NHKスペシャル「北朝鮮 権力とカネの謎」 2014.04.13

絶叫マシンに興じる人々。
北朝鮮の首都…新しくオープンした遊園地です。
今北朝鮮では大型娯楽施設の建設が相次いでいます。
利用できるのは主に朝鮮労働党や軍の幹部。
そしてその家族です。
建設を推し進めているのが…去年自らの後見役だったおじを粛清したキム・ジョンウン第1書記。
今月指導部の新たな人事を決め権力の基盤を固めようとしています。
相次ぐ経済制裁を受けて国際社会から孤立する北朝鮮。
厳しい財政状況が続く中なぜ独裁体制を維持する事ができるのか。
私たちはかつて北朝鮮の権力の中枢にいた元高官や関係者を取材。
その内実に迫りました。
理解できないでしょう。
裏の経済とは一体何か。
世界各地での取材から見えてきたのは最高指導者だけが自由にできる秘密の資金の存在でした。
体制を維持するための巨額の資金はどのように生み出されどう使われているのか。
北朝鮮の権力とカネの謎を追いました。
キム・ジョンウン体制が始まって2年余り。
ピョンヤンの街は今その姿を大きく変えています。
中心部に完成した高層マンション。
住んでいるのは国のために功績をあげたとされる人たちです。
この夫婦は優秀な労働者として表彰されました。
入居を始めた時キム第1書記が夫人を伴ってこの家を訪れていました。
その時の様子を伝える朝鮮中央テレビの映像です。
住宅や高級品などを次々と与えて忠誠を誓わせる北朝鮮特有の…一般の国民から党や軍の幹部まで幅広く行われています。
プレゼント政治の実態を知る北朝鮮の元幹部が亡命し韓国・ソウルにいます。
1990年代半ばまで北朝鮮で最高指導者直属の機関に勤めていました。
幹部たちの心をつかむのがプレゼント政治の目的です。
最高指導者が自分を認めてくれたと感激で胸が詰まり自然と忠誠心がわき起こります。
最高指導者のためなら死ねるとまで思わせるのがねらいです。
プレゼント政治を始めたのはキム・ジョンイル総書記でした。
1970年代前半キム・イルソン主席の後継者として台頭。
自分に従う者には高級なプレゼントを与える一方で敵対する者は徹底的に排除する。
こうしたアメとムチによる統治で権力基盤を固めていきました。
カン氏が北朝鮮で勤めていた機関にはプレゼントを調達して配る専門の部署があり世界中から高級な品々を集めていたといいます。
新年や最高指導者の誕生日の前は大忙しでした。
ドイツオーストリアそして中国の広東省更にマカオ。
そこに担当者を派遣して幹部たちへのプレゼントを調達していました。
プレゼントを調達する拠点の一つ…かつて調達役をしていたという男性が取材に応じました。
北朝鮮の幹部が使う高級車の管理をしていました。
20年にわたって度々ヨーロッパに送り込まれ高級品を買い集めていたといいます。
幹部のランクによってプレゼントの種類も価格も異なっていました。
何を買うのか。
調達リストを渡され事細かく指示されていました。
キム総書記のプレゼント政治は次第にエスカレートしていったといいます。
贈り物の質が落ちたり途絶えたりすれば部下たちの忠誠心が揺らぐおそれがあるからです。
前よりもっとよいもの更によいものをあげないとむしろ逆効果になるおそれがあります。
だからジョンイル氏はプレゼント政治に全力を傾けました。
この統治手法を引き継いだキム・ジョンウン第1書記。
物を贈るだけでなく幹部たちが楽しめる娯楽施設まで造るようになったのです。
複数の関係者によるとプレゼント政治に使われる資金は父親の頃のおよそ2倍。
年間6億ドルに上ると見られています。
ジョンウン氏は権力基盤が弱いためプレゼントをより多く配らなければなりません。
少なくなれば父より劣っていると言われるでしょう。
なぜ巨額の資金を思いのままに操る事ができるのか。
そこには北朝鮮ならではの仕組みがあるといいます。
北朝鮮の金融部門の幹部だった…韓国に亡命したあと北朝鮮経済に関する第一人者として知られています。
北朝鮮には二重の経済構造があるといいます。
国民のための経済である人民経済と最高指導者が自由に動かせる宮廷経済です。
国の金庫とは別に最高指導者が自分個人の経済をつくって管理しているのです。
