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Re:Monster――刺殺から始まる怪物転生記―― 作者:金斬 児狐

 第三章 迷宮商売 山海の幸を求めて編

~二百五十日目

注意、初の二話連続更新してます。

 天上より高速で飛来する、灼熱に包まれた巨大な隕石。
 かつて実在したとある小国を一夜にして焦土に変えた禁忌の質量系竜律魔法“灼愚魔隕石ラマ・ズー・ラマ”によって生成されたそれは、決戦場で竜翼腕の猛攻を防ぎ続けているアポ朗に向かって落下した。
 その威容は凄まじく、まるで太陽が落下してきたかの様であった。
 ただでさえ高熱に包まれている決戦場は、灼熱を纏う隕石の接近により温度が上昇し続ける。

 そして竜翼腕が巻き添えを避ける為に引っ込んだ瞬間、一切妨害される事なく隕石は決戦場に着弾した。
 強固である決戦場は一瞬にも満たない瞬間だけ海の様に波打ち、次いで撓み、そしてその衝撃に耐え切れず激しく荒々しい崩壊が始まった。

 まず弾けたのは閃光だ。目が眩むというレベルではなく、肉が焼けてしまいそうな熱光だ。
 そして竜の咆哮の数十倍はあるだろう、殺人的な轟音が響いた。物理的な破壊力を持ったそれは、音速の鉄槌だった。
 それに僅かに遅れ、衝撃が駆け抜ける。範囲内の生物をグチャグチャに掻き乱すだろう、桁違いの衝撃だ。
 それを追う様にして、砕けた決戦場と隕石の欠片が凄まじい速度で周囲に飛散する。大小無数にあるそれは、回避不可能な密度でもって閉塞された決戦場全域を穿った。
 そしてこの世のありとあらゆるモノを燃やし尽くすような灼熱が周囲に広がった。まるで粘液の様にベットリとした魔炎であるそれは、奇跡的に助かった者が居ても焼死させる為に激しく燃え上がる。

 その他にも溶岩が溢れ出すなど、隕石落下によって生じた破壊は多岐に及んだ。

「うーむ。
 ……また、ちとやり過ぎてしもうたかの?」

 本来なら崩壊する筈のない強固堅牢な決戦場をたった一つの竜律魔法を行使しただけで半壊させ、その破壊を近距離で浴びながらも竜鱗や竜殻により無傷でやり過ごした灼誕竜女帝は、キョロキョロと周囲を見回している。
 遠くを見渡し、近くを見透す事のできる黄金に輝く九個の竜眼は、しかし隕石の着弾地点に数瞬前まで確かに居たアポ朗の姿を発見できない。
 ただ、それは仕方のない事でもあった。

 アポ朗が居た地点を起点にして決戦場が半壊した事で足場そのものが無くなり、そこが溢れた溶岩によって飲み込まれてしまっている事に加え、轟々と立ち昇る噴煙と隕石や決戦場の微細な破片が中空に舞い散った事で、まるで濃霧に包まれたかの様に視界が悪化しているからだ。
 しかも魔力を帯びた微細な破片がチャフの様な効果を発揮している為、流石の竜眼もこんな状況ではその能力を十全には発揮できなかった。
 何かしらの動きがあれば違ったかもしれないが、今回はそれも無い為発見できない。

「うぬー……失敗してしもうたの。
 流石にあれは、やり過ぎたやもしれぬな。
 名前くらい、聞いておくべきだったかのー」

 流石の灼誕竜女帝も竜眼で確認できず、気配も感じないとなれば、アポ朗は死んだ、と判断するしかなかった。
 その表情は落胆に歪み――竜の表情は非常に分り難いが、声音からそう判断できる――やや項垂れている。
 長い長い時を経て、ようやくやって来た存在とまだまだ戦いたかったのだろう灼誕竜女帝は、名残惜しそうにアポ朗が居た、現在は溶岩によって飲み込まれてしまった場所を見つめ。
 偶然竜眼の一つが視界の隅に、動く影を捉えた。

「うぬ?
 ……何か――ッ!」 

 そちらに顔を向けた灼誕竜女帝の全身に、悪寒が走った。
 それはあまりにも鮮烈で、まるで背骨を引きずり出されて永久凍土に埋められたかの様だった。
 灼誕竜女帝はその原因が何であるかを理解するよりも早く、命の危険が迫っているのだと判断した本能に従って回避行動を行った。
 その巨体を支える四肢を折り曲げ、長く太い首が決戦場や溶岩表面に付着するくらいに低く伏せる。
 それでも家屋程度の高さがあるのだが、しかしその行動によって灼誕竜女帝は助かった。

「ッアッガ!」

 灼誕竜女帝がダンジョンボスとなり、初めての感覚が背面に生じた。
 それはまるで背面が激しく燃え上がるような熱感だ。
 本来ならば頸部を切断する筈だった致命的な剛閃を避けた代わりに、背面の竜翼腕が全て根元から両断された激痛がそう感じさせたのだ。

