(藪野)お前が憎くてならない姉ちゃんを俺がこの手で懲らしめてやるよ。
(愛美)やめて。
お姉さんのおなかには赤ちゃんが。
(藪野)知るかそんなこと。
(波津子)誰か!誰か!
(藪野)どけ!
(波津子)ああっ。
(愛美)しっかりして。
(聖美)うっ。
ううっ…。
(繁郎)ああっ。
ストレッチャー。
早く弘明呼んで。
(瑞穂)はい。
(聖美)赤ちゃん。
赤ちゃん。
(弘明)手術室へ移動。
帝王切開ですぐに出産させます。
(繁郎)帝王切開?
(聖美)どうしても駄目なんですか?手術じゃなきゃ。
(聖美)自分の力で産みたい。
産んであげたかった。
(弘明)これが最善の方法です。
選択の余地はない。
よろしくお願いします。
(弘明)よし。
始めよう。
(医師)お願いします。
(弘明)メス。
(弘明)鑷子。
クーパー。
(瑞穂)院長。
奥さまに声を掛けてあげてください。
い…院長。
ちょっと。
大丈夫ですか?い…。
私のせいでこんなことに。
お願いだから無事に生まれて。
(波津子)泣いたってどうにもなりゃしません。
まさかあんな男が峻ちゃんの父親だなんて。
何だってあんな男と。
・
(林田)大奥さま。
(波津子)あっ。
(林田)ああ。
大奥さま。
(波津子)事務長。
どうだった?誰も気付いちゃいないでしょうねさっきの騒ぎ。
(林田)多少何かあったんじゃないかと言っている者はいましたがご心配には及びません。
うまくごまかしておきました。
(波津子)じゃあ警察には。
(林田)通報される心配はありません。
(愛美)届けないの?警察に。
あいつあのまま野放しに?
(愛美)何で?
(波津子)やむを得ないでしょ。
認めたくないけど世間から見ればあなたは一応柳沢家の身内なんだから。
(愛美)それってどういう…。
(波津子)警察に言えば何もかも白日の下にさらされる。
聖美さんの妹であるあなたと内縁関係にあった男がああいう人だって分かればそれだけで家名に傷が付くんです。
言っとくけどあなたたちのためでもあるんですよ。
峻ちゃんだって人さまから白い目で見られることになる。
それぐらいあなただって分かるでしょ。
・
(仁美)しっかりしてください。
大丈夫ですか?
(波津子)繁郎。
いったいどうしたの?
(仁美)それが奥さまの手術中貧血を起こされて。
(敏江)院長。
しっかりしてください。
(仁美)大丈夫ですか?
(峻)伯父ちゃん。
(波津子)ああもういいわ。
行って。
(仁美)はい。
何やってんだあんたは。
こんなことだからかげろう院長なんてバカにされんですよ。
(弘明)卵膜確認。
破膜します。
(瑞穂)もうすぐですよ。
ちょっとおなかを押しますからね。
(弘明)よし。
出てきた。
(瑞穂)生まれましたよ。
男の子です。
男の子?
(瑞穂)呼吸が。
(弘明)何?
(瑞穂)息をしてません。
(弘明)酸素をくれ。
すぐに人工呼吸の用意。
(一同)はい。
(弘明)ぐずぐずするな。
(一同)はい。
どうしたの?赤ちゃんに何が?
(瑞穂)大丈夫。
大丈夫ですよ。
(弘明)生きろ。
呼吸するんだ自分の力で。
・
(産声)
(瑞穂)先生。
(弘明)ほーら坊主。
お母さんだぞ。
(瑞穂)よく頑張りましたね。
ママも坊ちゃんも。
(弘明)よし。
急いで後処置だ。
(一同)はい。
(弘明)胎盤を出したら腕によりをかけて奇麗に閉じてあげますからね。
生まれた?無事に?
(瑞穂)お望みどおりのお坊ちゃま。
おめでとうございます。
大奥さま。
よかった!