北朝鮮のキム王朝を支えている核心がこの宮廷経済なのです。
2つの経済の一つ人民経済は社会主義本来の経済システムです。
党や内閣が立てた計画に基づき国民が生産を行いその見返りに物資などの配給を行う仕組みです。
配給制度は人民経済の根幹をなしていました。
国が人々の食料や生活必需品を全て保障していたのです。
しかしキム・ジョンイル総書記は権力の基盤を作るため国の財源を私物化するようになったといいます。
これが宮廷経済の始まりでした。
最高指導者が党の決定を受けずに自由に使える金を吸い上げるようになったのです。
その金はプレゼント政治とともに核やミサイルなどの軍事開発にも充てられました。
人民経済を犠牲にしながら拡大を続けた宮廷経済。
その規模は全体の6割以上に上ると見られています。
その一方で国民の多くは貧しい生活を強いられました。
1990年代国民生活を支えていた配給制度は事実上崩壊。
自然災害も重なり大勢の人々が餓死しました。
宮廷経済はキム王朝を維持させる栄養分です。
宮廷経済は人民経済にストローを差し込み吸って食べる寄生虫です。
社会主義に反するがんのような存在です。
宮廷経済を支える巨額の資金はどのように集められているのか。
取材を進めると資金を集める専門の組織がある事が分かりました。
北朝鮮の元幹部がその組織の場所を明かしました。
それはピョンヤンの中心部にありました。
宮廷経済を支えてきた中核の組織です。
複数の関係者によると39号室の傘下には貿易会社や鉱山牧場や農場までさまざまな事業体があります。
稼いだ外貨は国家予算とは別に最高指導者のもとへ直接流れる仕組みです。
元幹部によると外貨は39号室の近くにある党の中央庁舎の金庫に納められているといいます。
39号室を通して集めた外貨はどれほどに上るのか。
はっきりとした額は分かりませんが年間数十億ドルとされる外貨収入の半分を超えると見られています。
(飛行機内のアナウンス)宮廷経済を支える巨額の外貨。
資金集めの拠点の一つとされる中国・マカオでその実態を探る事にしました。
マカオは金融機関への規制が少なく世界中から合法非合法のマネーが集まってきます。
最近までマカオで活動していた北朝鮮の元高官が身元を明かさない事を条件に取材に応じました。
元高官がある場所へ案内しました。
ここで外貨の大きな収入源である武器を取り引きするため各国の軍関係者に接触していたといいます。
武器の輸出先はベトナムミャンマーなどのアジア。
イランシリアをはじめとした中東。
更にはアフリカ諸国にまで広がっていたといいます。
最高の機密とされる武器取り引きの実態はどのようなものなのか。
実際現場に立ち会った軍の元高官がその詳細を語りました。
輸送の際にも偽装工作を行っていたといいます。
北朝鮮の大きな資金源となってきた武器取り引き。
それによって得られた外貨は多い時で年間10億ドルに上っていたと見られています。
国際社会は今北朝鮮の資金源を断とうと動き出しています。
国連の要請を受け武器取り引きを監視してきた…24時間体制で北朝鮮の船と飛行機の動きを追っています。
衛星から送られてくる位置情報と申告された目的地などのデータを照合。
不審な動きがないか目を光らせています。
監視が強まる中各地で摘発が相次いでいます。
去年7月パナマ運河で北朝鮮の貨物船から大量の武器が押収されました。
山積みされた砂糖の下に隠されていたのは戦闘機と分解されたミサイルでした。
更に国際社会は北朝鮮の資金の流れも断とうとしています。
その最初のターゲットとなったのが中国・マカオにある小さな銀行…北朝鮮がこの銀行に持つ口座をアメリカが凍結したのです。
北朝鮮はBDAを通じて世界中の取り引き先と決済を行っていました。
口座の凍結によって北朝鮮は外国との取り引きも国への送金もできなくなったのです。
口座の凍結をきっかけに欧米や香港シンガポールなどの銀行は北朝鮮との取り引きを一切やめました。
当時アメリカ国務省で金融制裁に携わった…BDAの口座を徹底的に調べ上げたといいます。
北朝鮮はBDAを通して世界中の銀行とつながっていました。
私たちはキム王朝に欠かせない財布の口を塞ぎ金の流れを断ち切るぞというメッセージを送ったのです。