「な、何がッ!」

 大樹の切り株の様な切断面から、膨大な竜血が噴出する。
 巨大な灼誕竜女帝の全身を流れる血管は太く、その数も多い。隅々まで血液を循環させている心臓は非常に力強く拍動し、常時膨大な血量を送り出している。
 そして竜翼腕という、ある意味で四肢と同じ機能を有するそれ等が全て根元から斬られるという事は、四肢を切り落とされたのと同じだけのダメージを負った事になる。

 竜翼腕を流れる太い動静脈を纏めて切断された結果、決戦場に大量の竜血の雨が降った。

 竜やそれと対等に渡り合える種族でも無ければ即死するだろう竜血の雨は即座に蒸発する事がなく、周囲を赤く濡らしていく。
 そして危険極まる竜血を全身で受け止める存在が、灼誕竜女帝以外にただ一鬼だけ、決戦場には存在していた。

「――ぉぉぉおおお、うっまぁぁぁぁあああ」

 全身を濡らす竜血がまるで極上のワインであるかの様にジックリと堪能し、朱色の槍に付着した僅かな肉片を艶かしく舐めとって喰らう。
 まるで極上の食材と出会った時の様な恍惚に浸るその鬼は、その特徴的な銀腕からして、間違いなくアポ朗である。

 だが現在のアポ朗は、先程までとは大きく異なる姿となっていた。

「ふは、ふははははははッ!
 それが、それが本気か! 素晴らしい、素晴らしいぞ、その威圧! 我を獲物と見るその傲慢さッ!
 流石は偉大なる【大神】に選ばれし者、ここまで見事辿り着いた資格ある者よッ」

 灼誕竜女帝が見据える先にいるアポ朗は、それなりに大きいサイズの決戦場の残骸に立っている。
 そして銀色の左腕を除いた全身が、余すとこなく黒と赤と金が混ざった独特の色合いをした鬼珠オーブによって覆われていた。
 一般的な全身鎧や外骨格などとは異なり、体表を這うようにして覆う事で身体の形状がよく分かるそれは、まるでアポ朗が前世で着用していたパワードスーツやボディースーツの類を彷彿とさせる近未来的な造形をしていた。
 ただ伸縮性の高い特殊素材で造られてはいるが大きく形状変化する事の無いパワードスーツなどとは異なり、アポ朗を包んでいる鬼珠製全身防具は形状を自在に変化させる能力を秘めていた。
 表面の色合いは流動して常に変化し、今も肩甲骨の辺りから鬼珠と同色の副腕が形成され、四本腕の鬼となっている。

 こうなったのも鬼人ロード達が持つ鬼珠オーブが、それぞれ個体によって異なるからだ。
 熱鬼ならばルビー色の炎が噴き出すフランベルジュ、風鬼ならばエメラルド色の装甲を持ち風を纏ったロングブーツ、というように、個々の戦闘法に適した武具へと変化する。

 それがアポ朗の場合は、全身防具という形で現れたのだ。
 ただアポ朗の鬼珠の本質は、防具であると同時に千変万化する武器だという事にある。

 穂先に付着していた肉を全て喰べ終えたアポ朗は、手にしていた朱槍と呪槍を持つのではなく、銀腕と鬼珠の形状を変化させて倍ほど肥大化した前腕部に固定した。
 そうして出来上がったのは、アポ朗が前世で愛用していたパイルバンカーを彷彿とさせるモノである。

 二槍を固定する事でこれまでの様な技巧を凝らした戦闘方法はやり難くなるだろうが、しかし射出機構を鬼珠と銀腕で代用する事により、穿杭となる朱槍と呪槍を高速で撃ち出す事が出来る鬼甲式パイルバンカーとでも言えるそれは、こと攻撃力や破壊力という面において、手にして戦うよりも遥かに優れていた。

 ただ手の動きを邪魔させない為に穂先が丁度手首の辺りに来る様に調節されている事で、余った残りの部分が長くて邪魔になり、非常に使い勝手が悪そうではある。
 だが、そんな欠点もアポ朗からすれば問題にもならない様だ。

『オオオオオオオオオオッ!』

 両腕に鬼甲式パイルバンカーを装備したアポ朗が、【告死鬼の奪命声デスペラード】による咆哮を上げた。
 聞いた生物の命を狩猟する音の死神が周囲を奔る。
 だがそれは灼誕竜女帝の命を奪うには力が足らず、それに加えて状態異常バッドステータスを与える事はなかった。
 攻撃という意味では、意味の無い咆哮だっただろう。

 だが灼誕竜女帝の竜血を【血餓の吸血鬼ブラッドヴァンパイア】によって取り込み、自身を強化させたアポ朗の吶喊とっかんに勢いを与えるという効果はあった。
 高熱によって蒸発して生じる血煙を置き去りにして、直進時に速度を飛躍的に上昇させる【黒王狂進】なども併用したアポ朗の吶喊は、音すら遥か後方に置き去りにして灼誕竜女帝に迫った。

