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Knight's & Magic 作者:天酒之瓢

第1章 転生、そして学園生活編

#7 その武器の名は

 入学式の次の日には授業が始まった。
 そうするとエル達3人の生活も学園を中心としたものになってゆく。

 騎士学科の授業内容は大きく分けると一般教養と初級騎士課程の二つに分かれる。
 一般教養はほぼ全学科に共通で、騎士課程ではまずは魔法の知識・魔力の強化と剣術の習熟が重点的に行われる。

 魔法は難易度や威力により、おおまかに初級魔法コモン・スペル中級魔法ミドル・スペル上級魔法ハイ・スペルに分類される。
 基礎式アーキテクトの行使からその規模拡大・連続使用や基礎式の複数同時使用までが初級魔法に分類され、フレメヴィーラ王国の国民は最低でも初級魔法以上は習得している。
 中級魔法からは、単純な拡大でも一定以上の威力を持つもの、複数属性の組み合わせ魔法の行使、そして基本的な強化制御魔法の行使がその範囲になる。
 戦闘職を目指すのではなく、一般的な職業につくものは中級魔法をある程度習得していることが多い。
 保有する魔力と相談すると、ある程度の威力の中級魔法の使用が限度になるからである。

 騎士学科以外の学科では初等部から中等部の間に中級魔法までを習得することを目的とする。
 一定以上の中級魔法や上級魔法まで習得するのは騎士学科――つまり戦闘職のみだ。
 上級魔法は身体強化に代表される多数強化制御、複数属性魔法の上位版などどちらかというと強力だが扱いの難しい魔法が分類される。
 上級魔法になると、単純にその制御能力のみならず膨大な必要魔力を支える保有魔力の問題が大きくなる。
 エルの例もあるが、魔力を増やすには日々の地道なトレーニングが必要になる。
 長期間、十分に魔力のトレーニングを行えるのが騎士学科の特色ともいえた。

 
 授業内容は勿論最初は初歩的な内容が主になるのだが、3人は魔法と剣術については以前から修練を積んでいるため、いまさら初歩を教わったところで意味がない。
 エル達以外にも、例えば貴族の子弟には家庭教師をつけ事前に魔法や剣術、場合によってはそれ以外の知識も学んでいることが多々あるので全員一律の授業とはしていない。
 最初のクラス分けで全く経験の無いものは一般クラスとなり、ある程度の経験者は上級クラスとなる。
 入学前に魔法や剣術の教育を受けられるものというのは、当然それなりに裕福な家庭の者になる。
 そのため必然的に上級クラスには貴族や商人の子供が多く、どこか言い知れぬ緊張感のようなものも感じられるのだった。

 魔術の授業では、最初に各自に魔法を使う為の道具が配られる。
 それは木製の杖で、銀の簡単な装飾が施され先端部分に触媒結晶が装着されている。
 元々魔術を習っていたものは個別に持っていることも多いが、入学時には一律で配布されるのが常だった。
 騎士であっても魔法を使うときは杖をつかうため、杖の扱いに慣れておくことは重要だ。
 それを見ていた一人の生徒が手を上げる。

「先生、この杖なんですが、他の物……例えば剣に触媒結晶をつけた物では駄目なのですか?」

 教師は良い質問です、と頷いた後説明を始める。

「そうですね、それには魔力と金属の関係について知る必要が有ります。
 金属には、魔力をそのまま通すことができる性質があります。逆に木等は魔力を通さない。
 皆さんの杖は素材は木ですが、表面に銀で装飾がありますね? それは魔力を通し触媒結晶に伝える為のものです」

 教師は手に持つ杖を軽く振りながら説明を続ける。

「金属と言っても一律に魔力を伝えるわけではなくて、種類によって通しやすさが違います。
 例えば銀は魔力を非常に良く通しますが、逆に鉄や鋼は魔力をやや通しにくい。
 通常の鉄製の剣に触媒結晶を装着するのは、ロスが大きく奨められないんですね。
 逆に全部銀で武器を作ると恐ろしく高価になってしまいます」
「でも、それならこの杖と同じように魔力の部分だけ銀で伝えればいいのでは?」

 説明を聞いていた生徒の一人が挙手し、質問する。
 丁度聞いて欲しかった質問を受けた教師がにこやかに説明を続けた。

「いい着眼点です。しかしここで重要なのは剣と言うのは消耗品であるということです。
 魔獣には強靭な皮を持つ物も多い、何回か戦えば剣は直ぐに駄目になってしまいます。
 そこで新しい剣を用意するのですが……毎回銀を施していたのでは余計な手間がかかってしまいます。
 平時ならともかくもし戦いが続くとこれは思ったより厄介な事なのですよ」
「それで、魔法は専用の杖を用意するのですか」
「その通りです。長年の内に今の形に落ち着いたのですね」

 教師の説明を聞きながらエルは考える。

「(まぁそら剣と合わせてもいられんか。でもなぁ、前から思ってたんやけど杖って扱いにくいんやなぁ。
 なんとかこう、杖をもっと使いやすくするか、剣とかに合わせられへんやろか)」

 先ほどの説明を聞く限り、重要なのは触媒結晶とそれに魔力を伝える銀の導線。
 そして近接武器は容易に交換できるものが望ましい。

「(杖っちゅーか、これ要するにさ、射撃武器なんよな。魔法飛ばすための。
 扱い易い射撃武器っちゅーたら……銃やん。そうや、拳銃みたいなの作ればいいんじゃね?
 そしたら撃ちやすいし、何よりわかりやすい。何で今まで思いつかんかってんやろ)」