今北朝鮮はどのような手段で外貨を獲得しようとしているのか。
マカオで外貨集めを担当していた元高官です。
経済制裁のあとも北朝鮮はここで活動を続けているといいます。
元高官は武器取り引きに使っていた事務所とは別の場所に案内しました。
小さな商店が並んだ一角。
ここで取り引きをしているのは金だといいます。
埋蔵量が世界有数の北朝鮮は武器の取り引きが難しくなる中金などの鉱物資源で外貨を得ようとしていたのです。
金の取り引きは常に現金で行われるといいます。
銀行の口座を介さないため取り引きの痕跡が残りません。
(取材者)全部キャッシュですか!?更に金を運び出す時不正な手段が使われていました。
タイの北朝鮮大使館に勤務していた…荷物の検査を受けない外交官の特権を利用して金を運ぶよう命じられていたといいます。
外交官のパスポートを利用して税関を通らず密輸します。
北朝鮮のほとんどの大使館で外交官はこうした不法な仕事をします。
外貨獲得をねらう北朝鮮と国際社会の攻防。
水面下のせめぎ合いが続いています。
(拍手と歓声)権力を守るためさまざまな手段で外貨を集めようとする…しかし宮廷経済を維持する事は次第に難しくなっていると見られています。
今北朝鮮である異変が起きていると指摘する研究者がいます。
1990年代に亡命した…10年以上北朝鮮の権力機構を研究してきました。
最近のキム第1書記の動静を詳しく分析。
するとプレゼントを贈る回数が減り感謝の言葉だけを与えるケースが増えている事が分かりました。
ジョンウン氏が各地を視察した動静の記録に「感謝を与えた」とあります。
これは言葉だけのプレゼントを意味します。
おととしより去年はこの言葉だけのプレゼントが大幅に増えました。
これは宮廷経済の資金が厳しくなっている事の表れではないかと思います。
(打ち上げ花火の音)権力の維持に欠かせない宮廷経済。
キム第1書記は新たな形での外貨獲得を迫られています。
その一翼を担うのが北朝鮮のプロパガンダ用の銅像などを制作してきた…最高指導者の銅像は全て彼らの手によるものです。
その技術を使い今世界各地で銅像の建設事業に乗り出しています。
その活動は北朝鮮から1万3,000キロ離れたアフリカまで及んでいました。
セネガルの首都ダカール。
丘の上に巨大なブロンズ像が立っています。
手がけたのはマンスデ創作舎。
高さは自由の女神より高い50メートル。
総工費はおよそ2,500万ドルです。
北朝鮮の60人の職人が2年以上をかけて建設しました。
一緒に働いた地元の作業員です。
北朝鮮側の指示で作業にあたったといいます。
総工費2,500万ドルのうち半分が北朝鮮側に支払われたと伝えられています。
アフリカ南部のナミビアでも先月新たな銅像が完成しました。
これも北朝鮮が造ったものです。
除幕式にはキム・イルソン主席のバッジをつけた北朝鮮側の関係者も出席していました。
北朝鮮がこれまでに造った銅像などの建造物はアフリカだけで30近くに上ります。
外貨獲得の更なる手段が人海戦術。
一般の国民まで動員し海外に送り出すようになっています。
モンゴルの首都ウランバートル。
先月半ばマンションの建設現場に50人を超える北朝鮮の労働者の姿がありました。
厳しい寒さの中黙々と作業する労働者。
常に北朝鮮当局の人間が監視していました。
モンゴルの建設会社の社長です。
月給として支払うのは…しかしほとんどが北朝鮮当局に渡っているといいます。
北朝鮮の女性たちもモンゴルの縫製工場で働いていました。
これまで海外の情報に触れないように国民の移動を厳しく制限してきた北朝鮮。
その原則を崩してまで次々と労働者を派遣していました。
今やその数は世界中で10万人に上るとも見られています。
外貨稼ぎに懸命な北朝鮮。
それでも宮廷経済を維持するための資金は十分ではないと見られています。
限られた資金を巡る争いは最高指導部の権力闘争にまで発展しました。
去年12月に起きた事実上のナンバー2チャン・ソンテク氏の粛清です。
キム第1書記のおじだったチャン氏。
後見役として経済の立て直しを託されていました。
2人の間に一体何が起きたのか。
キム・ジョンウン体制が正式に発足した2012年。
