朝日ぐんまって?
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コラム 
記者の目
さようなら [3月28日号]

 転勤のため、今回が最終回となります。着任から2年、70回ほどの連載でしたが、お読み下さり、本当にありがとうございました。感想のお便りや電話を頂戴し、たいへん励まされました。記者は何歳になっても、共感して頂けることが最上の喜びです。
 思えば書き残したテーマがいろいろあります。群馬の話題では八ツ場ダム、緑の県民税、御巣鷹山、尾瀬、温泉、軽自動車など。下調べをしたり、様々な意見を聞いたりしていましたが、ご披露できませんでした。
 御巣鷹山と尾瀬には足を運べず、本当に心残りです。そのうち行けると思っていたら時間切れ。群馬に居た記者として恥ずかしい。上毛三山も車で登っただけ、スキーも草津で1回滑っただけに終わってしまいました。上信電鉄には1度乗りたかった。
 記者は現場を訪ね、当事者から直接話を聞くのが仕事です。総局長も記者ですが、高校野球や吹奏楽、合唱をはじめとする朝日新聞社の主催行事の仕事も大切ですし、管理職業務も結構忙しく、本来の記者活動に割ける時間が限られます。もっと時間を惜しんで、より上手に両立させられなかったものかと反省します。
 4月からは純粋な記者に戻り、特別報道部で調査報道に携わります。取材対象や地域に限定はありません。東京を本拠に全国を飛び回り、群馬にも来るかもしれません。朝日新聞の全国紙面で私の署名を見つけて頂けるよう、精進します。お元気で、さようなら。(朝日新聞前橋総局長・高谷秀男)

 

組織防衛 [3月21日号]

 桐生の市立小学校の6年生が自殺し、両親が市と県を訴えていた裁判の判決が先週末あった。前橋地裁は、学校が学級崩壊といじめにきちんと対処せず、調査報告も不十分だったとして、損害賠償を両被告に命じた。肉体的暴力を伴わないいじめでは画期的な判決という。
 全101頁の判決を読んだ。亡くなった女の子は、同級生からひどい言葉を浴びせられ、仲間外れにされ、しっかり守ってくれる人もいなかった。どれほど孤独で辛かったことか。判決は細かい事実を丁寧に検討し、説得力がある。
 驚いたことに、市が法廷に提出しない資料があったという。自殺の1カ月前に担任が子どもたちに記入させた学級生活を振り返るアンケートの回答で、当の女の子の回答もあったはずだ。判決は「廃棄したとすれば、それ自体、重大な調査報告義務違反」と怒りをあらわにしている。
 自殺後、女の子に宛てて在校生が書いた手紙の一部が後から消されていた事実も確認された。判決は「教諭の指導に従って消したと推認され……(小学校は)自死の原因を明らかにする積極的姿勢を欠いていた」と述べている。
 市が設けた調査委員会が翌年に報告書をまとめたが、これも非公開だ。プライバシー保護のため公開できない部分があるのは理解できるが、A4判28頁全てがそうとは思えない。判決が別の報告書について指摘した「組織防衛」がここにもうかがえる。女の子が可哀想で仕方がない。(朝日新聞前橋総局長・高谷秀男)

 

零戦ブーム [3月14日号]

 先週、米国でアカデミー賞の授賞式があった。宮崎駿監督の「風立ちぬ」が長編アニメ映画賞にノミネートされていたが、受賞には至らなかった。主人公のモデルは群馬県出身の零戦開発者。昨秋、彼をこの欄で取り上げた。
 受賞は無理と思っていた。戦争の空しさを語ってはいるが、零戦によって殺された人々の側への謝罪の意思が伝わってこない。不快に思う米国人は少なくないはずだ。宮崎監督自身それを分かっているから、ノミネートだけで「十分」という落選の弁だった。
 とはいえ国内観客動員は800万人を超えた。同じ零戦が登場する映画「永遠の0」もヒットしている。昨年末公開だが、3月に入っても前橋や高崎のシネコンで毎日複数回上映していた。観客は666万人に達したという。零戦ブームといえる。
 「永遠の0」は、腕は立つが交戦を避けて海軍一の臆病者と呼ばれた零戦パイロットが最後は特攻に志願して死を遂げる話だ。戦争の非人間性、不合理は伝わってくる。が、ほとんど日本人しか登場せず、日本人の論理で完結しており、海外で上映しても共感は得られまい。
 原作者の百田尚樹氏は2月の都知事選に立候補した田母神俊雄氏の応援演説で他候補を「人間のくずみたいなもの」と呼んだ。朝日新聞紙上で「言い過ぎだった」と述べたが、今月初め他候補の1人に尋ねると百田氏から直接の謝罪はないという。零戦ブームの底に何やら傍若無人なものを感じる。(朝日新聞前橋総局長・高谷秀男)

 


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