 そしてエルの思考は授業から大きく飛翔を始めた。

「(特注品になりそうやけど本物の銃と違って複雑な機構はいらないし、ガワだけなら何とかなるんとちゃうか。
 あれ? ちょい待って? 銃? 剣? ……銃剣? あ)」

 思いついたエルは猛烈な勢いでデザインを考える。
 銃剣――つまり魔法を発射する銃を模した部分と、それに装着する小剣とに分ければ良いのではないか?
 ただし、本来銃剣自体はがっちりと斬りあう事など想定しているものではないので、構造は一工夫必要だろう。
 最初はハンドガンに銃剣を装着するようなイメージで考えていたが、どうも色々としっくりこない。
 そもそも銃としての機能が要らないのだからやはり剣に沿う形のほうが……。
 そこで、彼の脳裏に閃くものがあった。
 前世で彼が大好きだった銃。
 きわめて完成度の高いレバーアクション機構と流麗なフォルムを持つライフル。
 “ウィンチェスターM1894”
 彼が所有していたのはそのショートバレルタイプのエアガンだが。
 あれの弾倉部分を剣と考えて、バレル部分の長さを変えてデザインすれば……。

 

 放課後、魔法の授業そっちのけで書き上げた怪しい図面を手にエルは鍛冶学科を訪れた。
 探しているのはバトソンだ。それ以外に鍛冶に縁のある知人は居ない。
 一度挨拶しただけの縁ではあるが、彼はドワーフである。
 彼自身に作ってもらうか、場合によっては親に頼んでもらう事はできないだろうか、エルはそんなことを考えていた。

 
 ドワーフ族であるバトソンを探して訪れてきた見目麗しき少年に、周囲は何事かと囁きあう。
 当のバトソンは悪目立ちすることにため息を隠せない様子だったが、訪れてきた知人を無碍にすることはしないようだった。

「いきなりどうしたんだ? 鍛冶学科までくるとは」
「突然すいません。武器を特注で作りたいのですが、その、他に鍛冶に縁のある知人がいないものでして」
「ああ、それで俺に相談か。で、ものは何だ?」
「それは、この図面を見てもらいたいのですが」

 図面を見たバトソンの表情が見る見る訝しげなものになる。

「エルネスティ、これは……なんだ?」
「ウィンチェスターライフルです」
「聞いたことのない名前の武器だな、それにややこしい形をしてる……作るのは良いが、もう少し具体的な説明をしてもらうぞ」
「お願いできますか? ああ、勿論費用はお支払しますので、どれくらい掛かるかは見ておいてくださいね」

 エルはほっとすると共に、同時にバトソンの鍛冶の腕を見る良い機会だとも思った。

 

 数日後、バトソンから連絡を受け彼の家を訪れたエルの目の前には、エルがデザインした怪しい武器が形になって存在していた。
 ライフルのストックをイメージした、やや下へ向かって湾曲する持ち手に、本来鍔のある部分は奇妙な構造になっていた。
 そこには、上半分はグリップから伸びた銀のフレームに触媒結晶が装着されている。
 下半分はそこから伸びるショートソードの留め金になっており、刀身部分だけ交換可能となっていた。
 ショートソードは一般的な量産品を流用可能になっている。

 ドワーフ族の技術はエルの指定した構造をキッチリと仕上げてくれたようだ。
 手にとって感触を確かめていたエルに訝しげにバトソンが声をかける。

「頼まれたとおりに仕上げたが……剣にしては随分とごちゃごちゃとしているんだな」
「剣と同時に魔法を撃ってみようかと思いまして」

 実演します、と言ってエルは2本の剣を持ち、鞘を身につけて裏手へでた。
 そこにある試し切りの的へ切っ先を向ける。
 通常の剣や杖と違い、銃床を模した持ち手は手に馴染み、重量感も懐かしさを感じる程だ。
 エルは徐に剣を水平に構え、魔法を発射する。
 基本術式を軽く数発。狙い過たず的の中心に当たる。
 そのまま走り出し、標的に斬りかかる。
 当てる直前に真空斬撃ソニックブレードの魔法を発動、衝撃波を発生させ丸太の標的を両断する。
 斬り飛ばされた上半分が地面に落ちる前にもう1本の剣を向け、今度は爆炎球の魔法を発射。
 上空で丸太が粉々になるのを見届けた。
 2本の剣を軽く振り、そのまま腰の鞘に収納する。
 にこにこと上機嫌なエルと対照的に、バトソンは呆れ気味だった。

「何て言うか、無茶苦茶だな。出鱈目もいいところだ」
「まぁそれはそれとしまして、素晴らしい出来栄えです。バトソンさん、貴方はいい鍛冶師になりますね」
「これでもドワーフの端くれでね。ま、御代はきっちりいただくが」

 バトソンから受け取った請求書を見たエルが首をかしげる。

「……思ったよりも安いのですけど。大丈夫ですか?」
「ああ、俺が練習がてら作ったものだからな。大半は材料費だ」
「色々とありがとうございます。他にも、思いついたらお願いしても良いですか?」
「場合によるし、俺の手におえるものならな」

 そのまま“ウィンチェスターⅠ&Ⅱ”と名づけられた2本の剣はエルの腰に後ろに伸ばすような形で装着され、以降どこに行くにも持ち歩かれることになる。
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