「シャァッ!」

 だが灼誕竜女帝も黙ってそれを見ている程弱くはなかった。
 アポ朗の吶喊に合わせ、裂帛の気合と共に右前腕による薙ぎ払いを繰り出した。
 竜翼腕と異なり、常に巨躯を支え続ける四肢での一撃だ。その破壊力は余りにも凄まじく、大気は爆ぜ散り、音は後からやって来る。
 備わる巨大な五竜爪の切れ味は鋭く、例えアポ朗の鬼珠とて容易に防御は出来ないだろう。
 一撃必殺の薙ぎ払いに挑む無謀な特攻とでも言うべき交差は、一瞬にも満たない間に終わった。
 巨大な五竜爪がアポ朗を容易く切り裂き粉砕する、かに見えた。

 だがアポ朗はそれを完全に見切り、完璧なタイミングで跳躍する事で紙一重で回避する事に成功した。もし僅かにでも遅れれば、あるいは躊躇していれば、アポ朗の肉体は微塵に粉砕され、血煙と化していただろう。
 だがアポ朗は見事に回避して、目の前に伸びる、胴体に続く右腕の道を止まることなく疾走する。
 その際、足底部の鬼珠は無数の鋭利な刃物に変形し、特徴的な斬足跡を刻んでいった。
 【物理ダメージ貫通】や【大斬貫強化】などによる合わせ技によって僅かではあるが、しかし確実にダメージを与える疾走は、アポ朗が目的地に到着した瞬間に一時途切れる。

『オオオオオオオオオオオオオオッ!』

 これまでの勢いを一切減衰させる事なく、アポ朗は朱槍が備わる右腕による殴打を繰り出した。
 足先から膝に、膝から腰に、腰から背中に、背中から肩に、肩から拳にと各部位で加速し増幅されていった螺旋の力が集約されたその一撃は、灼誕竜女帝の竜鱗を容易く貫き、竜殻を見事に砕き、肉や骨にまで痛打を与える一撃である。
 だがそれでは足りない。灼誕竜女帝の命にまで届く一撃ではない。
 例え【血餓の吸血鬼ブラッドヴァンパイア】や鬼珠などによって身体能力を引き上げても、やはりそもそもの大きさが違い過ぎるのだ。
 先の攻撃が通り、竜翼腕を切断できたのも気の緩みがあればこそ。
 膨大な魔力まで使い防御を固めている現状では、この攻撃を耐えた直後、致命的な反撃が来るのは自明の理だった。

 だからこそ、アポ朗は行使する。

 無数のアビリティを合成して出来た【黒覇鬼王の金剛撃滅】と、【黒覇鬼王の蹂躙暴虐】の二つのアビリティを。
 行使した瞬間に拳は物質干渉できる巨大な幻影を纏い、アポ朗の身体能力は桁違いに向上した。

『オオオオオオッラア!』

 アポ朗の剛拳が、灼誕竜女帝の腹部に直撃した。
 その瞬間、先の隕石が着弾したかの様な轟音と衝撃と、そして大蛇の様な雷撃が発生した。

 腹部を捉えたアポ朗の一撃は凄まじいを越えて、最早有り得ないと表現するしかないだろう一撃だった。
 アポ朗はその一撃で、自身の何十倍もある泰山の如き巨躯と何百倍もある質量で構成された灼誕竜女帝を、数十メートルも殴り飛ばしたのだ。

 殴打された部分は大きく凹み、大量の竜鱗は剥離するか埋没し、強固な竜殻は容易く砕け散り。
 拳の直撃と共に迸った大蛇の様な雷撃によって肉は焼かれ、無数の傷口からは竜血が吹き出した。
 竜殻などにも負けない強度を誇る竜骨までもが鈍い音と共に砕かれ、幾つかの内臓は破裂した。

 あまりにも予想外の痛打に、灼誕竜女帝は声も上げる事が出来ずに驚愕するが、しかしまだ攻撃が終わってはいなかった。

「い、いつの間にッ!?」

 気がつけば黄金糸が灼誕竜女帝の身体に付着していた。
 糸を辿っていくとたどり着くのは、既に間近に居たアポ朗である。アポ朗は殴打する事で生まれた距離を、黄金糸を使って即座に埋めたのだ。
 灼誕竜女帝は反撃に出ようにも体勢が崩れている為即座に攻撃できず、魔力を集中して局所の防御力を上昇させる事しか間に合わない。

 肩甲骨の辺りから伸びる副腕の指先から放出された黄金糸を手繰り寄せ、灼誕竜女帝の右肩に相当する場所に張り付いたアポ朗は、今度は両腕の鬼甲式パイルバンカーによる攻撃を繰り出した。
 秒間十連発という驚愕的な速度で射出と再装填を繰り返す鬼甲式パイルバンカーは、破壊力の一点集中により分厚い装甲を持つ敵を穿つ為に猛威を振るう。
 排気と共に撃ち出されるのが【大斬貫強化】の効果を付与された朱槍と呪槍という事もあり、その穂先は灼誕竜女帝を穿つ鋭さを秘めている。