(波津子)あっ。
(峻)伯父ちゃん。
赤ちゃん。
赤ちゃん生まれたって。
あれ?何で僕こんなとこに?しっかりしなさい。
あなたパパになったのよ。
パパ?パ…。
あっ!だってそんないつの間に。
えーっ?《どこ?赤ちゃん》《どこ?どこなの?》《赤ちゃん。
私の赤ちゃん》《あっ。
うっ》《待って。
連れていかないで。
お母さん。
お母さん!》《お母さん。
助けてくれたの?守ってくれたの?この子を》お母さん。
(愛美)夢見てたんだね。
お母さんの。
愛美。
おめでとうお姉さん。
赤ちゃんは?フフッ。
保育器の中ですやすや寝てる。
元気だよ。
お母さん喜んでくれるかな?私が母親になったこと。
よかったって思ってくれるかな?当たり前じゃん。
なれたんだ母親に。
とうとうママになったんだ。
そうだ愛美。
さっきの男は?ああ。
うん。
(峻)赤ちゃんカワイイね。
うん。
うん。
(波津子)抱っこもさせてくれないで保育器にすぐ入れちゃうなんて。
瑞穂さん。
誰か瑞穂さん呼んできて。
おう。
弘明。
(弘明)一時的な仮死状態だったんです。
それに帝王切開の場合新生児一過性多呼吸に陥りやすい。
しばらく保育器で経過を見ます。
(波津子)そうなの?大丈夫なの?
(弘明)念のための処置です。
心配ありません。
兄さんは?うん?具合はどうですか?まったくもって面目ない。
何で僕って男はこう…。
(愛美)姉さん目が覚めました。
麻酔が切れてきたみたいでちょっと痛みがあるって。
(弘明)分かりました。
様子を見ましょう。
(波津子)ご苦労さま。
(波津子)あなたも早くいらっしゃい。
いやでも聖美に合わせる顔が…。
(波津子)夫として大仕事を終えた妻をねぎらってあげなくちゃ。
早くもう。
はい。
(愛美)峻。
(弘明)痛みの方はどうですか?これぐらいだったら何とか。
(弘明)あまり痛かったら言ってください。
痛み止めを出しますから。
聖美。
ごめんね。
ちゃんと見守ってやれなくて。
いや。
励まさなきゃって何とか気合を入れようとしたんだけど。
もう気付いたら目の前が真っ暗になっちゃってさ。
何の話?この人ったら手術に立ち会うつもりだったのに見てるうちに貧血起こしちゃったのよ。
立ち会いを?知らなかったの?だってそれどころじゃなかったから。
僕は君がさぞがっくりきてるだろうって。
何だ。
もう。
だったら黙っときゃよかった。
フフフ…。
ヘヘヘ…。
笑うと痛い。
ああ。
ごめんごめんごめん…。
ああー。
どう?ママになった気分は。
やっぱり私は半人前。
つくづくそう思ってます。
半人前?自分で妊娠する力もない。
おまけに肝心な出産まで弘明さんに頼って任せっきり。
自力で産んであげられなくて赤ちゃんに申し訳なくて。
(波津子)あなたのせいじゃないわよ聖美さん。
あの男のせいよ。
あの男があんな騒ぎさえ起こさなかったらあなただっておなかなんか切らずに普通に出産できたでしょうに。
(弘明)どうでしょうね。
その辺りの因果関係は。
(波津子)関係ないっていうの?精神的なショックが引き金になることはあったとしてもそれ以前に早期胎盤剥離が進行していたんだと思います。
じゃああなたの管理に問題があったってことじゃない。
いや。
それは弘明さんじゃなくてあの私自身…。
(弘明)どれほどきちんと管理をしていてもこういうことが起きてしまう。
だから出産は侮れない。
神秘に満ちてるんです。
あれ?そういえば峻君と愛美さんは?
(波津子)顔向けできないんでしょ。
あんた。
災いの種をまいたのはあの人なんだから。
ったく恐ろしいわよね。
あんな男と夫婦同然に暮らしてたなんて。
まあ峻ちゃんのこともあるしまあ今まで大目に見てきたけどもう一度考え直した方がいいかもしれないわね。
あの人との付き合い方を。
(峻)ママ。
(愛美)早く食べちゃって。
片付かないから。
(峻)また来る?
(愛美)えっ?
(峻)さっきの怖いおじさん。
僕のお父さんなの?峻。
ここから逃げよう。
あんたをあの男に二度と会わせたくない。
(峻)どこ行くの?
(愛美)どこだっていい。
あいつに見つからないところだったらどこだって。
もう赤ちゃんに会えないの?伯父ちゃんや伯母ちゃんやおばあちゃんにも?