中国を訪問したチャン氏を迎えたのは当時の胡錦涛国家主席でした。
キム第1書記がチャン氏に期待したのは中国との太いパイプを生かした外貨の獲得です。
チャン氏が進めようとしていたのは中国のような改革・開放路線。
その象徴が…経済特区に造られたのは中国資本の大型ショッピングセンター。
そしてカジノを併設したホテル。
チャン氏は中国企業を呼び込み外貨を集めようとしたのです。
チャン氏を通して北朝鮮と取り引きをしていた中国の貿易商です。
北朝鮮の幹部の間でキム第1書記よりチャン氏になびく空気が広がるのを感じていました。
チャン氏のもとには次第に多くの利権が集中していきました。
チャン氏は党の行政部という部署のトップを務めていました。
これまで39号室を通してキム第1書記に上納されてきた外貨。
それを生み出す鉱山や貿易会社などの利権がチャン氏の行政部に次々と移っていったのです。
その結果外貨は一旦チャン氏のもとに集まるようになりました。
外貨がチャン氏に奪われるのではないか。
キム第1書記はそう感じるようになったと見られています。
キム第1書記の動静を分析してきたキム・スンチョル氏。
チャン氏は集まった利権をもとに権勢を振るうようになったと見ています。
チャン氏は利権を思うがままにし始めました。
それがキム第1書記の資金が不足した事と重なり粛清されたのだと思います。
結局誰がカネを握るかの争いになったのです。
チャン氏は経済問題の全ての責任を負わされ死刑になりました。
チャン氏が利権を思うがままにしたという見方に疑問を投げかける専門家もいます。
北朝鮮経済に詳しいキム・グァンジン氏はチャン氏は集まった資金をもとに経済の仕組みを正常化させようとしていたと見ています。
北朝鮮は指導者自らが人民のための経済を揺るがしてきました。
チャン氏が目指したのは人民が豊かに暮らせる社会です。
外貨を使って経済を立て直そうとしたのだと思います。
チャン氏の本当のねらいは何だったのか。
真相は分かっていません。
チャン氏を粛清したキム第1書記。
結果として中国との関係を悪化させ外貨獲得の道を狭める事になったのです。
北朝鮮にまた新たな娯楽施設がオープンしました。
大規模なスキーリゾート。
権力を維持するために続くキム第1書記のプレゼント政治。
しかし施設の建設費がかさみ資金の状況は一層厳しくなっていると見られています。
先月1年4か月ぶりに再開された日朝の政府間協議。
拉致問題をカードに日本から経済制裁の緩和を引き出そうという思惑があると見られています。
北朝鮮はどこへ向かうのか。
キム・ジョンウン体制は外貨の量が減り続ける中での統治を迫られています。
そのため軍や党の幹部たちが小さいパイを争い徐々に権力が不安定になるでしょう。
国際社会は北朝鮮の人民を苦しめる宮廷経済の資金を減らさなければなりません。
一刻も早く対処しなければなりません。
国際社会が努力しなければならないのです。
40年にわたって北朝鮮の権力を支えてきた宮廷経済。
その資金が減る中北朝鮮は国際社会に歩み寄るのか。
それとも挑発的な姿勢を取り続けるのか。
その行方に世界の目が注がれています。
2014/04/13(日) 21:00〜21:50
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル「北朝鮮 権力とカネの謎」[字]

世界に衝撃を与えた北朝鮮でのチャン・ソンテク氏の粛清。背景には、最高指導部が権力を維持するための資金、統治資金を巡る争いがあった。北朝鮮の統治資金の実態を追う。

詳細情報
番組内容
世界に衝撃を与えた北朝鮮でのチャン・ソンテク氏の粛清。背景には、最高指導部が権力を維持するための資金、統治資金を巡る激しい争いがあった。統治資金は、北朝鮮が世界中で手がける外貨獲得ビジネスで生み出される。指導者はその資金で外国製の高級車や時計などのぜいたく品を調達して、部下にプレゼントとして贈る。忠誠心の維持のために欠かせないシステムとなっている。世界各地を取材し、北朝鮮の統治資金の実態を追う。

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