 だがアポ朗は念には念を入れて、【職業・槍術師】の戦技【槍葬蓮華】を加算した。
 朱槍と呪槍には殺意の篭る赤い燐光が宿り、速く力強く撃ち出されていく。

[アポ朗は戦技アーツ【槍葬蓮華】を繰り出した]

 【連続突き】や【千槍百華】など槍による連続攻撃を放つ戦技の中でも上位に位置するだろう【槍葬蓮華】は、一撃一撃の威力や速度を向上させた。
 そして更に上乗せされたアビリティ【千槍百華】や【連続突き】、そして【三連突き】などによって、その攻撃速度や攻撃力や攻撃範囲は、鬼甲式パイルバンカーが単独で出せる性能の約数十倍という驚異的なモノにまでなっていた。
 竜鱗や竜殻をまるで紙の様に容易く穿てる様になっていた朱槍と呪槍を撃ち出す鬼甲式パイルバンカーは、まるでプリンを掬うスプーンの様に、一瞬で灼誕竜女帝の肉体を抉る凶悪極まる攻撃となる。

 生きたまま肉体を抉られるだけでなく、より奥へ奥へと肉体が掘削されていく感覚に、流石の灼誕竜女帝も恐怖を感じたのだろう。
 恐怖が混入された事でより力強い、万物を消し飛ばしそうな咆哮を発した。

「ガアアアアアアアアアアアアアッ!」

 咆哮が凄まじいまでの衝撃と共に駆け抜けると、灼誕竜女帝の全身を流れる魔力が変異し、一瞬で灼熱の鎧となった。
 隕石や溶岩の時よりも高熱であるその灼熱の鎧を、流石のアポ朗も危険と判断したのだろうか。
 肉体が焼かれる前に、大きく後方に跳躍する事で距離を取る。
 ただ距離を取りながらでも、根元を抉り取られた事で千切れて転がっていた右腕の回収をした早業は流石の一言だろう。

 距離をとり、両者僅かに睨み合う。
 アポ朗は回収した灼誕竜女帝の極上の肉体の一部を喰みながら。
 灼誕竜女帝は恐怖を怒りに転じさせ、全身を猛る灼熱に包みながら。

 交わさせる視線には魔力が乗り、両者の中間地点では空間すら歪む程の力場が形成されていた。

「ふは、ふははははッ
 恐るべし、恐るべし者よの。まさか我の肉体をこうも容易く破壊する力を持つとは。そして我の血肉を得る事で力を増すとは、これを恐れずして何を恐れよというのかッ」

 竜翼腕を全て切り落とされ、右腕まで失った灼誕竜女帝だが、既に再生は始まっている。
 元々備えた規格外の再生能力だけでも凄まじいのだが、それに加え、【炎熱耐性】を超えた【炎熱完全耐性】を上回る【炎熱無効化】よりも更に上位に位置する【炎熱吸収】を使い、周囲の溶岩などから大量の再生エネルギーを取り込む事によって、再生速度は飛躍的に加速した。
 環境特性も灼誕竜女帝の再生を手助けした事で、傷口から肉が溢れてうねうねと蠢き、目に見えて治っていくその様は、思わず息を飲む程に凄まじく、生々しいモノだった。

 対して、アポ朗はあえて灼誕竜女帝の再生を見逃す代わりに、戦況をより優位に進める為に、奪った灼誕竜女帝の右腕を喰らう事でその力を増していく。
 溢れ出る様な力を全身に漲らせ、確実に灼誕竜女帝との間に在った、隔絶された差を縮めていく。
 力を得るに伴い鬼珠の形状も変化していく事もあり、まるで刻一刻と進化していく様な劇的な変化であった。

 そして十数秒と経たずに灼誕竜女帝の再生が終わり、自身の体積を超える量をその僅かの間に喰らったアポ朗は、再び衝突する。

 体格差は歴然なれど、互角に戦える程には拮抗し。
 攻撃の一つ一つが地形を変化させていく。

 命を削り合う両者の戦闘は、まるで神話の如き激闘だった。



 =====



 戦い始めたのがやや遅かった事と、灼誕竜女帝の体力とか再生力が桁違いすぎて、日をまたいで戦い続ける事になった。
 正直、一鬼で来るんじゃなかったと思う。
 食欲に負けた、少し前の自分を殴りたい。
 いや、しかし、灼誕竜女帝の血や肉は一口で天にも昇るかという程美味く、それを含めてプラスとマイナスで考えると、ややプラスになるのではないだろうか。

 血は濃厚でありながら繊細で、心地よい芳醇な香りをしていた。まるで長い時を経て熟成された極上のワイン、といえば、少しは想像できるかもしれない。
 肉は口に入れて一噛みするとまるで弾けた様に肉汁が溢れ出し、脳髄に直接電流を流された様な衝撃と共に肉体はこれまでに無い程力強く漲った。
 一口食べただけで、疲労が吹き飛びそうな程だ。

