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15日早朝、3階にある自宅から外を見て驚いた。図書館の駐車場に停まっている車が大きな雪の塊になっている。出口の屋根は雪の重みで柱が折れて倒れていた。出勤できないスタッフから携帯に電話が入り、大急ぎで職場に向かった。
街中を回ってさらに驚く。乗り捨てた車。延々と続く車列。前橋で観測史上最高の積雪73センチを記録し、群馬県内だけで7人が亡くなり、約80人がけがをした。農業被害は247億円にのぼった。心からお悔やみとお見舞いを申し上げたい。行政には手厚い支援を望む。
10日以上経っても雪の山があちこちに残っていた。もう少し早く処理できそうなものだが、市役所に事情を聞くと、そう簡単ではないらしい。側溝や小川に捨ててもすぐに解けずに水があふれるし、雪捨て場に集めると費用がかさむ。道端に寄せて解けるのを待つのが賢明とか。
雪の山を眺めていたら東日本大震災の廃棄物の山が頭に浮かんだ。環境省によると、ようやく岩手、宮城の両県は1月末までに98%の処理が済んだ。しかし、福島県では原発事故の避難区域外ですら68%。避難区域内には80万トンの廃棄物が残っているという。
あれから間もなく3年が経つ。春が来れば雪は解けるが、放射能は消えない。放射性元素には半減期が何万年のものもある。大雪の混乱が続いていた前橋で「大震災以来だね」という台詞を何度か耳にした。福島では「大震災以来ずっと」が多いことだろう。(朝日新聞前橋総局長・高谷秀男)

ソチ五輪観戦で寝不足の方も多いだろう。日本人選手は序盤もう一歩だったが、スノーボードを皮切りに次々とメダルに輝き、同慶の至りだ。ノルディック複合は20年ぶりにメダルを取り、草津町出身の元選手荻原次晴さんがテレビで号泣していた。
複合とフィギュアで見た試合直後のフラワーセレモニーが印象に残った。上位3人が台に上がるのは表彰式と同じだが、メダル授与、国旗掲揚、国歌演奏はなく、小さな花束を受け取るだけだった。しかし、みな喜びを満面にたたえて清々しく、心温まる式だった。
オリンピック憲章は大会を「選手間の競争であり、国家間の競争ではない」と位置づけ、IOCと大会組織委員会に「いかなる国別の世界ランキング表も作成してはならない」と命じている。近代五輪の開始当初は、国旗を掲げた入場行進はなく、国境をまたぐ混合チームが参加していたという。
フィギュア・ペアの高橋成美選手はカナダ人選手と組んで12年の世界選手権で3位の実績を持つ。そのパートナーが日本国籍を取れず、ソチ五輪には別の選手と組んで出場した。2人はわずか1年の練習で立派な演技を披露したが、元のペアなら、さらに素晴らしい演技ができただろう。
テニスのウィンブルドン選手権では昨年、青山修子選手が南アフリカの選手と組んで女子ダブルスのベスト4に入った。一流選手は世界と交わり腕を磨く。観衆はそのプレーを一番楽しみにしている。(朝日新聞前橋総局長・高谷秀男)

前東京都知事の猪瀬直樹氏は副知事だった2012年6月、東京電力の株主総会に乗り込んだ。筆頭株主である都を代表し、経営合理化や顧客サービス向上などを提案して拍手を浴びた。都は株主権を行使して東京電力を改革できる。そんな幻想が生まれた。
しかし現実に、その総会で可決されたのは、政府から1兆円の出資を受けるという執行部の提案だった。翌月には特殊法人が約半分の株を持ち、筆頭株主となった。3・11前からの株主の株が減らされることはなく、都は引き続き上位の株主だが、持ち分は政府の1割もない。
だから、そもそも都知事には東電の意思決定を通じて脱原発を進める神通力などありはしない。仮に小泉純一郎氏の支援を受けて脱原発を掲げて立候補した細川護熙氏が都知事に当選していたとしても、政府が方針を変えない限り、原発再稼働は止められない。
国政選挙以外に政府の方針を変えられるのは世論と外圧だろう。今回の都知事選を巨大な世論調査と見なせば、再稼働反対の声は、それを明確に打ち出していた次点の宇都宮健児氏と細川氏の2人の得票率を合わせた40%に達したといえる。
はっきり再稼働賛成を掲げた田母神俊雄氏の得票率は13%。43%で当選した舛添要一氏はあいまいだった。宇都宮氏と細川氏の一本化に奔走した人たちが記者会見で悲壮な表情を浮かべていたが、脱原発派にとって選挙結果は悲しいものではなかったのではないか。(朝日新聞前橋総局長・高谷秀男)

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