(愛美)峻。
(峻)ママ。
(瑞穂)はい。
(瑞穂)ママですよ。
(瑞穂)おっぱいあげてみてください。
すごい。
こんなに力いっぱい。
柳沢陽?
(瑞穂)実は先ほど大奥さまが。
・
(波津子)気に入ってもらえたかしら?
(波津子)柳沢陽。
いい名前でしょ。
そんな勝手な。
だって赤ちゃんの名前繁郎さんともまだ相談してないんですよ。
(波津子)繁郎には今話をしてきました。
異論はないそうです。
この子は柳沢家の太陽。
「陽」という字にはあなたと同じ「清い」という意味もあるんですよ。
さんさんと降り注ぐ日の光を浴びて清く健やかに育つように。
私たち家族を明るく照らしてくれるように。
・母さん。
母さん。
やっぱりまずいんじゃないかなその名前。
(波津子)何ですかいまさら。
よく考えたらさその字に炎を付けたらかげろうになっちゃう。
(瑞穂)あっ。
ホント。
(波津子)何が悪いの?だって影の薄いかげろう院長の息子だからそこから取ったんじゃないかなんてまた口さがないナースたちがさ。
かげろうは暖かな春の象徴。
くだらないことを気にするんじゃありません。
(瑞穂)でも若奥さまのお気持ちは。
あのうやっぱり赤ちゃんの名前はお母さんが納得されないと。
気に入りました。
柳沢陽。
太陽の子。
気に入りました私。
いい名前を付けていただきました。
ありがとうございます。
フッ。
(波津子)お幕。
幕の向こうに輝かしい未来が待っている。
(波津子)柳沢陽の人生の幕が今揚がったの。
・
(陽)お幕!ママ。
おなか減った。
玄関から入りなさいっていつも言ってるでしょ。
(陽)病院のロビー通った方が早いもん。
どこ行ってたの?お隣でね子犬見せてもらったの。
生まれたばかりでねまだこんなにちっちゃいの。
あっそう。
ケーキちょうだい。
まだ駄目よ。
あなたのお入学のお祝いに後でみんなで食べるんだから。
ちょっとだけ。
駄目。
あっ。
もう。
陽ったら手も洗わないで。
ママのケーキ世界で一番おいしいね。
ほら見て。
クリームたっぷり。
食べちゃ駄目よ。
フフッ。
お母さん。
今まで陽を守ってくれてありがとう。
あしたはいよいよ小学校の入学式。
これからもずっとずっと…。
(佳代子)「これは母さんのあなたのために流す母の涙です」
(佳代子)「これからあなたがどんな人生を送るのか母は涙と共にずっとずっと見守り続けます」とうとう来なかったわね。
弘明さん。
ケーキだけでも届けてあげようかしら。
(陽)叔父ちゃんにお部屋見せてあげたかったのにな。
ハハハ…。
見たらびっくりするだろうな。
ずっとほこりかぶってたあいつの部屋。
ぴっかぴかの子供部屋にリニューアルされちゃって。
せっかく遠慮してくれたんだからほっときゃいいじゃないの。
今夜ぐらいは家族水入らずでお祝いしたいわ。
婦長だって家族同然なんでしょ?何で呼ばなかったんです?本当の家族はこの4人です。
私に繁郎に聖美さんに陽。
この4人だけが本当の本物の柳沢家の家族。
やっぱりいいわよね。
混じりっ気なしの一家だんらんは。
ああ。
あれからもうすぐ7年。
こんなに小ちゃかった赤ちゃんがこんなに大きくなっちゃって。
(陽)これ全部僕?
(波津子)そうよ。
ほら聖美さん。
(波津子)見て。
この陽のこの顔。
ああー。
やっぱりこれがすごいよね。
去年はとうとう念願かなって孫と初共演しちゃいましたからね。
私泣いちゃいました。
この主人公のお母さんがあんまりかわいそうで。
(陽)僕死んじゃったんだよね。
うん。
上手だったな。
お墓から出てくるお化けちゃんの役。
・
(謡・演奏)
(波津子)母親が子供を捜して歩く狂女物はたいていハッピーエンドで終わんのにこの曲だけは別。
ようやく見つけたと思ったらわが子はとっくに死んでたなんて。
これを見て心揺さぶられない人はいないでしょ。
(陽)何してんの?
