脱法ドラッグ:軽い気持ちが依存症 職も家族も…体験者
毎日新聞 2014年04月15日 02時31分(最終更新 04月15日 08時26分)
脱法ドラッグの乱用が、覚醒剤に匹敵する深刻な健康被害につながる危険性が明らかになった。軽い気持ちで手を出して依存症に陥るケースが目立つ。「厳しい現実をつきつけられ、ようやく怖さが分かった」。脱法ドラッグの依存症で入院し、仕事と家庭を失った男性は、後悔の念にかられながら社会復帰に向けて治療を続けている。【江刺正嘉】
埼玉県伊奈町の県立精神医療センター(183床)は、依存症病棟(40床)を持つ全国でも数少ない専門病院の一つだ。大手外食チェーンで店長を務めていた男性(29)が、脱法ドラッグの乱用でここに入院したのは2012年の夏だった。
高校時代に興味本位で大麻に手を出し、乱用を始めた。大学を卒業して就職した後、知り合いから脱法ドラッグの一種の脱法ハーブを勧められた。「大麻と同じようにゆったりとした気分になれるし、何より捕まらないので安心」。そう感じて、はまった。
入社2年後に初めて店長を任された。店の切り盛りやアルバイトの管理でストレスがたまった。ハーブに加えて液状のリキッドも使い始め、みるみる量が増えた。店のトイレに隠れて頻繁に吸うようになると、仕事の能率が極端に落ち、半年で店長を首になった。
体のだるさを紛らわそうと吸い続けたが、体調は悪くなる一方だった。意識がもうろうとする状態で車を運転して物損事故を起こしたのを機に、4年間勤めた会社を辞めた。
それでも、乱用は止まらなかった。不安や焦りが募ってうつ状態に陥った。何の成分が入っているか全く分からないものを吸い、気絶して路上に倒れたこどが2度あった。自宅で暴れて部屋の壁を壊し、家族に暴力も振るった。
精神科のクリニックで処方された薬を大量に飲んで搬送され、薬物依存症と診断された。12年8月から2カ月間、同センターの依存症病棟に入院した。
乱用が原因で妻子とも別れた。一人息子になかなか会えないのがつらい。「大きい代償を払った。もう薬はやめたい」。現在も週1回通院し、依存症からの回復に効果があるとされる認知行動療法と呼ばれるプログラムに取り組みながら、再就職を目指している。