二重の住民登録認めよ 福島大教授・今井さん提唱
福島大教授の今井照さん(60)が著した「自治体再建 原発避難と『移動する村』」(ちくま新書)が学界で評判になっている。「『帰還』でも『移住』でもない第3の道が、きっとある」。東日本大震災、福島第1原発事故から3年余り。フクシマと向き合い続けた行政学者の訴えに共感が広がっている。
復興庁が福島県飯舘村からの避難住民を対象に実施した昨年11月の意向調査では「戻りたい」21.3%、「戻らない」30.8%、「判断がつかない」36.1%だった。
今井さんのまなざしは「36.1%」の人々に注がれる。悩みに悩み、それでも答えを出せない人たちに、学問は何ができるのか。その答えが「二重の住民登録」を認めるという第3の道だった。
「住所は一つ」という常識を「フィクション」と断じ、「避難先でも避難元でも、まちづくりに参加する権利を避難住民に与えよう」「行政は、そのための法整備を」と論じる。
発想のヒントは、隣の研究室にあった。集落の成り立ちに詳しい同僚の准教授に教えを請うた。
江戸時代、干ばつや疫病で村が危機に陥ると、村民は集団で新天地に移住したという。こうした近世の「移動する村」と原発避難者の逆境を重ね合わせたとき、第3の道が見えた。
「『村』とは『人』であり、特定の『土地』を指す言葉ではなかった。そうであるなら、人の集合体である自治体も捉え直すことができるはずだ」
この3年、現地で聞き取り調査を続けてきた。浮かび上がったのは、国からの情報がない中、福島第1原発周辺の町村が自ら決断し、住民を避難させた事実だった。
「あの時、町村が行動を起こさなければ、もっとひどいことになっていた」と今井さん。「住民の命を必死で守った町や村を、その土地に帰れないという理由だけでなくしてはならない」
「二重の住民登録」を認めることに国や行政学界の権威は難色を示す。
だが、日本学術会議は昨年6月、制度設計の検討を提言。今井さんの主張が新たな学説として認められた瞬間だった。気鋭の研究者らも自治体再建研究会を結成し、「二重の住民登録」の実現を模索し始めている。
「原発事故に遭った町村の未来を決定できるのは、あの日、あの場所にいた人たちでなければならない」と今井さんは言う。それが、あの日、被災地の大学で、地方自治とは何かを教えていた者の務めと信じている。
2014年04月15日火曜日