小山に驚き、筑波の山並みも眺めた。稲刈りをしているところもあり、秋の田園風景を楽しめた。
 とはいえ3時間もかかった。前橋駅を午前8時51分に発ち、水戸駅到着は11時59分。各駅停車しかない。運賃は2520円。上野経由で新幹線と特急を乗り継いでも前橋同時刻発で到着は11時46分だから大差ない。運賃・料金は7390円もかかる。
 ことほど左様に、鉄道を使って北関東を東西に移動するのは不便だ。パソコンで検索すると、車なら前橋駅から水戸駅まで高速道路を通って153キロ、所要2時間16分と出た。私はビールを我慢してハンドルを握ればいいが、車の無い人には気の毒だ。
 高速バスは2010年春から前橋〜高崎〜佐野〜水戸〜勝田のルートを1日1往復走っていた。運賃は2300円。高崎・水戸間が所要3時間。だが、利用客の伸び悩みで11年8月から運休している。せっかく北関東自動車道が11年春に全通したというのに寂しい話だ。
 茨城のバス会社も参入する可能性があったが、東日本大震災の被害で立ち消えになったという。運行本数が増えていたら、使い勝手がよくなって、海や温泉への観光客や平日のビジネス客をもっとつかめたかもしれない。こんなところにも震災が影を落としていた。(朝日新聞前橋総局長・高谷秀男)


最近のバックナンバーに戻る