(波津子)うん?これはね陽がまだ生まれる前。
ママのおなかにいるあなたにおばあちゃんが謡を聞かせてるの。
うん。
(陽)これ誰?峻君だよ。
お前のいとこ。
(陽)いとこ?うん。
ママの妹の子供。
(波津子)繁郎。
あの人たちのことは。
(波津子)陽はケーキはいらないのかしら?おばあちゃん全部食べちゃいますよ。
(陽)あっ。
駄目。
(波津子)うん?あら。
ハァー。
ホントに一人で寝るの?
(陽)うん。
大丈夫なのかな?ずっとパパとママと一緒だったのに。
ママ。
うん?これ。
ああ。
きっとパパと弘明叔父ちゃんが小さいときに背比べして付けたのね。
僕もやりたいな。
背比べ。
峻君って子は僕よりずっと大きいの?あっ。
そうね。
じゃあ弟が欲しい。
妹でもいいや。
ねえママ。
あしたから学校に行くんだもの。
お友達といくらでも比べっこできるじゃない。
うん。
さっ。
ベッドに入りなさい。
はい。
ママ。
さみしい?うん?僕がいなくてさみしいならここで寝てってもいいよ。
さみしいけど陽が決めたんだからママも頑張ってみる。
おやすみ。
陽。
おやすみなさい。
おっ。
寝た?あっという間に大きくなっちゃうのね子供って。
ああ。
峻君も大きくなったろうな。
愛美さんと峻君あれっきり姿を消しちゃって。
捜してほしかったのかもしれない。
あの人のことだから。
だから引っ越すときこんなはがき送ってきたのかも。
でも捜さなかった。
心のどこかで愛美と疎遠になれてほっとしてる自分がいる。
冷たい姉さんよね。
僕だって同罪だよ。
怖くなる。
自分たちばっかりこんなに幸せでいいのかって。
いつか罰が当たるんじゃないかって。
あしたは新しいスーツでばっちり決めて陽に言わせるんだろ。
お母さんたちの中でママが一番奇麗だって。
今の僕たちは陽の幸せだけを考えていればいいんだよ。
なっ。
うん。
(荒い息)ママ。
ママ。
(荒い息)ママ。
ママ。
2014/04/15(火) 13:30〜14:00
関西テレビ1
聖母・聖美物語 #11[字][デ]【幸せの先に忍びよる闇】
聖美(東風万智子)は念願の男の子を出産。姑・波津子(丘みつ子)も跡取りができたと喜ぶ。7年後、その息子が原因不明の高熱にうなされ、検査の結果、白血病とわかる…
詳細情報
番組内容
聖美(東風万智子)は、愛美(三輪ひとみ)と内縁関係の夫のトラブルに巻き込まれ流産の危機に。帝王切開での出産が決まり、聖美は手術室に運ばれる。懸命に聖美を励ます繁郎(原田龍二)だったが、出産現場のあまりの壮絶さに気を失ってしまう。
夫の失態に気づくことなく、ついに聖美が出産する。ところが生まれたばかりの子は呼吸をしておらず、弘明(金子昇)を慌てさせる。
番組内容2
しかし、蘇生措置のおかげで息をし始めた赤子は元気な産声を上げる。それは聖美が母になった瞬間だった。
生まれたのが男の子だったことで波津子(丘みつ子)も、「跡取りが出来た」と満足の笑みを浮かべる。一方、愛美は出現した内縁関係の男から逃れるため峻(大硲真陽)と姿を消すことを決意。それから7年の月日が流れて…。
出演者
柳沢聖美:東風万智子
森尾愛美:三輪ひとみ
柳沢繁郎:原田龍二
柳沢弘明:金子昇
柳沢波津子:丘みつ子
星川真輔:風間トオル ほか
スタッフ
企画:横田誠(東海テレビ)
原作・脚本:いずみ玲演
演出:藤木靖之
プロデュース:西本淳一(東海テレビ)
中頭千廣(TSP)
神戸將光(TSP)
齋藤頼照(TSP)
音楽:辻陽
主題歌:「炎の花」ハルカ ハミングバード(ユニバーサル ミュージック)
制作著作:TSP
制作:東海テレビ
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ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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