 正直、これまでのとは桁が違う。
 何かと比べるのさえ傲慢だろう。灼誕竜女帝の肉とは、それ程の絶品だったのだ。


 “二百四十五日目”
 外はもう太陽が沈もうとしているだろう時間帯。
 決戦場からは太陽の姿を確認できない為正確ではないが、恐らく一日以上は続いていた灼誕竜女帝との激闘は、何とか終了を迎えた。

 生きている事から分かるだろうが、今回は俺が勝った。
 だが俺だけの力で勝てた、とは正直言い難い勝利となった。

 というのも、終盤頃、俺と灼誕竜女帝の戦闘が長時間続いた事で完全回復し、しかも全員が【存在進化】したらしいカナ美ちゃん達八鬼が決戦場近くまで降りてきて、上空から合体攻撃【滅撃・八鬼殲陣】を放ったからだ。
 その威力は全員が進化していた事もあってこれまでの比ではなく、灼誕竜女帝の胴体に巨大な風穴を開ける程の威力を備えていた。
 俺が逆鱗を砕いて弱体化させていたとは言え、そのダメージは勝敗を分けるのには十分過ぎた事もあり、仕留める切っ掛けになったのは間違いない。
 自力で討伐を達成できなかったのは悔しいが、援護が無ければ逆の結果になっていた可能性は高いので、感謝こそすれ、文句を言うつもりはない。
 何事も、命あっての物種だ。死んでしまえば、この極上の血肉を楽しむ事も出来ない。
 だから苦労した分だけ、ジックリと堪能させて貰おうか。

 そう思いながら指一本動かす事すら困難を極め、魔力の枯渇により“魔力欠乏症”を発症する一歩手前の満身創痍で半死半生な状態である俺は、横たわる灼誕竜女帝の死体を寝転びながら見つめてみた。

 灼誕竜女帝との戦いは、俺が転生してからした事のない、初めての総力戦だった。
 降下時に予め【重複存在】を使って同一の存在を生み出して潜ませ、即死攻撃をされても【存在復元】により復活出来る様に仕込んでいたし、切り札として使っていなかったアビリティを全て使用し、鬼珠まで開放した。

 それでも何とか互角にまで持っていくのが限界だったというのだから、本当に恐ろしい話である。
 【存在復元】が無かったら、俺ですら十数回は殺されていただろう。
 保険をかけておいてよかった、と終わってから心底思う。

 それにしても、【炎熱吸収】で再生エネルギーの確保が間に合わなかったら脱皮して完全回復するとか、過去ここで果てた【英勇】達を“亜竜人デミ・ドラゴニュート”として再誕させるとか、灼誕竜女帝の性能は色々と酷いと思う。
 絶対に攻略されまいと、ここを造ったという【再誕の神】の意地が見え隠れする程だ。

 一応今回の一件で使い勝手の悪かった【■獣の守護領域】が【神獣の守護領域】に変化し、その能力の全てを扱える様になったので、似た様な相手が居ても今回よりは楽に戦えるとは思う。

 とはいえ、できれば灼誕竜女帝と同等の存在とはしばらく戦いたくないものだ。
 個人的には灼誕竜女帝を全て喰い尽くした後くらいが丁度いいと思っている。

 などなど、その他にも色々と思う事はまだまだあるが、今は意思を保つ事すら億劫になったので、グッスリと泥のように眠ろう。
 考えるのは目が覚めてからでいいし、その時に腹いっぱい喰ってやる。などと、そんな事を思いながら俺は泣きながら近づいてくるカナ美ちゃん達の気配を捉えながら安心して意識を手放し――



 [ダンジョンボス[灼誕竜女帝アーダーマザー・エンプレスドラゴン・ムスタリア=イグナトスの討伐に成功しました]
 [神迷詩篇[フレムス炎竜山]のクリア条件【女帝撃破】【炉心融解】【領主抹殺】が達成されました]
 [達成者全員に特殊能力スペシャルスキル【神獣討伐者】が付与されました]
 [達成者全員に特殊能力【竜炎の理】が付与されました]
 [達成者全員に初回討伐ボーナスとして宝箱【女帝の宝骸】が贈られました]
 [攻略後特典として、ワープゲートの使用が解禁されます]
 [ワープゲートは攻略者のみ適用となりますので、ご注意ください]

 [詩篇覚醒者/主要人物による神迷詩篇攻略の為、【再誕の神】の神力の一部が徴収されました]
 [神力徴収は徴収主が大神だった為、質の劣る神の神力は弾かれました]
 [弾かれた神力の一部は規定により、物質化します]
 [夜天童子は【再誕神之竜宝玉イグナトス・フォルナ】を手に入れた!!]


 近くに何かが出現した気配があった。
 宝箱か何かが出たのだろうが、身体が動かせないので実物は確認できない。


 [夜天童子の未開放だった特殊能力【■■■■】の開放条件【亜神迷宮制覇】並びに【神迷宮制覇】のクリアにより、【■■■■】は開放されました]
 [夜天童子は特殊能力【迷宮略奪ダンジョン・プランダー】を獲得した!!]
 [特殊能力【迷宮略奪】の効果により、制覇済み迷宮を手に入れる事が出来る様になりました]
 [条件適合により、[フレムス炎竜山]を略奪可能です。略奪しますか?
  ≪YES≫ ≪NO≫]


 えー、と。
 なんぞこれと思いつつ、取り敢えず≪YES≫で。


 [特殊能力【迷宮略奪】が発動しました。現時刻より[フレムス炎竜山]の支配権は【再誕の神】から夜天童子に移行しました]
 [以後、迷宮の調整は任意で行ってください]

 え、いいのこれ? ありなのこれ?
 と思うが、それ以上考える余裕は既に無く、意識の大半は既に闇に飲まれ――


 [レベルが規定値を突破しました。
  特殊条件≪帝王殺害≫≪英勇殺害≫≪単鬼殲滅≫≪規格越境≫≪大神宣言≫≪神迷制覇≫をクリアしているため、【破滅鬼王ディストラクションキング超越種スペリオリシース】に【存在進化ランクアップ】が可能です。
  【存在進化】しますか?
  ≪YES≫ ≪NO≫]


 あ、これは迷いなく≪NO≫だ。
 現在の使徒鬼アポストルロードでもやり方次第では灼誕竜女帝クラス相手でも戦えると分かったし、何よりアビリティがこれ以上ラーニングし難くなるのは、本当に避けたい。
 だから、【破滅鬼王・超越種】とか色々気になる所ではあるが、≪NO≫を選択した。


 [≪NO≫が選択されました]
 [他の選択肢が表示されます。
  特殊条件≪帝王殺害≫≪軍団統括≫≪領土建立≫≪規格越境≫≪大神宣言≫≪神迷制覇≫をクリアしているため、【征服鬼帝コンクエストエンペラー・超越種】に【存在進化】が可能です。
  【存在進化】しますか?
  ≪YES≫ ≪NO≫]


 他にも選択肢があるのかよッ! いや、選択肢なんだから他にもあるよな、冷静になって考えてみれば!
 と思わずツッコミつつ。
 これも≪NO≫を選択した。鬼王を蹴って、鬼帝になる理由も無いからだ。


 [≪NO≫が選択されました]
 [他の選択肢が表示されます。
  特殊条件≪帝王殺害≫≪帝王因子≫≪多神内包≫≪神因適合≫≪■■■■≫≪■■■■≫≪■■■■≫≪■■■■≫をクリアしているため、【金剛夜叉鬼神ヴァジュラヤクシャ・オーバーロード現神種ヴァイシュラシーズ】に【存在進化】が可能です。
  【存在進化】しますか?
  ≪YES≫ ≪NO≫]


 え? なにこれ。鬼王や鬼帝だけでもどうかと思うのに、鬼神オーバーロードとは、色々と何かぶっ飛んでるのが出てきたぞ。
 【直感】に従うのなら≪YES≫になる。だが、アビリティを考えると≪NO≫の方がいい。
 悩む。悩むが、眠いので悩むのも面倒だ。
 今回は、【直感】に従う事にした。
 ≪YES≫を選択して、そこで力尽きて寝た。


 [夜天童子の特殊能力【迷宮略奪ダンジョン・プランダー】が条件【現神位階】によって変質しました]
 [夜天童子は特殊能力【迷宮略奪・鬼哭異界】を獲得した!!]

 [夜天童子が【現神位階】した事に伴い、【鬼■の正妻】は【鬼神の正妻】に、【鬼■の権妻ごんさい】は【鬼神の権妻】に更新されました]
 [称号【鬼神の正妻】並びに【鬼神の権妻】所持者の恩寵が正常となりました]

 [夜天童子の未開放だった特殊能力【■■■■】の開放条件【現神位階】のクリアにより、【■■■■】は開放されました]
 [夜天童子は特殊能力【世界の宿敵ワールドエネミー飽く無き暴食ザ・グラトニー】を獲得した!!]





 “二百五十日目”
 とても長い間、夢を見ていた気がする。
 それは何かと戦う夢だったのか、あるいは懐かしい誰かと再会した夢だったのか。
 何か大事な事を聞いた気もするが、しかしその詳細が思い出せない。
 まあ、所詮は夢だ、目が覚めればあやふやになって忘れてしまうのも仕方ない。

 夢について考えるのは中断して、今は現状について考えよう。  

 目が覚めた俺がまず見たのは、黒と赤と金と銀が混ざった独特の色合いの何かだった。
 触れてみると生暖かいそれは弾力があり、見た目は金属の様なのだが、何かの体内にいるような感覚にさせられる。だが嫌な気配はせず、むしろ心地よくすらあった。
 まるで卵の殻の様に俺を包み、守ってくれているこれが何か少し考え、すぐに気がついた。
 なにせ、俺の鬼珠である。よく見れば細い糸の様なモノが俺の身体から伸びていた。
 黒と赤と金に新しく銀色が混じっていたので理解が遅れたが、これは俺が進化した事で鬼珠も変化したからに違いない。
 色の変化はそれでいいとして、何故こんな事になっているのだろうか。
 多分、全身に重傷を負ったまま眠った俺が安全にかつ早く治る環境を整える為に、無意識に造ったのだろう。
 それが真実かはハッキリとしないが、まあ、どうでもいい事だ。生きているのだから問題ない。
 さっと確認しただけだが、身体に異常はないのだからさっさと外に出る事にした。

 殻を形成している鬼珠を取り込んで外界に出ると、周囲は寝る前と変わらず決戦場だった。
 だが、様子が大きく異なっている。

 まず目に付くのは泰山の如き灼誕竜女帝の死骸が、紫紺色の魔氷によって氷漬けにされている事だろうか。
 魔氷は非常に分厚く、溶かす事も砕く事も困難を極めるだろう。
 一瞬誰がこれを成したのか疑問に思ったが、魔氷を形成している魔力はカナ美ちゃんのモノと酷似している事が分かった。
 カナ美ちゃんの事だ。俺が目覚めるまで灼誕竜女帝の死骸を保存する為に氷漬けにしてくれたのだろう。
 相変わらず気が利く嫁である。
 その気遣いに感謝しつつ、決戦場周囲に満ちる溶岩に目を向ける。
 そこには変わらず高熱を発しているが、表面が冷めて黒ずんだ溶岩がある。強力無比な魔氷の塊が中央に設置されたからか、あるいは俺がここの主となってしまったからか、どうやら溶岩は以前の様な活発さを失った様だ。
 一応熱い事は熱いが、以前と比べれば涼しささえ感じるだろう。
 【存在進化】した事もあり、今の俺なら裸体を晒していても、長時間いてやっと黒く焼けする――元々黒いので、あくまでも例え――程度である。

 ざっと周囲を確認した後は、改めて身体の変化を確認した。

 身長は二メートルよりも若干伸びている感じはあるが、腕や足の太さなどは大きく変わっていない。
 だが全身に満ちる力は以前とは比べモノにならないだろう。天地の差すらありそうだ。
 試しに軽く拳を振るってみると凄まじい烈風と無数の雷撃が生じ、遠く離れた岩壁の一部が爆散した。
 今度は足を軽く振り上げてみると同じく烈風と雷撃が生じ、遠く離れた岩壁に残痕と爆撃痕が生じる。
 どちらも通常弱攻撃とでも言えそうなモノなのだが、中々の破壊力である。これならアビリティ無しでも大半のモンスターは相手にすらならないのではないだろうか?
 それにしても、軽くやってこれだけの威力だとすると、本気で動けばどうなってしまうのだろうかと不安にさせられる。
 普通に生活するには、まず何を置いても手加減を覚える必要がありそうだ。
 そんな感じに過剰なほど向上した身体能力に追随する様に、各種アビリティもランクアップに伴い大幅に成長しているようだ。
 小腹が空いたので【大悪魔精製】を使ってブラックトーラスデーモンを精製してみたのだが、精製速度は大幅に短縮され、消費魔力も即座に回復できる程度になっているだけでなく、装備や能力面も大きく強化された個体が出てきた。
 他の【生成】系は試していないが、この調子なら更に使い勝手がよくなっているだろう。
 いい感じだと思いつつ、ブラックトーラスデーモンをバリバリと食べながら、全身を走る黄金色の刺青に指を這わしてみる。
 すると刺青が微妙に変化した。
 何故変化したのか気になって弄っていくと、特定の紋様にする事で攻撃力上昇など様々な効果を発揮するらしい事が分かった。
 これは後で精査しようと思いつつ、今は他の事を調べていく。
 頭部に生えていた三本角だが、それは五本に増え、より太く鋭くなっている。やや湾曲しながらも天を突くように力強く伸びる鋭角は、まるで宝冠の様にも見えるだろうか。
 使徒鬼時代の頭髪は銀に近い灰色だったが、現在は白銀色に変わっている。長さは変わらず腰まで伸びているので、それは黄金糸で括って尻尾の様に背後に流す。
 血の様に紅かった瞳は黄金色に変わっていたが、それ以外の容姿は特に変わっていないようだ。
 変わらず無駄に迫力がありすぎると思うが、まあそれはいいとして。
 驚くべき事に、腕が四本に増えていた。肩甲骨から腋窩の辺りに出来た新しい腕は、違和感もなく動かすことができる。新しく出来た腕は微妙に長い様なのだが、普段は腕を組んでおけば邪魔にもならないだろう。
 そして左腕だけだった銀腕が、その範囲を増大させていた。右腕だけでなく、新しく出来た二本腕にまでだ。
 つまり現在の俺は四本腕が全て銀腕に変わっていた。しかも右腕に装備していた【孤高なる王の猛威エグルサ・プル】まで取り込んでいる様で、以前の銀腕よりもより強化されている。
 これは非常に有難い強化だった。
 なにせ、外骨格を装備する事で【孤高なる王の猛威エグルサ・プル】が装備できず、装甲を破壊されて生身になった右腕は灼誕竜女帝のブレスによって焼失してしまったが、これでその心配も無くなった。
 鬼神になっても変わらずある鬼珠だが、その色は先ほど言った様に黒と赤と金と銀が混ざった様な独特の色合いをしている。
 埋まっている場所は胸部と両肘両膝に加え、両手の甲と臍、それから肩甲骨の中心辺りとなっている。
 増えた肩甲骨の鬼珠は両方にあるので、鬼珠の数は総数十個だ。五個でもかなり多かったのだが、それより倍も多いこれを開放すれば、どんなモノになるのだろうか。
 以前の鬼珠でも非常に強力だったのだが、金剛夜叉鬼神となった現状、使う必要に迫られる相手がいるのか、ちょっと気になった。
 気がつけば装備していた生体防具は、以前のズボンに加え、ゆったりとした羽衣の様な上着が追加されていた。
 肌触りが心地よく、黒地に金と銀の装飾が施されたそれは何処か和服に近いデザインをしている為、個人的に気に入っている。
 上着は重さを感じないほど軽く、動作を邪魔しないだけの余裕がある。そして俺がどんなに引っ張っても千切れる気配すらない事から、防具としては非常に頼りになる。
 これ以上のモノを探すとなると、かなり難しいだろう。

 他に変化はないだろうかと思い、身体を動かしていると、背後から声が聞こえた。
 振り返ると、そこには息を切らせたカナ美ちゃんが居た。

 直前までは確かに居なかったのだが、足元に青白い光を放つワープゲートがある事から見て、転移してきたのだろう。
 俺が覚醒したのを察知して、速攻で飛んできてくれたらしい。

 そんなカナ美ちゃんは、【存在進化】した事でより美しくなっていた。
 その肌は汚れ一つ見当たらず、処女雪の様に純潔だ。流れる髪は艶やかで、枝毛など一つも見当たらない。ほっそりとしなやかな四肢の動きは洗練されたモノで、動作の一つ一つが気品に満ちている。
 くびれた腰は抱き心地が良さそうであり、大きすぎず小さすぎない双丘は形も良く、非常に柔らかそうだ。
 桜色の唇は艶美で、澄んだ双眸に見つめられれば鼓動は自然と早まるだろう。
 ただ立っているだけで周囲を支配する様な気配は芸術的でさえあり、異性どころか同性ですら見惚れずには居られないに違いない。

 そんなカナ美ちゃんが、まるで真珠の様な涙を流しながら両手で口元を隠し、小刻みに震える様子は可愛らしくも綺麗だった。
 思わず見とれてしまっても、何ら可笑しい事ではないだろう。

 惚れ直していると、カナ美ちゃんが突っ込んでくる。
 その速度は凄まじく、軽く音速を超えていた。無造作に衝撃波を撒き散らす砲弾の如き抱きつきを、四本の銀腕を広げてしっかりと抱き止めた。
 正面から受ければ吹き飛ぶか胴体が千切れるかしただろう攻撃的な抱きつきも、今の俺なら不動のままに受け止められる。

 むしろ抱き止めた事でカナ美ちゃんに怪我をさせる事こそ恐れたが、どうやらその心配は無用らしい。
 本気で抱きしめない限りは、現在のカナ美ちゃんなら余裕で耐えられるようだ。

 抱きしめて密着した事で鼻腔をくすぐるカナ美ちゃんの匂いは俺の欲望を刺激しまくるのだが、本気の涙を流しながら色々と文句を言われると、流石に欲望に従う訳にはいかないだろう。
 ドドドドドドドドドスンと凶悪的な音を発する絨毯爆撃の如き連打を胸に浴びせられるが、それは心配させた報いであるとして受け入れつつ、慰めながら許して貰うために言葉を紡ぐ。
 しかし中々許してくれない。かなり拗ねている様だ。

 灼誕竜女帝との戦いから数日が経過している事と、その直前に見た俺が肉体の大半が消し飛んでズタボロな死にかけの状態だった事、そして殻に包まれて治っていく様子すら見る事が出来なかった事で、かなり心配させてしまったらしい。

 つまりカナ美ちゃんの心配は積み重なり、今に至って爆発している、という事である。
 だから皆の所まで向かう事はせず、骸骨百足を取り出して邪魔者が来ても姿を見られない拠点を造り。
 中に入ってそのまま夜戦に突入したのは、許してもらう上で不可避だった。

 カナ美ちゃんは、早く子が欲しいそうです。





 第三章 迷宮商売 海の幸を求めて編 終了。

 閑話の後、

 第四章 救聖戦線 世界の宿敵放浪す編 に続く。




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